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※ルサーナ視点

 奴隷と呼ばれる存在の事を知っていた。

 お母さんとお父さんに「獣人は珍しいって理由で捕まえられる事がある」ってそれらしい事を聞いていた。

 だけれどもまさか、自分が奴隷なんていう立場になるなんて思っても居なかった。それも、住んでいた村が襲撃にあい、親しいものが皆どうなったかわからない状態で、捕まるだなんて。

 そう、襲撃された。

 穏やかな村だったのに。

 とっても優しい人たちが沢山いた村だったのに。

 同じ獣人の盗賊崩れの男たちが、襲ったのだ。殺されたもの、盗賊のアジトで生活をするように強いられるもの、売られるものがいた。

 そう、私は盗賊たちによって売られたうちの一人だった。他にも売られた仲間がいたはずだが、別々の場所に売られたのか周りに知り合いはいなくなった。

 私が反抗的な態度をとっていたからだろう。全然買い手は見つからなくて、私は奴隷商の間を行き来する事になった。人間はあんまり見た事がなかった。だから人間の奴隷商に人間の住まう場所に連れて行かれた時はどうなるのか不安で怖くて仕方がなかった。

 どうなるのかわからない恐怖。

 家族や大切な人たちがどうなったかわからない悲しみ。

 よくわからないけれど、奴隷って立場は主人が違えば本当に違うのだと聞いた事がある。人間の中には、酷い人も沢山居るって聞いてたから人間にだけは買われたくなくて、一層私は暴れ、自分は危険だって態度をだした。だってそうすれば、よっぽどの人間じゃなければ私を買わないと思ったから。


 ――でも私は買われた。

 それも私よりもいくつか上だろうまだ幼い子供に。




 連れて行かれた先は豪邸だった。着飾っていたからそうだとは思っていたけれども、やっぱり貴族だ。

 言葉も通じなくて、どうして自分が買われたかもわからなくて不安だった。

 私が獣人で危険だって事も知っているはずなのに鎖は取られた。名前を聞かれて応えたけれど、私を買った子は笑顔で私を見ていて、逆にその様子が怖かった。――何を考えているかわからなかった。

 こんなに綺麗な部屋で放置されて、これから何か大変な事をやらされるんじゃないかって怖かった。

 怖くて、逃げ出そうとした。でも電撃を流されて、また捕まった。

 これからどうなるんだろうって、一層怖くなった。

 けれど、次の日。次の日に獣人の言葉を話せる人がやってきた。

 それは学歴の高そうなご老人だった。元々は茶色だっただろう髪は色が薄れてきている。眼鏡をかけたその人は、どうしてこの女の子が私を買ったのか教えてくれた。

 私を買った人、私の主人になった少女はエリザベス・ナザントという公爵家の長女なのだという。

 そしてこの人は自分だけが使える兵士が欲しいのだと。

 だからこそ、身体能力の高い獣人の私を買ったのだという。

 その理由に納得は出来るけれども、どうして私よりもいくつか上のお姉さんがそんな事をしようとするのかわからなかった。

 私を買った人、エリザベス様は血のように赤い髪を腰まで伸ばした人だった。つり上がった目はきつい印象を見るものに与えるだろう。正直、私はこの人が私を悪い事に使うのではないかと怖くなった。悪い事はしたくない。でも私はこの人の奴隷だからしなくてはならないのかもしれないと思うと絶望した。

 学者さんの話が終われば、エリザベス様が話し始めた。それを学者さんが通訳してくれるみたい。

 「私はエリザベス・ナザント。貴方の主人になりますわ。ルサーナ、よろしくお願いしますわ」

 エリザベス様はそういって、礼儀正しく礼をした。奴隷相手にそんなことするのだと驚いた。

 「私は私だけの兵がほしい。だから、貴方にはこれからリュトエントに剣術を習ってもらいます。他にも戦い方を。様々な場合対応できるように。それとこちらの言葉、こちらの文化など教えるから覚えてください。きちんとそれらを学んでくださるなら自由に過ごしてくださって構いません。ほしいもの、やりたいものがあるならばできる限りやらせるようにしましょう」

 エリザベス様は続ける。

 「でも、使えないと判断したならば私は貴方をもう一度売り払うなり、処分するなりするでしょう。私も折角買った奴隷をそのようにはしたくないのです。ですから、せいぜい私に捨てられないように頑張ってくださいませ」

 優しく微笑んでいたのが一変した。この人はやっぱり冷たい人なのだとちょっと怖かった。

 「……それと、昨夜のように逃げようとするのは許しませんわ。貴方は私が買ったのです。よって私の所有物です。きちんと私の言う事を聞いてくださるのなら悪いようにはしませんわ。でも、きちんと言う事を聞いてくださらないのでしたら貴方を罰しますわ」

 それで、エリザベス様の話を終わった。



 それから、私のナザント家での生活が始まった。処分とか、そういうの嫌だから必死に頑張ろうって思った。




 *


 必死に色々教わった。

 言葉や文化などは獣人の言葉を話していた学者さんクラウンド先生が教えてくれた。

 剣術や戦い方はこの家に仕えているらしい騎士のリュトエントさんに教わった。

 エリザベス様はこちらが真面目に取り組んでいれば、本当に何も理不尽な事はしなかった。むしろ笑顔で、「頑張っているようね」って褒めてくれた。

 見た目から冷たい印象を感じられるけれどもエリザベス様はどちらかと言えば優しい人だと思った。ただ、やらなきゃいけない時に容赦なく冷たく出来る冷たさをもっているだけだ。

 ――……私が電撃を流された事を見ていたらしいエリザベス様の妹様が「お姉様にいじめられたらいって、助ける!」って涙目で訴えてきたのには困った。確かに電撃を流されたところを見ていたらいじめとかに思えるかもしれないけれど、エリザベス様に買われた身で、逃げ出した私も悪いのだ。そう伝えたかったけれど、まだ人間の言葉がきちんと話せなくて説明出来なかった。

 クラウンド先生を通して、エリザベス様に「誤解されてます」と伝えれば、エリザベス様は「それでいいのよ」といった。よくわからなかった。家族に誤解されるのがいいなんて。詳しくは説明してくれなかったけれど、エリザベス様に「誤解は解かなくていい」とそんな風に言われた。

 私も一生懸命色々覚えようとしていたけれど、エリザベス様は私以上に誰に強いられる事もないのに勉強していた。あらゆる事を。

 ただ机の上で勉強するだけではない。ナザント領をお忍びで見に行ったり、そしてその先で伝手を作って情報を集めたり――、奴隷の私が心配になるほど一生懸命で、休む暇もなく、ずっとずっと勉強していた。息抜きをしなければ大変な事になるんじゃないかって不安になるぐらいだった。

 ギル様っていうエリザベス様の友人が来た時は、安らいでいるみたいだったけれども他ではずっとエリザベス様は気を張っていて、見るからに頑張りすぎていた。

 ああ、何でエリザベス様の妹様は、こんなに何か目標に向かって一生懸命で、頑張りすぎているエリザベス様が意地悪だなんて勘違いをするのだろうか。私に電撃を流したりする厳しい所はあるけれども、それは私を逃さないために必要だと思ったからやった事だろう。必要な所だけ厳しくするだけで、普段のエリザベス様はとっても優しくて、頑張り屋さんなのに。

 ――そして案の定、私の心配は的中して、エリザベス様はある時倒れた。

 領地の様子を見に行こうと外に出た時に。熱が出ていたのに無理して外に出てたらしい。一緒にいたのに、全然気付かなかった。それから三日ほどエリザベス様は寝込んでいたけれど、そういう様子を妹様には一切見せなかった。離れの家でやることがあるからと妹様に合わないようにしていた。どうしてそんな風に妹様と距離を置くのかわからなかった。

 倒れたエリザベス様の元に、エリザベス様のお父様とギル様はすぐに来た。あとエリザベス様にばあやと呼ばれる侍女さんはずっとエリザベス様の傍で心配そうに看病をしていた。

 「エリー、頑張るのはいいけれど頑張りすぎるのはいけないよ」

 エリザベス様のお父様――カヴィア様はそういってエリザベス様の頭を撫でていた。

 「ナザント領を継ごうと必死になってくれるのは私はうれしい。でもそれでエリーが体調を崩しては元も子もない。きちんと体調管理をするのも、領主として必要な事だからね。大事な場面で体調を崩すなんてあってはならないんだ」

 心配しながら、だけれども諭すようにいっていた。

 ギル様は隣の領地の当主の息子らしい。本人も忙しいだろうにエリザベス様が寝込んでいる間、そのあともしょっちゅう心配そうにやってきて、「エリー、無理しすぎ」って無理やりエリザベス様を休ませていた。

 エリザベス様にある時聞いた。

 「……私をなんに使うつもりなんですか」って。

 そしたらエリザベス様は応えた。

 「守りたいものがあるから。もう、二度と失いたくないから」と、そんな風に。

 踏み込んでいいのかわからなくて聞けなかったけれど、多分エリザベス様は私が盗賊たちに平穏を奪われたように、何か大切なものを奪われた事があるのだと思った。

 そして共に暮らす内に、私はエリザベス様の力になりたいと思うようになった。

 頑張るエリザベス様の力に私がなれるなら嬉しいなって思うようになったのだ。

 「――エリザベス様、私の友人が奴隷に居ると思うんです。あの、できれば、その、私と同じようにエリザベス様が買っていただけないでしょうか」

 厚かましいだろうが、数ヶ月が経過した頃、私はエリザベス様にそう願い出た。

 人間の言葉を大分話せるようになり、エリザベス様がどういう人間が大分理解出来たからこその願いだった。それにエリザベス様が自分だけで使える兵を求めている事は知っていたから。

 「ルサーナはよく頑張ってくれているもの。ご褒美としてその願い聞き届けてあげるわ」

 エリザベス様はそういって不敵に笑った。その物言いにちゃんと探してくれるのかなっておもったけれど、エリザベス様は寝る間を惜しんでまで探してくれた。忙しいだろうに、時間を裂いて。

 クラウンド先生がいうには、「エリザベス様は素直じゃないだけで、貴方の事気に入ってますから。再会させてあげたいのでしょう」らしい。確かにエリザベス様は素直じゃない部分あるだろう。何だか思っていることと言っている事が違うっていうか、そういう感じだと思う。



 ――そしてそれからしばらく時間がたって、私は村の友達たちと再会することが出来たのだ。








 

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