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 「エリザベス様、私の教え子を紹介しようと思うのですがよろしいですか?」

 そう、クラウンド先生が告げたのは、紅葉の綺麗な秋に突入してすぐの事だった。

 あれから、一度も町へは降りていない。学園へ通うための準備が思ったよりも忙しい。事前に仕入れておいたほうが良い情報を必死に集めたり、そういうことばかりしている。

 クラリから聞いた話によるとウッカはナグナ様と適度に文通を交わしているようだ。どういう内容のものかは、クラリは知っているらしいが教えてはくれなかった。ただ、困ったように笑っていた。

 クラリはウッカの事を可愛がってくれているらしい。当たり前だ。私の妹はあんなに可愛いのだから、可愛がりたくなる気持ちもわかる。

 「クラウンド先生の教え子ですか?」

 「はい。こちらを訪れるそうなので、良い機会だと思いまして。王宮に勤めているものでして、エリザベス様が将来ナザント公爵家を継ぐというのならばあっておいて損はない相手です」

 クラウンド先生はそういって笑った。あって損はない人だという。それならば、事実そうなのだろう。

 私は、この人を、私に様々な事を教えてくれるクラウンド先生の事を信頼している。

 貴族というものは、難儀なものでそういう風に誰かを信じることはあまりするべきことではないだろう。だけど、私は信じられる人は信じていない。とはいっても、怪しい動きをするものがいたら信じている人でも、疑いはかける必要がある。

 この世界には絶対はありえない。

 絶対ありえない、なんて思っていたことでも事実実際に起きる可能性は確かに存在するのだから。

 クラウンド先生の教え子に会う約束をしたその後は孤児院の子供たちと会った。



 孤児院の子供たちは、とりあえず色々叩き込まれている最中だ。



 平民は基本的に文字を覚えたりもしないけれど、私の手足となって動いてもらう存在なのだから文字ぐらい覚えてもらわなきゃ困るし、最低限色々とできるようになってもらわなきゃ困る。

 だからこそ、そういう教育をしている。

 ハスト、エルナーラ、ヴィヴィ、マッサは孤児院の現状をどうにかしてくれた私に感謝してくれているようだ。というより、私も助けたらこの子たちは私に対して悪い感情を持たないだろうという打算的な思いもあって、この子たちを私の手駒として育てることにしたからっていうのもあるんだけど。

 正直、クラウンド先生の言っていた飴と鞭を私がきちんと使いこなせているのかわからない。けれども、少なくともルサーナたちとは、幾人かの奴隷たちとは少なからず信頼関係は結べていればいいと思う。

 「エリザベス様、これあっている?」

 「ええ、あっているわ。文字をかけるようになったのね、偉いわ」

 「へへん!」

 ハストは褒めて述ばすタイプの子供であった。褒めればその分やる気を出して一生懸命に学んでくれる。それに孤児だから勉強とか全然していなかったみたいだけど、ハストは頭が良いようだ。

 覚えるペースも孤児院から来ている四人の中で一番年下なのに、速い。

 偶然が重なって彼らに出会い、孤児院の事を知って手を差し伸べたけれど私は案外良い拾い物をしたのかもしれない。

 「エリザベス様、ありがとうございます。私たちエリザベス様に会わなかったらどうなってたかわからないですから」

 「お礼はいいわ。私がしたいからしただけだもの。感謝をしているっていうなら一生懸命勉強して私のために働いてくれると嬉しいわ」

 ヴィヴィの言葉に微笑む。何度もヴィヴィはお礼を言うけれども、別にお礼はいらない。私はそれよりも行動で返してほしい。

 そちらの方が私は嬉しい。

 「エリザベス様は、何をしたいのですか? お手伝いっていってもよくわからないのですが」

 「エルナーラ、私は将来、この領地を継ぐの。その時にね、あなたたちに私が領主として働くお手伝いをしてほしいの」

 「そんな、恐れ多い事を私たちが?」

 「ええ。自分の手で教育をしたものたちで周りを固めておきたいの。私は、この領地が好き。だからお父様が立派に収めているこの領地を将来的によくしていきたいし、ダメには絶対にしたくない。そのお手伝いをしてほしいの」

 そういえば、エルナーラはまじめな顔で頷いてくれた。

 エルナーラたちはナザント領の領民で、自分の住んでいる領地をよくしたいって気持ちを言えば、お手伝いを喜んでしてくれると思ったから。もちろん、領地をよくしたいっていうのは、本心からだけでわざわざ口にしたのはそういう気持ちからだ。

 「エリザベス様は、凄いです。僕、頑張ります」

 マッサは私とエルナーラの話を聞いて、目をキラキラとさせてこちらを見ている。

 そういう目で見られると対応に困る。でもどういう視線を向けられても、どういう感情を向けられても平然を保てるようになった方がいい。

 それの練習になるから、私はマッサからキラキラした目を向けられた時、戸惑いの気持ちを表情に出さないように努めた。

 孤児院の子供たちの教育は進んでいる。

 領地経営についても勉強が追い付いている子たちには教えて、もっと使える手駒にする必要がある。学園に入学したら教育をそこまでできなくもなるだろうから、色々と考えなければならない。



 

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