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 「お姉様、ギルお兄様!」

 ウッカの声が聞こえた。私とギルはその声に振り返る。

 少し久しぶりに見たウッカはやっぱり可愛かった。茶色の髪が、窓の外から入ってきた風でなびいている。ウッカの後ろにはクラリやほかの侍女たちがいる。

 「あら、ウッカ」

 「ウッカか」

 ウッカはこちらに向かってきていた。

 「あ、あのお姉様、ギルお兄様」

 ウッカはそういいながらちらちらギルの方に視線を向けている。ギルは昔は私と一緒にウッカを可愛がっていたのだけれど、最近はナザント領に遊びに来るにしても私の方にしか来ていなかったりする。

 ナザント公爵家の邸は広いのもあるし、ギルは割とこっそりやってきてすぐに帰っていくから全然ウッカと会ってなかったからだろう。久しぶりに会えたとでも

いう風に気にしているようだ。

 「何の用ですの? 私もギルも忙しいのよ」

 最近忙しいのもあってウッカの顔さえも時々しか見ていなかったから、なんだか思いっきり抱きしめたくて手が怪しく動く。ギルがちらりとその手の動きを見て、笑っていた。

 私がウッカの事可愛くて仕方がないのを知っているギルには心境なんてすっかり悟られているのだろう。なんだか恥ずかしくなって、ギルの方を見ないようにしながらウッカだけを見る。

 「な、何の用って私はギルお兄様が来てるって聞いたから! もう、お姉様ばっかギルお兄様とあっていてずるい」

 「ずるいって言われてもね」

 そういってギルの方を見る。

 ギルは特に表情を変えることもなく、ウッカに対して言い放つ。

 「ずるいも何も、俺はエリーに会いに来ているんだ」

 隣で聞いていた私もばっさり言い過ぎではないかと驚いた。あぁ、可愛いウッカが泣きそうな顔している。すぐに抱きしめて泣かなくてよいよーってしてあげたい。

 はっ、ダメだわ。折角私に近づくことがないように冷たいふりをしているのだもの。それが全部無駄になるようなことはできないわ。

 でもウッカが泣き出しそうな顔をしているとうんと甘やかしてあげたくなるのは、姉として当然の心理だとは思うけれど。

 「お姉様に会いに……」

 「うん、エリーに会いに。だからエリーが俺と会っているのは当たり前だな」

 「わ、私も一緒に遊びたい!」

 どうやらギルとあっている間、遊んでいると思われているらしい。

 遊んでいるといえば遊んでいるのかしら? あまりにも私が休まないからギルが無理やり休ませている、そして雑談をしてたりのんびり過ごしたりしているとか、そんな感じが主ね。

 でもギルの前だと私は結構本音を曝け出してしまうから、あまりギルと一緒にいる時にウッカが来るのは困るわ。思わず本音が漏れてしまいそうだから。

 「あら、別に私とギルは遊んでいるわけではないわよ?」

 「俺はエリーに会いに来ているだけだからウッカに会う必要性は感じていない」

 軽く拒絶を示そうとしていたら、ギルがはっきりと言い放った。ぎょっとしたけれど、どうにかポーカーフェイスを保つ。

 流石に言い過ぎな気がした。

 咎める意味を込めてギルを見つめたけれど、ギルは素知らぬ顔をしている。

 「え、な、なんでそんなこと」

 「ウッカ、ナザント公爵家の令嬢がこれぐらいの事をで泣いてはいけませんわ」

 ああ、可愛いウッカ、涙を引っ込めて。という意味を込めて、そういう言い方をする。ウッカは涙目である。ギルになついていたからなぁ、ウッカは。

 ウッカ付きの侍女たちに睨まれたり、クラリになんだか複雑そうな目で見られたりしているけれど、そんなものより涙目のウッカに視線がどうしてもいってしまう。

 「ギ、ギルお兄様」

 ウッカが、じっとギルを見つめる。

 そのまま、問いかける。緊張したように、声を上げる。

 「わ、私の事、嫌いなんですか?」

 怯えたように問いかける。ああ、泣きそうだ、ウッカが。

 「嫌いとか、そういうのじゃない。ただ、俺はエリーが一番大事で、エリーの味方だってだけだよ」

 ギルは表情を変えることもせず、ただそれだけの事を言った。

 そしてその言葉にショックを受けたようなウッカに視線すら向けない。私は何か言おうとした。優しい言葉をかけられないにしても、ウッカが元気を出すように仕向けようとしていた。

 だけど、

 「エリー、行くよ」

 その前にギルにそういわれて、手をひかれた。

 「え、ちょっと」という、私の抗議なんて聞いてもらえなくて私はその場をそのまま後にするのであった。






 後から怒った私にギルは言った。

 「エリーはウッカを傍に置かないとしたんでしょう? なら、俺だってそうする。……それにエリーの妹だから構ってただけだし」と、そんな風に。






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