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今年も誕生日パーティーが行われた。
お母様もばあやもいない、二回目の誕生日はやっぱり悲しかった。どうしても、苦しかった。
二人に、「おめでとう」って笑って欲しかった。
誕生日パーティーは去年と変わらない、いつも通りのものが行われた。今年はウッカもちゃんと参加していた。ドレス姿のウッカは可愛かった。
「可愛い!」って抱きしめて、思いっきり愛でたい衝動に駆られたけれどもそれは必死に我慢した。そんな真似をすれば、折角今までウッカと距離を置こうとして頑張っていることがすべて無駄になってしまう。
ナグナ様は今年もパーティーにやってきた。ウッカの事をナグナ様は昔から可愛がっていたから、私がウッカに冷たい事に対して文句を言って来たりしたけれども、否定しても結局信じてはくれない。
目で見たものがすべてだとでもいうように、私の本心は悟ってなどくれない。……言わないからわかってくれないのは当たり前だとはわかっているよ。わかっているけれども、婚約者であるナグナ様が私という存在を理解していないのは何とも言えない気持ちになった。最も私もナグナ様の事を理解していないのだからお互い様だけれども。
そんな感じで終わったパーティーの後は、去年と対して変わらない日常が待っている。
変わっていたことといえば、学園の準備のためにばたばたしていたというそういう話だ。
奴隷たちと孤児院の子たちの教育は少しずつ進んでいる。学園に入学するまでにどうにか使いものになってくれればいいのだけれども。
お父様やタリア様に学園での注意事項など沢山聞いた。聞いたら、いくら準備しても足らない気がして焦ってしまう。学園内に護衛は連れ込めるけれども、公爵家にいるよりも危険なのは確かだろう。
特にお母様の殺害やウッカへの毒物混入の裏をひいている貴族を静粛できていない現状であるならばなおさらだ。私は狙われる事だろう。気を抜けばいくら準備していたとしても殺されるのかもしれないのだ。
本当に、なんて恐ろしい。なんて、怖いことだろう。
私が狙われても対処できる環境を作ることが第一の目標。死にたくはない。というより、こういう状況で死ぬなんて絶対に嫌だ。ウッカを置いては死ねない。
だから、そのためにはもっと全てをかけて自分を磨き、奴隷や孤児院の子たちとの絆を強化し、頑張る必要がある。
っていう風に頑張ってたらね、ギルに止められた。
「顔色悪い、また倒れるから休んで」
ってそういわれて。
ギルは相変わらずよくこちらに遊びにやってくる。自分も学園の準備とかで忙しいだろうに、私の事を心配してよく遊びにやってくるのだ。
ギルが言うには、お母様をなくしてからの私は放っておけないらしい。確かに色々行ってはいるけれども、そんなに心配しなくても私は大丈夫なのにと思ってしまう。
「私は大丈夫だよ、ギル。だから忙しいならそんなにこちらに来なくてもいいのよ?」
「ダメ。エリーは見ていないと無理をするから」
何度言ってもギルはそういった。お父様もそれにうなずいていて、心配をかけたくないな、心配をかけないように頑張れないものかと思わず考えた。
学園の準備や勉強、そして奴隷たちへの教育でばたばたしていて、新しい奴隷は増やしていない。正直そんな余裕はない。
頑張っているルサーナのために、犬の奴隷を集めてあげたかったけれど無理だった。そのことをほのめかしてもルサーナは、「いいんです。エリザベス様に余裕がある時で」って、そんな風に笑ってくれた。本当に私にもったいないぐらい良い子だ。
ばたばたしているのと、距離を置いているのもあって去年よりもウッカと会わない。ウッカの姿を見れない。私の方から嫌われるようにしている癖に、姿が見れないと悲しいだなんて自分勝手な感情に自分が少し嫌になる。
学園に入ったらもっと会えない。姿を見ることなんてもっと少なくなるのだ、だからこういう状況になれなければならない。
「ふぅ」
「エリザベス様、お疲れですか? 紅茶継ぎましょうか?」
「ええ、お願いするわ」
ポトスは紅茶をつぐのが上手だ。そういうことが好きらしい。獣人なのもあって体は身軽で、剣術もそれなりにできるようになったみたいだけれどもルサーナとウェンに比べればそういう事は好きではないらしい。あの二人は少しずつ護衛として使えるレベルには仕上がってきている。
ポトスの入れてくれる紅茶はおいしいと素直に思う。
クラウンド先生がいっていた飴と鞭の使い分けがきちんとできているかは正直わからない。わからないけれども、奴隷たちとそれなりにうまく付き合っていけているとは思う。
寧ろ支えられている。
ルサーナたちが頑張っているのを見ると私も頑張ろうと思える。頑張ってくれているのだから、もっと立派な、主人でありたいと思う。
ポトスのようにこちらの体調を心配してくれる。そういう風にされると嬉しくなる。様々な面で支えられている。
そして、これからも護衛面だったり、ほかの面でも、支えてもらう。
私は自分一人の力で生きているわけではない。子供であるからなおさら、もっと沢山の人に支えられている。
私の今の生活があるのはお父様が守ってくれているから。そして貴族として生活できるのはシュマたちのような領民たちがいるからだ。
支えてくれる人たちの誇れる存在になりたい。いつか、お父様の後を継いだ時に立派な領主になりたい。―――それが、支えてくれている人たちへの恩返しになる。
そう、思った。そのためには、学園生活を卒なくこなす必要がある。学園で手間取ってなどいられない。私はもっと先で、未来で、やりたいことが沢山あるのだから。




