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 「お父様、私は来年から学園に入学しますわ。そうなれば、ウッカの傍にはいられません。私はウッカが心配でなりません」

 私はお父様に相談した。ウッカを置いていくことが不安だと。可愛い妹に何か起こるのではないかって、それが不安で、怖い。

 お母様のようにウッカを突然、お別れも済ませられないうちに失ってしまう事を私はよしとしない。そんなの、いやだった。

 ウッカ、私のウッカ。可愛い、妹。

 何よりも守りたい妹。

 ウッカの事が大好きでたまらないから、ウッカを失うことに私はおびえている。可愛いウッカに何かがあることにおびえてしまっている。怖がってしまっている。

 お父様に相談するのは、私自身が安心したいとそう願っているからかもしれない。

 お父様は私の言葉に、微笑んだ。優しい笑みを浮かべて私の頭をなでる。

 「大丈夫だよ。エリー。ウッカの事は私に任せなさい」

 安心させるような笑み。

 大丈夫だと、言い聞かせるような穏やかな声。それにほっとする。なんだか大丈夫だって気になる。

 お父様っていう、心から信頼できる相手の、優しい言葉だからこそウッカをここに残したままでも大丈夫。お父様が、ウッカを守ってくれる。お父様がいるから―――そういう気持ちにさせてくれる。

 「はい、お父様……」

 お父様に頭をなでられるのが心地よかった。大人になろうとしている私なのに、一人前になろうとしている私なのに、それでも頭をなでられることが嬉しいと思う。

 「そうだ、エリー」

 私の言葉に相変わらず微笑んでくれたお父様は、思い出したかのようにそういった。

 なんだろうと、私はお父様の事を見返す。

 何かウッカに関しての不安要素でもあるのか、などと考えていた私だけれども予想外の言葉がお父様の口から出てきた。

 「―――奴隷の一人が、ガター伯爵家の元にいたといっていたね?」

 「……え、はい。そうですわ」

 ガター伯爵家の名前を聞くのは、ウェンの事を手にしたとき以来だった。10歳の秋ごろ。一年以上も前だ。

 ウェンはガター伯爵夫人によって壊されていて、まともに正気を取り戻すまでにも酷く時間がかかっていたことを覚えている。

 今でこそ、リュトエントと楽しげに会話を交わしている場面を見ることもあるが、出会った当初のウェンは何もかもに絶望していたように思えた。近づいてくる誰にでも警戒心丸出しで、私の事も慣れてもらうまで大変だった。

 その、ガター伯爵家についてなぜ、お父様の口から今更出ていくのか正直わからなかった。

 「……ガター伯爵家に、何か? まさか、ウェンを返せとかではないですよね?」

 ウェンを返せなどと言われても正直困る。こちらはきちんとした取引と交渉の元、ウェンを引き取った。そして教育を施している。今更、返せるはずもない。それにウェン自身もガター伯爵家に戻りたいなどとは思ってはいないだろう。

 ウェンは私が毎日のように話しかけていた努力もあって、私のためにって一生懸命勉強などをしてくれている奴隷だ。戦闘に関する才能は光るものがあるとリュトエントが言っていた。

 「いや、そういうわけではない」

 「では、なぜそういうお話を? ガター伯爵家に何かあるのですか。お父様」

 ウェンが元々いた場所だ。もう関係ないとはいえ、何かあるというならば聞いておきたい気もした。

 正直、ウェンの事情を知っている身としてみればガター伯爵家に良い感情はない。私の両親は仲が良くて、愛人なんかはいなかったけれど、貴族では愛人がいる者のほうが多い。ガター伯爵夫人のように自分より下の立場の者に対して、そういうことを強行するものもいるというのだから頭が痛い話だと思う。

 「色々とガター伯爵家の収める地方で起こっているようなのでな。近いうちに元ガター伯爵家の奴隷である者に対しても呼び出しがかかるかもしれない」

 「……そう、なのですか」

 ウェンを引き取った時点でそういう噂はあった。今の今までどうもなっていないということは、余程証拠が集まらないということだろう。

 そして実際、最近では噂だけではなく何かが起こっているようだ。

 もう少し詳しく聞きたい気もしたけれど、恐らくこれ以上の情報はお父様はくれないだろう。それがわかるから私はそれ以上問いかけることはしなかった。

 ウェンに話を聞きたいということは、何を見たか聞いて証拠を探りたいということなのかもしれない。ただ、ウェンは私が引き取った時点で”壊れていた”と言えるから、ガター伯爵家にいたころの事をどれだけ覚えているかわからない。それに、そういう辛い記憶をあまり思い出させたくもないと思う。

 必要なことだったとしても―――、そう思う私は甘いのかもしれない。何かを切り捨てる非情さも貴族には必要なのだから、身内だろうとも、自分の奴隷だといえ、あまり甘やかさないようにしなければと感じるのであった。




 そしてそれからしばらく経って、私は王妃様から呼び出しを受けた。






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