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 「エリー!」

 サグラ伯爵家に到着した私は、すぐにギルに迎えられた。その後ろには、サグラ伯爵家に仕える執事や侍女たちが控えている。

 「ギル、タリア様に話を聞きたくてきたの。何処にいらっしゃる?」

 「母上なら客間に居るよ」

 ギルはそういって、歩き出す。私はその横に並ぶ。ギルの家に来るのは久しぶりだから、きょろきょろしてしまう。

 前に来た時と変わったものを見つけたりするのが、何だか楽しいのと同時にさびしかった。変わらないように見えるものも、確かに変わっていくものなのだとそう思って。

 変化していく。

 徐々に、当たり前が、当たり前ではなくなっていく。

 お母様が居たという当たり前の事実が、風化していくようにかすんでいく。

 「エリー、何を考えている?」

 「……お母様の事、思い出していただけ。此処に最後に来たのはお母様と一緒の時だったから」

 私がそういえば、ギルはそっかといって、そして私の手を引いた。

 客間へと二人で歩く。その間に会話はない。絨毯の引かれた通路を歩き、客間へと到着する。装飾の施された取っ手を引き、扉を開ける。

 その先には広々とした客間が広がっている。ソファが向かい合うように設置されており、そこにタリア様は腰かけていた。

 タリア様はこの国で珍しくもない茶色の髪を持つ、女性だ。こちらに視線を向けるタリア様の目が優しくて、安心する。

 思えば、タリア様と会うのも久しぶりだ。

 「久しぶりね、エリー」

 タリア様は嬉しそうに笑った。私もそれに対して、笑みを返す。

 時が経つたびに、色々と変化していくけれど、タリア様は変わっていない。相変わらず私に親しみを込めた笑みを浮かべてくれている。

 その事実に安堵した。

 少し会わなかっただけで関係が変わってしまうというのを前に目の当りにしたからこそ、余計にタリア様と会うのが怖かったのもあったのかもしれない。ナグナ様は、私に対して気に食わないといった態度を示した。もしかしたらタリア様にも、知らないうちにそういう風に思われてたらという思いもあったのかもしれない。

 「はい。お久しぶりですわ。タリア様」

 タリア様の座るソファーの向かいのソファーにギルと共に並んで腰をかける。

 「それで、私に聞きたい事があるそうね?」

 「はい。タリア様、私は来年から通う事になるジルトラール学園について聞きたいのですわ」

 ジルトラール学園には、中等部、高等部を合わせて六年間も通う事になるのだ。事前に情報を調べておく方が良い。

 私だけではなく、ウッカも通う事になるのだ。こういう時、私がお姉ちゃんで良かったと本当に思う。事前にその場所に行けて、どういう対処が必要が、どういった危険があるのかとか勝手がわかるのだから。

 タリア様は私の言葉に笑って頷く。そして学園について語ってくれる。

 「ジルトラール学園はエリーも知ってのとおり、三百年も前より続く由緒正しき学園ですわ。学園に通うのは主に貴族の子供ですけれども、中には商家の子供などもおりますわね」

 タリア様はにこやかに微笑んで、語ってくれる。

 「貴族たちの通う学園だけあって施設は充実しておりますわ。カフェの料理もおいしいんですわよ。二か月に一回ほどパーティーも行われますの。そのパーティーは学園内にある大ホールで行われるのよ。それは――」

 タリア様が最初に語ってくれたことは、学園の良い面ばかりだった。どういう施設があるとか、どういう場所は美しいとかそういう事だった。でも私が聞きたいのはそういうことではない。

 「お話ありがとうございます。タリア様。ジルトラール学園が素晴らしい事はわかりましたわ。しかし私は他にも知りたい事があるのですわ。それは学園での危険と注意点ですわ」

 「もちろん、そちらもお教えするわ。そうね、学園は素敵なところも多いけれども、大変なことも多いですわね。

 まず、学園でのつながりは今後エリーが家を継ぐのならば重要だと思いますわ。ですから今後の利害関係も考えて人付き合いはするべきですわね」

 利害関係を考えて友好関係を結ぶ必要がある。そんな風にタリア様はいった。それはクラウンド先生からも言われている。”自分が誰かを理解して、交友関係を結ぶべき”だってそんな風に。

 付き合っている人間が相応しくないものであるならば、家の評価が下がってしまう。それは悲しい事だけど、そういうものなのだ。だから今はエリザベス・ナザントとしてではなく、ただのエリーとして町に出て、交流をして、遊んでいるけれども、当主になるならばそれもできなくなってしまう。

 「それと学園では家同士の関係も含めての理由で、敵意をぶつけてくる方も居るでしょう。こちらを潰しにかかろうとする者だって少なからずいますわ。学園は貴族社会の短縮版ともいえるもので、それだけ危険も伴うわ」

 タリア様はそういって私とギルを見る。

 「だからエリー、ギル、自分の身は自分で守りなさい。護衛をつけて守らせることもするけれども、危険な状況にならないようにすることが大事よ。守られている自覚を持って行動しなさい」

 危険な状況にならないようにすることが大事。それはわかる。そういう隙を作らせないようにしておくこと、そういっているんだろう。

 難しいかもしれないけれども、それをどうにかしなければ何が起こるかわからない。守られている自覚を持って、行動をしなければならない。私にはナザント公爵家の長女という肩書があるのだから。

 「権力者としての自覚を持って行動することが一番のことですわ。自分の言葉がどれだけ周りに影響するか、それを考えたうえで発言すること。それも大事なのですわ。意図もなく発言した言葉で周りが勝手に動くこともあるのですよ。特にエリーの家のような公爵家の娘が発言したとかとなると」

 「私が何気なく言った言葉で、周りが勝手に行動をして大変なことになることもあるということですね」

 「ええ、そうよ。例えば少しだけエリーが苛立っていて、身分の低い方に少し強く当たってしまったとする。そうすればその方をエリーが気に食わないと認識されたとしましょう。そうなればその方は潰されるかもしれません。”ナザント公爵家の令嬢の機嫌を損ねたのだから当然だ”とでもいって潰すかもしれないのです」

 少し、その話を聞いて怖いと思った。私が何気なく口にした言葉が、私がナザント公爵家の娘であるからと大事になるかもしれないのだ。

 思ったことをすぐに口に出さないように心がければ。少しでも口にした言葉が、そのような影響を及ぼすのは避けたい。気をつけなければならない。

 そういう話をいくつか聞いた。学園生活を行う上で気を付けることをタリア様は教えてくれた。学園に入学するまでの間に、気をつけなければならないことをきちんと実行できるようにしなければと私は心に決めるのであった。





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