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 私のもとにやってきた孤児院の少年少女たちは、四人。元々孤児院で養われている子供たちの数は二十人と調べがついたから、四人よこすように命令した結果だ。

 中には私が直接的に話したあの警戒していた茶髪の男の子もいた。彼の名はハストというらしい。

 あとの三人は、8歳の女の子のヴィヴ、12歳の女の子のエルナーラ、7歳の男の子のマッサだ。

 「姉ちゃん、ありがとう! お手伝いって何をすればいいんだ!」

 ハストは元気にそんなことを言った。そんなハストをあわててひっぱたいたのはエルナーラである。

 「ハスト、敬語を使いなさい! すみません、この子よくわかっていないみたいで……」

 申し訳なさそうにそう口にする。

 ハストはまだ子供でわかってないみたいだけれども、他の三人はここに、このナザント家の離れに連れてこられた時点で私が貴族だということぐらいはわかっているようで、そういう態度を示している。

 「これから気をつけてくれれば問題はないわ。それよりも先に自己紹介をするわね。私はエリザベス・ナザント。このナザント公爵家の長女よ」

 私は侍女に入れてもらった紅茶を口に含みながらも四人に視線を向けながらそんなことを言った。

 「孤児院を助けたのは私といいたいところだけど、実際はお父様の力だわ。きっかけは私だけれどもね」

 私自身の力でどうにかできた方がよかったのだろうけれども、私はお父様の力を借りて問題を解決したに過ぎない。私にはそんな力も、権限もない。

 「はい、それでもありがとうございます。ところで、エリザベス様のお手伝いをしてほしいとの事でしたが……」

 「ええ、そうなの。私は何れこのナザント公爵家を継ぐわ。私が公爵家当主として働くお手伝いをしてほしいの」

 この子たちは私に助けられたと思っているから、お手伝いはしてくれるだろう。奴隷たちにしたように電撃を流して強制的に従わせるなんてことは出来ない。奴隷たちの教育で飴と鞭を使いこなす事はうまくなってはいると思うけれど、この孤児院の子たちを上手く手駒に育てる事が出来るだろうか。

 

 私の言葉に私への感謝の言葉であふれている彼らは頷いた。


 四人の子供たちはどういう方向に教育をすべきかまだわからないため、色々な事をやらせてみる事にした。彼らにとってはじめてやる事ばかりだから戸惑っていたようだったけれど、文字を習うとか、そういうこと平民だとまず出来ないから途中からは喜んでやっていた。

 「孤児院に帰ったとき、他の子にも教えていいですか?」と聞かれたからそれには頷いておいた。四人はほとんど住み込みでここに来ていた。その変わりに、孤児院にはそれなりの補助金を与え、適度に様子見もいかせるようにした。そして孤児院に帰ることも許していた。

 お金だけ与えても大変な事になる場合があるから、ちゃんとそこらへんは考えておくべきだってクラウンド先生が言っていたから、クラウンド先生と相談してそういう風にしたのだ。

 で、今私は孤児院の四人ではなく、カートラとヒラリとエーマの元へと来ている。

 「あ、エリザベス様だ」

 声を上げるカートラは、獣人であり体力が人間よりもあるからという理由で昔の主人に工事現場でこき使われていたらしい。そんな子だからか、休息がある今の暮らしに満足しているらしかった。

 「エリザベス様、文字覚えたよ」

 嬉しそうにそんなことを告げるのはヒラリだ。エーマよりは遅かったけど、努力家なヒラリは文字が読めるようになったらしい。嬉しそうに声を上げるヒラリをほめれば、益々はにかんだ笑みを見せた。

 「私もっと勉強して一杯色々知りたいです!」

 そんなことを訴えてくるのはエーマだ。貪欲に知識を求めて、どんどん吸収して言っているエーマは本当に勉強する事が楽しくて仕方がないらしい。

 「勉強頑張っているようね」

 「はい! あの、エリザベス様。お願いがあるんですが」

 「お願い?」

 エーマがその茶色の目を不安そうに揺らしながらいった言葉に、私は聞き返す。

 「はい……。あの、その、私もっと本が読みたくて。エリザベス様が下さったもの全部読んでしまったので」

 勉強のためにも十冊ほどの書物をこの部屋に置いていたのだが、もう全部読んでしまっていたようだ。驚くべき読書スピードだと思う。

 「そう、なら一つ条件を出しましょう」

 「条件ですか?」

 「ええ。これから私はエーマがきちんと勉強をしているかのテストをしていこうと思うの。そのテストに合格する度に本を与えるのはどうかしら?」

 無条件でご褒美だけ与えるのも、教育としてはいけないと思うの。エーマは勉強意欲が高くて、一生懸命で、一人だけ先を行っているのよね。沢山の事を学びたいって本も沢山読んでいて。だからこそ、テストをしてそれがどれだけ頭に入っているか確認するのも重要だと思ったの。

 「本当ですか!? 頑張ります!」

 「じゃ、じゃあ僕は甘いお菓子が食べたいです」

 次にそんなことをいったのはヒラリである。前にご褒美として甘いお菓子を持ってきたのだけれどもそれで気に入ってしまったようだ。

 「そうね、ならヒラリにも課題を出すわ。そうね、この本を読んで感想文を書きなさい。それができたならもってくるわ」

 ヒラリはまだ文字が読めるようになったばかりだから、簡単な子供向けの本を読んで感想文を書くことも大変だろう。でも、そういう事を続ければこの子ももっと文字の読み書きができるようになるはずだ。

 「こ、これを一冊……」

 「ええ。簡単な言葉しか使われていないものだから、貴方でも読めるはずよ」

 大丈夫、ヒラリなら出来るわっていうそういう気持ちを込めて頭を撫でれば、ヒラリは「はい」と頷いた。

 次に私はカートラを見た。

 「カートラは何か欲しいものあるかしら?」

 「ほしいもの? んー、今の生活に私は満足しているからとくにはないです」

 「そう? なら私の方から貴方が喜びそうなもの考えておくわね」

 「本当ですか? わぁ、何をもらえるか楽しみです」

 「ふふ、もちろん、カートラが頑張っていたらだけどね」

 カートラは結構無欲な子であると思う。親が奴隷で生まれた時から奴隷であったというカートラだからこそ、色々経験してきていたのだろう。そしてそれを経験した上で、今の生活に満足しているという事だろう。

 三人とも少しずつ結果を出して、色々覚えている。その様子を見て私は笑った。



 奴隷たちの教育は、徐々に進んでいる。





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