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今年も『ヘルラータ』の時期が巡ってきた。
私は去年と同様、『ヘルラータ』の準備の手伝いを行った。ナザント領の住民たちに混ざって、様々な事をした。領民たちから聞いた話をお父様に話したり、そういう日々を過ごす。
そして今年も、ギルの事を祭りに誘った。
こういう楽しい祭りは、仲良しなギルと一緒に楽しみたかった。今年はルサーナだけではなく、サリーとウェンも居る。
今年はクラウンド先生は居ない。まぁ、後ろからはナザント領の私兵たちがついてきているわけだけれども。
私は全然何処に居るのかわからないのだけれども、戦闘センスがあるルサーナとウェン、そして剣術の才能を最近露わにしているらしいギルは誰かがついてきているの察する事が出来るっていっていた。
私には全然分からない事だから、素直に凄いと感心する。護身術ぐらいは私も習っていた方がいいと思うけれど、残念な事に私に戦闘面の才能はほとんどないことは発覚している。そもそもルサーナが軽々と振り回している練習用の模擬剣でさえも振り回せないのだ。
「エリー、ルサーナ、ギル!」
町を歩いていて声をかけてきたのは、街に降りた時によくはなすシュマである。明るい性格のシュマは、色々隠している私に対しても普通に接してくれている。ちなみに去年『ヘルラータ』を見た時に、ギルとシュマは会っている。
「久しぶり、シュマ。今日は友人のサリーとウェンも一緒なの」
にっこりと笑って紹介すれば、シュマは笑顔で自己紹介をする。何処までも裏のない笑顔を浮かべるシュマの事を私は友人として気に入っている。
「サリーです。よろしく」
「ウェンだ」
何処までも簡潔な二人の自己紹介にもシュマは笑顔を浮かべている。
しばらく皆で『ヘルラータ』を見て回って、楽しく過ごした。
だけどその最中で身体に痣だらけの傷を持つ少年少女たちを見つけた。殴られたような痣や切り傷が見られた。そして彼らは揃いに揃って暗い表情を浮かべている。
「……ねぇ、シュマ。あの子たちは」
「ああ……、母さんがアマトリア孤児院の子たちだっていってた」
「アマトリア孤児院の子? どうしてあんなにボロボロなの?」
「なんか、院長が変わってから………あんな風な様子見せるようになっていて」
シュマが難しい顔をして告げる。その言葉に私は思わず固まってしまう。孤児院の子たちが、院長が変わってから傷だらけになっているだなんて悪い予感しかしなかった。
「……シュマ、少し私行くわ」
「え、あ、うん」
私の言葉にシュマが頷く。私は先ほど見た傷だらけの少年少女たちを見かけた場所へと向かう。先ほどの場所には居ない。だけど近くには居るはずだ、そんな風に考えて、探す。
そして私は見つけた。
ボロボロの身体で、互いに支えあうように寄り添っている私よりも年齢が下の子供たちを。
「あなたたち」
声をかければ、彼らはびくりと身体を震わせた。そして警戒するように私を見る。
この子たちは初対面の人たちを警戒しなければならないようなそんな状況に居るのだと、それがわかって、何とも言えない気持ちになってしまった。
「怪我しているわね……」
聞きたい事は山ほどあった。だけれども言える事が出来た言葉はそれだけだった。近づいたらこの子供たちの身体に、本当に多くの怪我があることがわかった。
「だから、なんだよ」
口を開いた男の子。まだ五歳かそこらの茶髪の男の子は、こちらを訝しむように睨みつけている。
「どうしてそんな怪我をしているの?」
「そんなのお前に関係ないだろ!」
「あるわ。だから教えてくれない? 私なら貴方たちを助けてあげられるかもしれない」
この子たちがどういう状況下にあるのか、想像は出来ている。だけれどもこの子たちの口からきいておきたかった。
突然そんなことを言ってくる私の事を彼らは不振に思っているようだった。それも仕方がない事だろう。いきなり私みたいな子供がそんなことを言ってくるなんて想像も出来ないだろうから。
「な、何をたくらんでるの…」
一人がいう。その言葉に気づいた。無償で助けてあげるなんていう私を信用できないと思っているのだと。
それはそうだと考えてみて思った。
無償で助けられるなんて、何を考えているかわからない。どういう目的があるのかわからない。なら、と私は口を開く。
「なら、こうしましょう。私は私のもてる力の全てを使って貴方たちを助けるわ。その代り、何人か私に仕えなさい」
「……つか、える?」
「そう。助けてあげるから、その代りに何人かでいいから私の下でお仕事をしてほしいの。これから、私のためにお手伝いをしてほしいの」
その場に居る幼い子供たちにもわかるように、わかりやすく説明をする。私のお手伝いをしてほしいんだって、そんな風に。交換条件として何かあげられるかなと考えて、それしか思い浮かばなかった。
「だから、教えてくれる? どうしてボロボロなのか」
そして語られたのは、院長先生が変わってから孤児院で虐待が始まってしまったという事実だった。食事を与えない、暴力をふるうといったことが日常茶判事で、子供たちにとって大変な生活が繰り広げられていたようだ。
それを聞いた私は、
「……じゃあ、どうにかしてあげる」
といった。
「出来るの?」
子供たちが、不安そうに聞く。しばらく話して私に対する警戒心をなくしてくれているらしい。
「ええ。多分大丈夫。だから、助けたらお手伝いよろしくね」
私はそういって笑って、すぐさま家へと帰宅するのであった。
そしてそれから数日後、孤児院は院長が変わり、私の下に孤児院の何名かがやってくることとなるのであった。




