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※サリー目線。

 私は住んでいた村を襲われて、大好きだった人たちと離れ離れになって奴隷になった。幸い私を買った商家の人たちは優しい人で、奴隷としての生活にも慣れてきてしまったそんな日の事―――私はエリザベス・ナザントという少女に引き取られた。

 商家での生活は居心地がよくて、その家の娘とも仲良くしていたから正直また別の場所に行くのは嫌だった。だけど、エリザベス様はルサーナの名を口にした。私にとって妹のように可愛がっていた少女の事を。私はエリザベス様の奴隷となった。

 引き取られた初日から、妹様であるウッカ様との確執を見せつけられたり、中々ルサーナに会わせてくれなかったり、正直エリザベス様がどういう人なのかわからなくて、警戒していた。

 観察すれば観察するほど、エリザベス様は何処か不自然で、よくわからない人だった。

 ウッカ様に対して厳しい態度を、敢えて誤解されるような態度をしながらもウッカ様の事を大切だといった態度を見せていた。

 それにルサーナと会わせてもらえたその日、ルサーナは「エリザベス様は優しい人だから、本当は罰も与えたくないし、処分とかしたくないってそう思ってるから。だから本当に一生懸命やっていればエリザベス様はそんな事しないよ」って、エリザベス様が誤解されるのが嫌だってそういう事を私たちに言った。

 エリザベス様は、悪い人ではない。厳しいし、決して甘いわけではないけれども優しい人だ。って、そういうのは何となく過ごしていればわかった。そうでなければルサーナがこんなに懐くはずがない。

 そもそも犬の獣人を集めていたのは、頑張っているルサーナの望みをかなえたかららしい。奴隷の意見を聞いてくれているだけで、理不尽な主人というわけではないのが伺える。

 ただ、結局エリザベス様が私たちに何を求めているのかよくわからない面もあった。手足になりなさいとエリザベス様は言った。裏切らない駒になりなさいと。多分、戦力面でも内政面でも何でもいいから役に立つ手足になればいいって事だろうけれども、正直私と対して変わらないような年頃の子が、どうしてそんな考えに至っているのかわからない。

 貴族の令嬢というものは、甘やかされているものだと思っていた。もっと華やかで、幸せそうに笑っていると。でも、そうではないってエリザベス様を見て思った。

 『ナザント公爵家』というのは、この国でも有数の権力を持つ家で、その家を継ぐためにはそれ相応の努力をしなければいけないということなのだ。

 エリザベス様は、第二の母親のようであったらしい侍女が亡くなった時とても悲しそうな顔をしていた。だけど、それをウッカ様の前では見せない。一切、悲しんでないといった態度を浮かべて。悲しみから部屋に閉じこもっているウッカ様に向かっても厳しい事を言ったらしい。

 それがどうしてだろうって分からなかった。エリザベス様は確かにウッカ様を大切に思っている。そうでなければ私にウッカ様の様子を見に行くように頼むなんて事しない。

 なら、どうして嫌われるような真似をするのだろうか。

 ルサーナもその理由を知らないといっていた。何だか聞きにくいって、そういう事を言っていた。でも、私は気になった。だから、聞いた。

 「……どうして、ウッカ様に嫌われているのに笑うのですか。それに誤解させるような事ばかりして」

 私の問いに、エリザベス様はそれはもう驚いた顔をした。そんなことを聞かれるとは思っていなかったようだ。

 その理由が知りたかった。どうしてそんな真似をするかわからないのに、命令されるのも何だか嫌だったというのもある。

 「ウッカに、私は嫌われている方が都合がよいからよ」

 エリザベス様は、真っ直ぐに私の目を見て答えた。そして続けられた言葉に、私は何も言えない。

 「私はナザント公爵家の次期当主として生きるの。憎まれ役だってきっと買う。ならば、私の隣にウッカが居たら、ウッカまで死んじゃうでしょう」

 だってその言葉は、「ウッカ”まで”死んじゃう」という言葉は、恐らく前例があるということだったから。誰かが、エリザベス様の隣に居たから死んでしまったという事だったから。

 「ウッカに手を出しても私が何も動じない、打撃にならないって思わせておきたいの」

 失いたくないから、守りたいから、だからこそ距離を置く。嫌われて、打撃にならないって思わせたいってそんな風にエリザベス様はいう。

 「そうですか」

 私はエリザベス様の言葉に、それしか返せなかった。


 エリザベス様を知りたい私は、すぐに行動に出た。


 私は奴隷で、エリザベス様は私の主人。私に命令をする人。その人がどういう人なのか分からないのは正直不安だったのもある。そして純粋にエリザベス様に対する興味もあったのもある。

 ナザント公爵家の当主様――要するにエリザベス様のお父様にも話を聞いた。当主様は、「誰かがエリザベス様の前で亡くなったのですか」という問いに、悲しそうな顔をしながら答えてくれた。

 ―――……十歳のエリザベス様の前で、エリザベス様のお母様は殺されたらしい。それも、護衛の男の裏切りによって。

 胸が痛む話で、どれだけエリザベス様が絶望し、誰かを失う事に恐れているのか計り知れない。そして私たちを、奴隷を集めている理由も何となくわかった気がした。

 エリザベス様は、裏切りにおびえている。奴隷は主人の命令を裏切らない。なぜなら主人の命令は絶対であるから。無理やりにでも命令を実行させる力がある。そもそも本当に不当な扱いをされているならともかく、エリザベス様のように衣食住を保障してくださり教育までしてくださる方が主人であるのに裏切ろうとはまず思わない。奴隷だという事実は主人が死んだからといってなくなるものではないのだから。主人が死んだなら別の主人に渡されるというのが主だ。

 エリザベス様はのちの事も考えて、信頼できるもので周りを固めたいと思っているのかもしれない。

 ウッカ様が近くに居たら、大切にしていたら、”また”目の前で殺されてしまうかもしれない。居なくなるかもしれない。きっとそれをエリザベス様は考えている。

 そんな思考だからこそ、ウッカ様を遠ざけている。大好きなウッカ様に嫌われた方がいいなんて言っている。

 貴族というものは、それだけ危険なのだろう。そして自分の母親が殺されたりしたのに、エリザベス様は逃げようとしていない。怖いから爵位を継がないなんて言わずに、ウッカ様を守る力がほしいって一生懸命に頑張っている。

 当主様はエリザベス様がウッカ様に厳しくするのは、嫌らしい。仲良くしてほしいらしい。だけどエリザベス様の気持ちを思うと中々言い出せないといっていた。

 そして、夏の日、ようやく当主様はエリザベス様に対してウッカ様と離れなくても、嫌われなくても大丈夫といったらしい。そのことにエリザベス様は大変悩んでいるようだった。

 だけど、タイミングが悪かったというのだろうか、エリザベス様がウッカ様の部屋に行ったときに、侍女の一人がウッカ様に毒を盛ろうとしていたことが発覚した。

 ようやく、「大丈夫」と「何もなかったからと」そんな理由をつけてウッカ様の部屋にいったエリザベス様が、その現実を目のあたりにしてどれだけショックを受けたかわからない。ウッカ様に食べさせてはいけないとエリザベス様はそれを食べて、しばらく寝込んでいたという。

 その結果、当主様の願いはむなしく、エリザベス様はやっぱりウッカ様の側にはいられないと結論付けてしまった。毒に詳しい人を傍におかなきゃと、忙しい勉強の合間に情報収集をして『魔女』の一族を割り出した。

 その能力故に疎まれ、結果迫害されたという一族。危険かもしれないのにエリザベス様は直接交渉しに向かった。そこでどういう会話があったのか私は知らない。

 ただ、結果を言うならば『魔女』の一族はエリザベス様の配下についたということだ。




 ―――エリザベス様は、完璧に見えてそうではない。それに気づいて、不器用で、そんなエリザベス様を支えたいとそう思ってしまった。





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