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 毒を自ら口にした私は、それから数日の間眠っていたらしい。毒物の入ったクッキーを吐き出したことと、接種した毒が少量であったことから大事には至らなかったと。

 そしてお父様が信頼できるお医者様を呼んでくださったことも理由だといえるけれども。

 ギルは泣いていた。ギルの泣き顔なんて見るの初めてだった。

 「エリーが、居なくなってしまうかと思った」

 ギルはそんなことをいって、泣いて、私を抱きしめていた。無事で良かった。死ななくてよかった。って、そんな私が此処にちゃんと存在してしまう事がうれしいって。

 どうして毒を摂取したかについて説明したら、私は、ギルとお父様に怒られた。こんなに怒られたの初めてだってぐらい怒られてしまった。

 「どうして自分で食べたんだ。侍女たちに先に毒味させればよかったのに……」

 「……そういえばそうだわ。でも、そういう考え頭になかったの。どうにかウッカにこれを食べさせてはいけないって思って」

 本当に全然頭になかった。毒味をさせるとか、そんな事浮かばなかった。ただウッカにこれを食べさせてはいけない。って本当にそれだけだった。

 「エリーの、馬鹿。それでエリーが死んじゃったらどうする気だったの」

 「私は死ぬつもりなんて―――」

 「エリーに死ぬつもりなくても、これがもっと強力な毒だったらエリーは手遅れだったかもしれないんだ!」

 耳元で大きな声でそう言われた。死ぬつもりなんてない。これだけならまだ大丈夫だろうって思って、そして口に含んだ。

 だけど本当にギルのいう通り、もしこれがもっと強力なものだったら私は死んでいたかもしれない。

 「エリー、ルサーナが捕まえた侍女についてだが、ある貴族からの回し者だった。私の事を敵視している男がいてね……」

 ギルに抱きしめられたまま、お父様の言葉を聞いた。

 お父様を敵視している男―――、私にとって自慢の、優しくて大好きなお父様でもナザント公爵家の当主として生きている中で、誰かに恨まれたりもしているのだ。

 その事実が、重くのしかかってくる。

 貴族であるという事は、権力を持っているという事は本当にそれだけ憎まれる可能性も高くなるということ。

 ナザント公爵家の娘。ウッカも、その重さを背負ってる。でも、私がお姉ちゃんで良かった。私の方がウッカよりも先に生まれたから、ナザント公爵家の次期当主は私。当主の方が狙われるし、恨まれるものだ。

 ウッカを守るために力をつけなきゃとか言っておきながら私は、侍女の中にそういう存在が居るかもしれないってそういう警戒していなかった。お父様がウッカを任せられると判断して選んだ侍女だからって。ただ、私付きの侍女も、ウッカ付きの侍女も時々人が変わっていた。それはもしかしたら私の知らない所で毒味とかして亡くなったって可能性もある。っていうのに、はじめて気づいた。

 私はお父様に守られている。

 沢山の人に守られ、貴族であるからと私の命は他の者の命より重いとされている。

 貴族って、重い。権力を持つって何て重いんだろう。でも、それを私は背負う。背負うって決めた。

 「お父様」

 私は、真っ直ぐにお父様を見た。

 お父様は私が何ていうかわかっているのだろう、とても悲しそうな顔を浮かべている。だけれども、私は言う。

 「――――私は、やっぱりウッカを私から突き放します」

 そう、決意した。私はウッカの側にはいかない。ウッカに嫌われるぐらいが丁度良いって、今回の事で思った。

 私はウッカが大好きで、だからお父様の言葉にウッカの部屋へと思わず足を運んでしまったけれどもやっぱり危険だ。私がナザント公爵として将来動くのならばウッカが傍にいて、私の大切な存在だと思われているのは危険だ。

 「……そうかい」

 「はい。お父様。ごめんなさい……。私はウッカを危険な目にさらしたくない」

 悲しそうなお父様の声に、私は謝罪を口にして下を向いた。そんな私の頭をお父様はなでてくれた。ギルは安心させるように声をかけてくれた。

 「それと、お父様。毒に詳しい人とか知り合いにいませんか」

 今回の事があって、ウッカの側に毒に詳しい人を置いておきたい。ウッカに毒が盛られる前に気づける人を傍に置いておきたい。私はそう思った。

 だからお父様に聞いた。

 だけどお父様もよくわからないといった。でも一つだけ助言をくれた。毒と薬は紙一重だと、そんな言葉を。

 要するに薬に詳しいお医者様なんかは、同時に毒についても詳しいんだって。私は薬学はよくわからないけれども、そういうものらしい。有名なお医者様をウッカの側にずっといてもらうわけにもいかないし、そんなの無理だ。

 でも、私はウッカに毒が盛られそうになるなんて絶対に嫌だ。どうにかして、ウッカの側でウッカを守ってくれる、そういうのに詳しい人を探さなければって私は決意した。



 それから私は、勉強の傍らに様々な場所へと赴き、そういう存在を探す事となる。

 そして見つけたのは『魔女』とさげすまれ、迫害されている一族だった。





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