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 自分の手駒を増やすための行動は、ずっと続けている。奴隷の数も増えた。

 嬉しい事にルサーナ、ウェン、サリー、ポトフは私のいう事をちゃんと聞いてくれている。特にルサーナとウェンは驚くほど頑張ってくれているのよ。サリーとポトフは私が引き取った当初、私の事を警戒していて仕方がなかったのだけれども、今は信頼を向けてくれていて本当に嬉しい。

 ルサーナの故郷の者を探し出すことももちろんやっているのだけれども、それ以外の奴隷も増やしているわ。獣人は基本的に身体能力が高くて、護衛とかにはぴったりなのだけれども、将来的な事を考えると内政能力の高い駒も増やしておいた方がいいだろうってクラウンド先生もいっていたし。あとあまりにも急いで奴隷を増やしすぎても私が上手く対応できなくて、きちんと躾が出来ないから少しずつ増やしている。

 私を裏切る事のない、私のために動く存在ってのは、増やしているのにこした事はない。

 今回、私の奴隷として買われたのは三人。そのうち一人が犬の獣人、あとは二人とも人間。

 犬の獣人の名前は、カートラ。私よりも幾つか年上の女の子だった。

 人間の方は、男女一人ずつ。年は5歳前後。こんなに小さな子供がさらわれたり、親の借金とかで奴隷になるなんて大変だわ。

 どうして幼い子供を奴隷として買い取ったかっていうと貴族は護衛だけが居ればいいってものではないから。お父様を見ていて思うのだけれども、お父様の周りには優秀な人が居るの。お父様を支えている文官の人たちは、お父様が才能を見出して側においている人とか、お父様の信頼できる人ばかり。私が領地を継いだら彼らは私を助けてくれるだろうけれど、私よりも年上の彼らは私より先に亡くなるだろう。だから、同じ年とか、それより下で、私を支えてくれる人たちがほしい。お父様たちを見ていて、信頼できるものがいなきゃダメだって思ったから。

 ヒラリとエーマっていうその男女の子供たちは、最初はびくびくしていたけれど、ちゃんと私のいう事を聞いていれば今まで以上の暮らしが出来るっていうのを教え込んだら一生懸命勉強してくれるようになったの。

 私も幼い子供に、それもウッカより小さい子に厳しくするなんて正直あんまりしたくないから聞き分けがいい子たちでよかったって安心したの。

 「エリザベス様」

 自室でゆったりと読書をしていた。クラウンド先生に、読んでみるようにと勧められた過去に実在した偉大な貴族の本だ。

 エリザベス様の望む領地経営のヒントはこの中にあるでしょう、という言葉と共に渡されたこれは本当に興味深いもので、ためになるものだった。

 そんな私に声をかけたのは、サリーだ。

 サリーには一つお願いをしていた。

 「ウッカは、どうだった?」

 私はサリーにそう問いかけた。

 「ウッカ様は、一生懸命勉強していらっしゃいましたよ。侍女たちに応援されながら、『お姉様を見返す』なんていって」

 淡々とサリーは答えた。

 「そう、なら、いいわ」

 元気になってくれたなら、良かった。ウッカが悲しみにとらわれて、前に進めなくならなくてよかった。

 私は可愛い妹の、可愛いウッカの悲しみに満ちた顔なんて見たくない。私への怒りが原因でもいいから、元気になってくれて嬉しい。

 ウッカの事を考えて思わず頬が緩んでしまうのは、私がウッカの事を大好きでたまらないからだ。でも、私もナザント公爵家の令嬢なのだから妹の事を考えていようともこんな風に表情を変えないようにしなければ。

 「エリザベス様は……」

 サリーは私を見て、口を開く。何か言いたそうな顔がこちらを見つめている。

 「何、サリー」

 「……どうして、ウッカ様に嫌われているのに笑うのですか。それに誤解させるような事ばかりして」

 そんな風に質問されて、ちょっと驚いた。だってルサーナでさえもそれは聞いてこなかった事だったから。気になっていても聞きにくいとばかりに、詳しい事を聞いてこようなんてしていなかった。

 でもサリーは聞いてきた。短い付き合いだけどサリーを見てきたからこそ思うけれど、サリーはただ真意を知りたいだけなのだと思う。私が不可解な行動ばかりしているから、信頼はしても、ついていっていいのかとでも思っているのかもしれない。

 サリーは、ルサーナやポトフといった同じ村の人たちを本当に大切にしている。私がウッカを大切でたまらないって思いを口にしたらサリーは、きっと私を放っておかなくなるだろう。気持ちがわかるから、私を手伝おうと一層頑張るかもしれない。

 でも、そういう風に誘導するのって飴と鞭を上手に使いなさいとクラウンド先生に言われたけれどちょっと複雑な気持ちになる。守りたいものがあって、大切なものがあって、だから使えるものを使って、利用できるものを利用していこうと思ったのに、それでも少し躊躇いそうになる。

 だけど――、決めたから。

 「ウッカに、私は嫌われている方が都合がよいからよ」

 私は言った。真っ直ぐにサリーの目を見て。

 「私はナザント公爵家の次期当主として生きるの。憎まれ役だってきっと買う。ならば、私の隣にウッカが居たら、ウッカまで死んじゃうでしょう」

 本当にそれだけだ。それだけの自分の感情から、私はウッカを突き放している。

 「ウッカに手を出しても私が何も動じない、打撃にならないって思わせておきたいの」

 可愛いウッカが危険な目に合わないように。敢えて私はウッカを嫌っているふりをする。ウッカが、どれだけ悲しんで、どうしてと嘆いていても。

 私の言葉に、サリーは何とも言えない顔をして「そうですか」とだけ言った。






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