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ばあやと永遠に会えなくなって、まだ十日しか経っていない。
初の3、12日。
それは、私の生まれた日。私の、誕生日。
今年私は11歳になる。お母様が死んでからはじめての誕生日を迎えた。
誕生日までの間に、お母様もばあやも死んじゃう何て私は思ってもいなかった。幸せが続くんだって信じ込んでいた。
当たり前の日常が、当たり前のように続いていくなんてそんな事あり得ないって知っていたはずなのに。そういうものだって、わかっていたはずなのに。それでも私はお母様が死ぬことも、ばあやが死ぬことも頭の中にはなくて、本当に、もう去年の誕生日が二人とも居た最後の誕生日になるなんて思ってなかった。知っていたならもっと、……何だろう言っても仕方がない事だってわかっているけれども、もっと色々したいことがあった。
ねえ、お母様。
ねえ、ばあや。
私は二人とも、とっても大切だった。どうしようもないほどに大好きだった。
傍に、居てくれない。
傍に、二人とももういない。
その事が、どうしようもないほど悲しくて、苦しくて。だけど、今日は私の誕生日パーティー。十一歳の誕生日を迎えた私を祝うためのパーティーがある。暗い顔なんてしていられない。いや、パーティーでそんな顔しちゃいけない。
「エリー大丈夫か?」
「はい。大丈夫です。お父様」
「エリー、無理しないで。何かあったら俺にいって」
「うん、言うね、ギル」
ばあやが死んで十日後にパーティーがあって、まだ心の整理とかできていないけれども、大丈夫。隣にはお父様とギルが居るから。
だから、私は立ち上がれる。
弱音を吐かずに、この場に出てこれる。支えてくれる人が居るから、まだ、大丈夫。
支えてくれる人が居る。笑いかけてくれる人が居る。心配してくれる人が居る。そう、お父様とギルが居るから、私は今日のパーティーもきっとうまくやれる。
傍に居てくれる人が居るというだけでどうしようもないほど、勇気が出てくるものなんだって、本当に今日実感した。
私はお母様譲りの赤い髪を二つに結んで、髪と同じ赤いドレスを身に着けて、パーティーに参加した。
誕生日パーティーは、沢山の貴族も呼ばれている。お父様が当主を務めているナザント公爵家はそれだけの権力を持っているのだ。だからこそ、娘である私の誕生日パーティーにもお父様とのつながりを作りたい人たちとかも含めて多くの貴族がやってくる。
いや、貴族だけではない。
この場には王族もいた。私の婚約者であるナグナ様である。ナグナ様と会うのも久しぶりだった。最後に会ったのはお母様が亡くなるよりも少し前だ。
私の気持ちの整理もついていなくて、ナザント公爵家を継ぐために頑張ろうと決意した私は色々やることが沢山で、そのことに必死で、王城に行く事もなかったのだから。まぁ、お父様は何度か王城に行っていたみたいだけど。
ちなみにウッカはこの場に居ない。
姉である私の誕生日なんだから、本来ならウッカも出席すべきパーティーなんだけれども、ウッカはばあやが亡くなった事を悲しんで、ずっと泣いていてパーティーに出席できる状況ではなかった。折角ウッカのために用意してあった新しいドレスが無駄になったって侍女達が嘆いていたけれども、まぁ、別の機会にそのドレスはお披露目すればいいと思うわ。
貴族なら親しい者が亡くなったからとパーティーに出席しないなんてダメな事だとは思うけれども、今回は家が主催のパーティーであるし、何より可愛いウッカはばあやに本当に懐いていたからまだ七歳だし割り切れないのも仕方がないと思うから。
他の家から招待されたパーティーならば出席すると伝えておきながら出席しないのはやらない方がいい事だって教わったけどね。
あとルサーナたちは給仕としてこの場に居てもらってるわ。こういうパーティーとかに慣れてもらいたいから。
ある程度の礼法は教えているから、緊張しているみたいだけどうまくやっているみたい。良い事だわ。
「おめでとうございます」
「エリザベス様、もう十一歳になるのですね」
「おめでとうございます」
祝いの言葉が次々に投げかけられる。私はお父様と一緒にお礼を言いながらも、その顔に笑みを張り付けている。
私はちゃんと笑みを浮かべているだろうか。ちゃんと、違和感のないような笑みを。
少し、そう不安になる。
沢山練習した。どんな時でも笑えるように。ナザント公爵家を継ぐために、頑張ろうって決意したその日から。
あまり、思考しないように意識する。思考すれば、一年前の誕生日パーティーをどうしても思い出してしまうから。大切なお母様とばあやがまだ隣にいてくれた、そんな幸せだった去年の事を。
だから、それをふり払うかのように私は考えを断ち切る。
悲しいって泣くのは、苦しいって喚くのは後でやればいいこと。この場でしてはならないこと。
そう、知っているから。
笑う。笑って、その場をやり過ごす。
そうしていれば、ナグナ様がこちらにやってきた。
久しぶりに会ったナグナ様は、不機嫌そうな顔を浮かべていた。
この世界では地球と同じ12か月で日付を数えます。ひと月は30日で、計360日。
地球でいう1,2,3月を初の1、2,3と数えます。4,5,6月は麗の1,2,3、7,8,9月は水の1,2,3、10,11,12は晶の1,2,3といった感じ。
現在は地球でいう3月です。




