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※ウェン視点

 あの人は、エリザベス様は俺の全て。俺を救ってくれた人。

 美しい人。俺よりも年下で、小さいのに、とても強くて、目標のある優しい人。

 血のように赤い髪と赤い目は、冷たくキツイ印象を見る物に与える。目だって吊り上っていて、厳しい人に見える。

 だけど、それは違う。

 ある時さらわれて、貴族のおばさんに買われて、気持ちの悪い事を俺はされ続けた。あぁん、と上げるおばさんの気色の悪い声、感じたくもないのに無理やり感じさせられる快感。気持ちが悪くて仕方がなかったけれど、俺が拒否してもそれは続けられて。

 気づけば何も感じられなくなって、頭が真っ白になっていた。何も考えられず、どれだけの時間がたったかもわからない状態になっていた俺はまるで”人形”のようだった。

 ”人形”になった俺を人に戻してくれたのは、エリザベス様だ。

 根気強く俺に話しかけてくれた。大丈夫だよって、ただそんな風に笑ってくれた。人が気持ち悪くて、何も考えたくなくて、エリザベス様に対しても警戒してばかりだった俺の側にエリザベス様はいてくれた。

 ”人形”ではなくしてくれた人。

 だから俺は、他の三人とは違ってエリザベス様のためなら、何だってかなえたいと思っている。

 エリザベス様は俺を駒にするために俺を人に戻したのだろう。でもそれでも、エリザベス様が俺を人に戻してくれた事実は変わらない。

 「相変わらずお前は時間がある限り鍛錬するな……」

 俺たち四人に剣術や戦い方を教えてくれるリュトエントさんは、素振りをする俺を見ていう。

 今は自由時間。

 エリザベス様が求める人材に一刻も早くなりたいと、俺はそう思った。エリザベス様にとって使える存在になりたくてたまらなかった。

 頭を使う事は正直苦手で、逆に体を動かす事の方が得意だった。だから、俺は時間のある限り、素振りをしたり、ナザント公爵家に仕えている騎士の方々に頼み込んで、稽古をつけてもらったりしている。

 「エリザベス様の力に、なりたいから」

 「本当にお前はエリザベス様が好きだな…。よし、なら俺と模擬戦でもするか」

 「はい、お願いします」

 突然の言葉だったけれども、リュトエントさんと模擬戦をすることは良い経験になるから俺は喜んで頷くのだった。


 ――まぁ、結局何回やっても一度も追い詰める事さえもできなかったけれど。





 自由時間が終われば、座学の授業を受ける。講師はエリザベス様の家庭教師でもあるクラウンド先生だ。ある程度の常識や、貴族の護衛として学んでおくべきことを学ぶ。

 こういう椅子に座ってずっと学ぶ事って俺は苦手だけれども、それでもエリザベス様のためだと思うと頑張れる気になれた。

 他の三人の奴隷、ルサーナとサリーとポトフは一生懸命に学ぼうとはしているみたいだけど、エリザベス様のために! といった思いはそこまでないように感じる。ルサーナはエリザベス様と四人の中では一番長い付き合いなのもあって、「エリザベス様の力になりたい」とは思っているようだけれども。

 サリーとポトフは、ルサーナの「村の人たちに会いたい」というそんな我儘によりエリザベス様が探し出した犬の獣人なのだという。俺もルサーナの知り合いかもしれないということでエリザベス様に奴隷にされたのだ。それを思えば、ルサーナがそんな我儘を言ってくれたからこそ、エリザベス様に出会えたのだからそこは感謝しなくもない。

 「この国、カサッド王国は―――」

 教科書を片手にクラウンド先生がわかりやすいように噛み砕きながら俺たちに説明する。

 クラウンド先生の授業は教科書の内容をただやるだけではなく、自身の考えも交えてやってくれるから面白い。

 それに俺たちにそれらを覚えさせるだけではなく、その知識をどういう時に使うべきかも教えてくれる。

 こういう人の元で、奴隷でありながら様々な事を学べる俺は幸運である。

 元々の引き取られた先が酷かった分だけ余計、ここに居られる事が幸せだと思う。だってエリザベス様は理不尽な事はしないし、ちゃんと結果を出せばほめてくれる。

 上に立つ者としての素質が、エリザベス様は十歳ながらに持っている。

 下のものにやる気を出させるほめ方を、叱り方をする。エリザベス様は、きっとこれから良い領主に成長すると思う。俺はそんなエリザベス様の側に仕えていられたらいいと、そう望む。

 そんな風に頑張っていたら、ナザント領の隣の領の長男であるギル・サグラ伯爵子息が俺に問いかけてきた。

 「お前が、そんなに頑張る真意は?」

 エリザベス様の最も親しい友人であるというギル様は、探るような目で俺に問いかけてきた。

 エリザベス様と同じ年のその人は、まだ十歳だというのに他人に対する警戒心が強いようだった。他人に興味がないといった風なのに、エリザベス様の事を心から思っているのだろう。エリザベス様の傍に仕える事を許された俺を見定めに来たらしい。

 それに俺は本心で答えた。

 「俺はエリザベス様に救われました。思考する事さえも放棄した人形に成り下がった俺を人に戻してくれたエリザベス様の力になりたいってそう思っているだけです。俺が使えなければエリザベス様は俺を捨てるでしょう。それが安易に想像できるから必死なんです」

 ルサーナたちは「捨てられる」なんて現状考えていないように思える。だけど、エリザベス様は優しくても使えない者を傍に置いておくような人でもない。それを何となく理解していた。

 「……そうか。なら、エリーの力になってやってくれ。エリーを悲しませたら、許さないから覚悟しろよ」

 ギル様は伯爵家の子息で、常にエリザベス様の隣に居れるわけではない。苑ことを歯がゆく思っているように感じた。

 でも常に傍に居れなくてもエリザベス様を守りたい、と思っているのだと思う。だからこそ、エリザベス様の周りに居る人を警戒したり、こうして忠告したりする。

 「言われなくても、力になります」

 だって俺は力になりたい。あの人の。

 あの人の思い描く未来を作る手助けをしたい。あの人を悲しませるなんてしたくない。

 そう、心から思っているから。




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