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 私には守りたいものがあって、そのために必要な力を手に入れたい。

 そう、私の望みはそれ。大切なものを目の前で失わないだけの、いいえ、その力だけが欲しい。

 そのために私は、ルサーナを買った。私の駒として。私が私の目標をかなえるための、道具として。

 だけれども、私は一生懸命学ぼうとするルサーナに少なからず愛着を持ってしまった。可愛くて、どうしようもないほど真っ直ぐで、優しいルサーナの望みをかなえてあげたかった。

 そして、今日、それがなされる。

 丁度『ヘラルータ』が終わって一か月がたったその日、私はルサーナに一切存在を知らせる事なく集めていた犬の獣人たち―――あの精神が壊れかけてた少年・ウェン、ルサーナの友人である・サリー、肉体奴隷として土木工事場で働かされていた少年・ポトス。

 「ルサーナ、ご褒美よ。喜びなさい」

 私は自分の部屋へと呼び出したルサーナに目を瞑らせて、その間に引き取った犬の獣人たちを部屋の中へと入らせる。誰かが入ってくる気配に警戒するようにぴくりと動く耳がかわいらしい。思わずさわりたくなるけれども、此処は我慢する。

 「目を開けなさい」

 私がそういえば、ルサーナは目を開ける。

 そして、目の前に居る三人の犬の獣人を見て、目をぱちくりとさせる。

 「え」

 驚いたような声を上げる。信じられないものを見るような目で、真っ直ぐに見つめている姿は年相応でかわいらしかった。

 「ルサーナ!!」

 「ルサーナちゃん!!」

 そんな声を上げてルサーナに抱きついたのは、サリーとポトスだった。

 ルサーナはそんな声を聞いて、抱きつかれたまま涙を流した。嬉しくて、また会えた事を喜ぶ涙。

 ちなみにウェンはルサーナの村とは関係ないところの犬の獣人だったからか、その様子を見て突っ立ったままだったんだけどね。ウェンはガター伯爵夫人によって精神を壊されてて、今は大分回復しているけれど私以外とはしゃべってくれないのよね。でも回復してくれて本当に良かったわって思っているの。

 「………もう、会えないと思ってた」

 ルサーナはそういってわんわん泣いていた。そんな姿を見て、私はルサーナのために獣人を探し出してよかったと心から思ったのだった。

 「私も……会えないかと思ってた」

 「だってあの人、全然僕らをルサーナに会わせなくて」

 サリーとポトスはそういって、ちらりと私を見る。それにつられてルサーナもこちらを見た。

 私は、ルサーナに向かって微笑んだ。

 「ルサーナに新しい子たちを纏めて会わせてあげようと思って、時間がかかったのよ。今まで頑張ってくれた貴方へのご褒美として犬の獣人を集めたの。きっとそうしたら貴方の知り合いが一人ぐらいはいると思って」

 頑張ってるもの、ルサーナは。だからこその、ご褒美、

 「そちらの二人の奴隷はルサーナも知っているでしょう。サリーとポトス。それで、こちらの子はウェン。残念ながらルサーナの知り合いではなかったけれども、仲良くしてあげなさい」

 そう告げて私はウェンに視線で挨拶を促す。そうすればウェンは前に一歩踏み出る。そして無表情のままに、挨拶をする。

 「……俺はウェン」

 「悪い子ね、ちゃんと挨拶しなさい」

 名前しか告げずにそっぽを向くウェンを軽く睨み付けていえば、ウェンの耳が垂れ下がった。ウェンって見た目はかっこいい感じで、無愛想で、どこか冷たい印象を与えるんだけど、私に叱られると悲しいのか耳が垂れ下がるの。

 可愛いわよね。思わずそれを見ると甘やかしたくなるけど、甘やかしすぎはいけないわ。甘やかしすぎて使いものにならなかったら私は処分なりなんなりしなければいけなくなるもの。それはいやだわ。

 「……これからよろしく」

 「はい、よくできました」

 私よりも二つ年上のウェンの頭をなでれば、顔は無表情なのに尻尾がぶんぶんと揺れている。可愛いわ。ルサーナたちが垂れ下がったりぴんと張ったりするウェンの耳と、揺れ動く尻尾を見て驚いた顔しているのもまた可愛いわ。

 獣人って感情がこうして目に見える形で見えるからわかりやすくていいわって正直思うわ。

 「ルサーナ、おいで」

 私がそういえば、ルサーナは素直に私の隣にやってくる。

 そして私の隣まできたルサーナは、目に一杯の滴をためたまま、私の名を呼ぶ。

 「エリザベス様」

 「なぁに?」

 「………ありがとう、ございます」

 「ふふ、ご褒美だからお礼はいらないわ」

 「それでも、私のお願い聞いてくれるって思ってなかったから。もう二度と会えないってっ……そう…っ、そう、思ってたから」

 「ほらほら、泣かないの。私は泣かせるために獣人を集めたのではないわ。ルサーナが喜ぶように集めたのよ?」

 だから、笑って。

 そう願いを込めて言えば、ルサーナは涙を流しながらも、だけど嬉しそうに笑った。

 そんなルサーナの頭を軽くなでると、私は残りの三人の方を向いた。

 「サリー、ポトフ、ウェン。貴方たちに改めて言っておくことがありますわ」

 ウェンが引き取った時、ああいう状態だったから三人にはどういう目的で引き取ったか言っていなかったのよね。改めて言っておこうと思って。

 「私は貴方たちを私だけの駒にするために引き取ったの。主人を裏切らない従順な奴隷の貴方たちには私の事を守り、私の手足をなることに意味があるの。私がお金を出して買ったもの――それが貴方たち。だからその分働きなさい。きちんと働かなければ罰を与えます。きちんと働いてくれるならそれなりの自由は保障するわ。でも、本当に使えなければ売り払うなり処分するなりするから覚悟しなさい」

 鞭はきちんとしなければならないのだ。何をしても許されると彼らが思っても困る。

 私が奴隷ルサーナのために獣人を探すなんて真似までしたからと、奴隷を甘やかすと思われても困る。

 が、折角そんな風に言ったのに、次のルサーナの言葉で台無しだった。

 「サリー姉も、ポトフも、ウェンさんも……。エリザベス様は優しい人だから、本当は罰も与えたくないし、処分とかしたくないってそう思ってるから。だから本当に一生懸命やっていればエリザベス様はそんな事しないよ」

 「………ルサーナ、ちょっと黙りなさい」

 「嫌です。私、エリザベス様が誤解されるの嫌だもん。それにサリー姉もポトフもウェンさんも私と一緒に頑張る仲間なのに、その仲間がエリザベス様の事、冷たい人って思うの、やです」

 黙りなさい、という命令は無視されてそんな言葉が紡がれる。そんな言葉言われたら、どうしたらいいかわからない。

 私は自分のために奴隷としてルサーナたちを買っているのに、優しいとか、そんな言われても困る。私はそんな風に慕われるほど優しい人間なんかじゃないのに。

 「ルサーナ、私は、そんな人間じゃないわ」

 「いいえ、そういう人です。私からみたエリザベス様は」

 否定してもにっこりと笑って断言された。困る。というか、困っている。こういう時どう反応したらいいのだろうか、なんて考えてしまう私は貴族としてまだ未熟者なのだろう。

 クラウンド先生は貴族とはどんな時でも冷静に対応できるようにすべきだといっていた。私にはまだそれが難しい。子供で場数を踏んでいないからもあるかもしれないけれど、もっとちゃんとできるようになりたい。

 



 困った顔の私、その目の前でにこにこと笑うルサーナ、その様子を見ている三人。

 そんな光景はクラウンド先生がその場にやってくるまで続くのだった。



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