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「お姉様!!」
ナザント領に到着したら、ウッカに盛大に歓迎をされた。
泣きながら私に抱きついてくる。っておおう、ちょっとびっくりした。
ウッカの後ろからはナグナ様たちに、あとルサーナたちもいる。
「……申し訳ありません、エリザベス様。私ウッカ様にいってしまいました」
「……そう、大丈夫よ」
私はルサーナの言葉にそう答えながらも、抱きついて離れないウッカの事をぎゅっと抱きしめ返す。ああ、ウッカの事、こうして抱きしめるのも何年振りだろうか。可愛いウッカとこうして触れ合う事はお母様が亡くなってから全然していなくて、なんかもっと思いっきり可愛がりたくて手がわきわき動く。
「あのね、お姉様」
「なに、ウッカ」
「ルサーナたちに、聞いたの」
「うん」
「お姉様が私のこと、嫌ってないって。勘違いしてて、ごめん、なさい」
私に抱きついたまま、ウッカは言葉を口にする。ちなみにナグナ様は何とも言えない表情でこちらを見ているし、他の三人は複雑そうな顔をしている。
うーん、彼らも私を悪だって決めつけていたからルサーナたちから話を聞いて思うことがあったのかもしれない。でも、あれね。折角のウッカとの久しぶりのふれあい――正直どういう対応したらいいかもわからない状況で外野がいるとちょっと困るわ。
基本的に私はナザント公爵としての仮面をかぶり続けているわけで、その仮面をウッカと話している中でかぶっていられる自信はないもの。
「……お姉様が一人で頑張っていたのも聞いた」
「うん」
「……お姉様が私を守りたいって、それで私から距離を置いていたのも聞いた」
「……うん」
「……お姉様は、どうして」
「うん?」
「どうして……一人で抱え込んだの」
ウッカはそういって顔を上げた。私の目をじっと見て、ウッカがいう。
どうして一人で抱え込んだのかとそんな風に。私はその言葉になんと答えればよいかわからなかった。そして困惑した。そんな私にウッカは言った。
「なんでって……私はウッカを、かかわらせたくなかったから」
「お姉様の馬鹿!」
考えてみて口から洩れた言葉にそんな言葉が返ってきた。正直びっくりした。あのウッカが私に馬鹿なんていうなんてと衝撃だった。
「なんで一人で抱え込んで、勝手に決めたの!」
「えっと……」
「私だって、ナザント公爵の娘なのに!」
ウッカはそんな風に叫んだ。
その言葉に、唖然とした。
「私は……お姉様が私に冷たくなって悲しかった! お母様が亡くなって、お姉様は冷たくなって。お姉様は一人で相談もなしに、行動しだして!」
叫んでいる。ウッカが、悲痛そうに叫んでいる。可愛い妹が、そうして私を見ている。
「私は、お姉様とまた笑いあいたかった。前みたいに、優しいお姉様に戻ってほしいって、そんな風に思ってた。だから……、だから……私ナグナ様たちに協力してもらって……私……お姉様と一緒がいいもん!」
泣いている。可愛い妹が泣いている。私と一緒がいいってそんな風に。
「確かに、私辛い事とかやだよ。知りたくもないよ! でもそれをお姉様にだけ背負わせたいとかそういうわけじゃないもん! お姉様が、私のためにって我慢して頑張るってやだよ! 私もお姉様の事大好きだもん。お姉様が、私の事を思って冷たくしていたっていうのは聞いたけど、それでも、私は―――つらい現実と向き合わなきゃでも、お姉様と一緒がいい!」
叫ばれて、私は、ウッカを見誤ってしまっていたのかもしれないと思った。私はウッカには重すぎると思って。私が、ウッカを守るために全て抱え込めばいいってそんな風に思ってた。
でも、そうじゃなかったのだろうか。
私はウッカを突き放して、それでウッカが幸せになればいいと思ってた。ウッカを守りたかった。可愛い妹の事を失いたくなかった。だから私はここまで突っ走ってきた。
でも、もしかしたら―――、ウッカともっと向き合って、ウッカとちゃんと話して、そうして姉妹二人で頑張るっていうそういう選択肢をするべきだったのだろうか。
ウッカの叫びを聞いて、そう思った。
「……ウッカ、私は、怖がってたのよ。考えてみるとね。お母様が目の前で死んで、そのことを怖がってた」
「……お、姉様」
「私は貴方も、私の可愛い妹である貴方も、目の前で失ってしまうのかもしれないって思ってたの」
「……私は、大丈夫だよ、お姉様」
ウッカは私の言葉に、そう答えた。
「……私は頼りないかもしれないけど、私だって、自分の身は守るよ。いなくなったりなんてしないよ!! 大丈夫だよ、お姉様、色々大変だったとしても、二人でなら乗り越えることも、出来るよ」
ウッカは何処までも前向きで、大丈夫だよと笑う。私は不安ばかりで、失う恐怖を知ったからこそ、怖がったばかりで。だけどそんな私にウッカは笑いかけるのだ。
「私、もう子供じゃないもん。お姉様を支えることも……難しいかもしれないけど、頑張るから、だから――、突き放さないで」
まっすぐに目を見てそういわれて、私は――その言葉に頷いた。
私はウッカを信じ切れていなかったんだろう。私が思っているほど、ウッカは弱くはなくて、私が思うよりも強い子だった。
「ウッカ、ごめんね」
「ううん、私も、ごめんなさい」
二人で謝り合って、周りにナグナ様たちだっているのに涙が零れて。二人で抱き合った。
そしてその後ろではギルが優しい目をしてこちらを見ていた。




