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 「回らない……って」

 叫ばれた言葉に意味がわからなくて、唖然とする。

 どうして解放すると宣言した奴隷たちは、もう元通りの生活をしてよいといった孤児院の子供たちはお姉様の元へ向かうのだろうか。

 だって無理やり従わされていたはずなのに。

 強制的に働かされていたはずなのに。

 そう考えるとわけがわからなくなった。

 「はぁ……とりあえず回すしかないだろう」

 「それはそうですけど、アサギ様……これじゃあ」

 「だが、エリーの妹はよっぽど自信があるらしいからとりあえずやらせてみればだろうだ?」

 スフィンとアサギ・キモリアがこそこそ何かを話している。

 そして、

 「……俺たちはエリザベス様に雇われた身なんだが、新しい公爵様はどうするんだ?」

 そういったのは、お姉様が夜中にこそこそと指示を出していた男たちだった。

 丁度お姉様がツードン公爵家っていう家をつぶしたとされる時期に家にやってきたこの人たちはお姉様の悪事に最も加担していたとされている。

 「貴方たちには詳しく罪を問わせていただくわ」

 「罪ねぇ……。まぁ、そういうならおとなしくしているさ」

 何とも言えない表情でそういわれた。ダルン様は騎士団長の息子だから、その経由で騎士もこちらによこせるとダルン様がいっていた。騎士の人たちにこの人たちの事情聴衆をしてもらって罪に問うんだ。悪い事をしたならちゃんと罪を償ってもらわなきゃだから。

 ……お姉様も昔に戻ってほしい。今までやってしまったことを償って、昔のように―――。

 

 そんな風に思考していた私は、アシュイ様たちがスフィンたちを睨みつけていることも、ルサーナとヤーグとフラリが無表情になっていた事にも気づいていなかった。



 それから公爵が仕事をする部屋に戻って、お姉様が今までやっていた仕事をやることになった。

 今日お姉様は学園に行くからって理由で仕事をある程度片づけていたから今日の仕事は少なかったとアサギ・キモリアが面倒そうにいっていた。やる気も全然見せないなんて、仮にもナザント公爵の後見人という立場なのに。

 後見人の人もちゃんとしなきゃ。お姉様だってこの人が後見人ではなければ道を踏み外すことだってなかったかもしれないのに。

 そんな風に思いながらも渡された書類に目を通す。

 「…………」

 正直言ってわからなかった。税の事、政策の事、民からの言葉、そういうものからスラムに対する対策や王宮から送られてきたものまであった。

 それなりに勉強はしてきた。学園の成績だって上位だった。でも、実際に領地を回すなんてことは私はしたことはなくて。税はできうる限り引き下げて、領民を幸せにするために行動したいって思っている。でもそのためには、どうしたらいいんだろうか。

 それに、ナグナ様たちにも確認してもらったけれどその書類の中にもおかしな点なんて全然なくて。

 民から送られてくるものには、お姉様を罵倒する言葉もあったけれど、それよりも感謝の言葉が多くて。

 これだけ沢山あるものを、どう片づけていけばいいかもわからなくて。

 「ウッカ様、エリザベス様の代わりに当主となったのでしょう? でしたら指示を出してください。エリザベス様の代わりが出来ると思ったから、エリザベス様に自分が当主になるといったのですよね?」

 呆れたような視線を向けられて、思わず口を開いた。

 「やったことないんだもの。すぐに指示が出せなくて当たり前でしょう? 教えてもらってもないのに」

 「……エリザベス様も、そんな全てを教えてもらったわけではないですよ。先代ナザント公爵様が突然亡くなられてしまったから、予想以上に早く当主を継がなければならなくなった」

 そう告げて、たったままアサギ・キモリアは私を見下ろす。

 「はっ、それだってガヴィア・ナザントをエリザベス・ナザントが殺したんだろう!」

 「ロラ様、それは、流石に……」

 ロラ様が声を上げた。その言葉に私は流石に否定の言葉を口にする。

 「お姉様が幾ら道を踏み外したとしてもお父様を殺したなんてそんなことはありえないと思うんです」

 お姉様は、お父様と仲が良かった。お姉様は……、道を踏み外したとしてもそんなことはしないだろうから。ありえないだろうから。

 「……ください」

 私とロラ様が会話を交わす中で、後ろから声が聞こえた。

 「ルサーナ、どうしたの?」

 「……いい加減にしてください」

 「え?」

 ずっと黙っていたルサーナが口を開いたかと思えば、言われた言葉に私は耳を疑った。

 私も、ナグナ様たちも、驚いたようにルサーナを見る。ルサーナは無表情で、どこか怒っているようだった。

 ……どうして、そんな顔をしているの?

 それを見て、やれやれといった表情を浮かべるアサギ・キモリア。

 「……エリザベス様は、道をふみ間違えてなんていません」

 「え?」

 はっきりと告げられた言葉に意味がわからなくなった。

 「エリザベス様は……、まじめな方です。道を踏み間違えてなんていないですし。だから粗探しをしたって見つかるはずもないです」

 「ルサーナ……何を」

 ルサーナは、お姉様の元から私が助け出した子なのに。どうして、そんな、お姉様を庇うようなことを言うのだろうか。お姉様に奴隷としてこき使われていたはずなのに。どうして?

 「お前……っ、あいつの手下になったのか! ウッカを裏切ったのか!」

 ダルン様がそんな風に声を上げる。ナグナ様は、ルサーナの方を何か考えるように見ている。

 「裏切るも何も……私の忠誠はずっと昔からエリザベス様に捧げていますから」

 はっきりとそう言い切った。

 「……お前、エリザベスの一番最初の奴隷だったな」

 「そうです」

 「……じゃ、じゃあどうして―――」

 上からナグナ様、ルサーナ、私の言葉だ。話が急展開過ぎて全然追いつかない。

 「……ウッカ様、エリザベス様は全て完璧にこなしています。決めた事はやり通す方です。でも、優しい方です。私はウッカ様に優しかった頃のエリザベス様は知りません。でも、エリザベス様は何も変わっていないと思いますよ」

 「……変わってない?」

 「ウッカ様の事、エリザベス様が好きです。だからこそ、私とヤーグとクラリに貴方様を守るように命じた」

 「え?」

 ルサーナの事だけ考えていたらヤーグとクラリの事まで言われて驚いた。わけがわからなかった。

 お姉様が、私を嫌っていないという言葉も――――。

 「だからエリザベス様がウッカ様に嫌がらせをするなんてありえないですし、寧ろエリザベス様は過保護なぐらいウッカ様を守ってます」

 「な、なら、どうして―――お姉様は、私に……」

 「冷たくなったか? ですか。その心は正確には私もわかってません。でもエリザベス様は色々と大変な人生を歩んできました。その中で危険な事にウッカ様を近づけたくなかったのではないかと思いますよ?」

 「で、でも」

 ルサーナが、私の目をまっすぐ見て告げる言葉。

 その態度が嘘だと思えなかった。だけど、簡単に信じることもできなくて。

 だから口から洩れた言葉。

 「……納得できるまで幾らでも証明してあげます。エリザベス様がどういう方なのかとか。悪い噂はあるけど、どうなっているかとか。そういうのをちゃんと」

 そして、私は――――お姉様の事をしった。




ルサーナは我慢でできずに暴露してしまいます。


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