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ウッカ目線は続く。

 私はお姉様が普段使っている領主の部屋へと足を踏み入れた。お父様が領主をやっていた時は私もよくここに足を踏み入れていた。お父様は、突然訪れた私に笑いかけてくれて、そういう思い出がある。

 お姉様が領主を継いでからは、一度も訪れていなかった。お姉様とはほとんど交流がなくなっていたし、領主の部屋の前にはいつもお姉様の手の者がいて、怖くて近づけなかった。

 お姉様は、いつもあわただしく何かをしていた。お姉様は沢山の人を動かして、命令を下していた。

 私は証拠を隠されても困るという事でアサギ・キモリアには部屋の外に待機してもらいルサーナに見張ってもらっている。

 領主の机の上はきれいに片づけられていた。

 書類などもない。お父様が使っていた頃と家具の配置などは全然変わっていない。

 アサギ・キモリアの悪事の証拠を探す。

 「ない、な」

 「どれだけ巧妙に隠しているんだっ」

 「証拠が見つからないとは忌々しい」

 「……見つからない」

 ナグナ様たちが声を上げる。そう、見つからない。そんなものはない。今までの記録を見ても不自然な点は見つからない。それどころか、その記憶はどちらかというとこの国では珍しいほどに善政をしているように目に映った。そのことが余計に不自然に思えた。

 あれだけ悪だと噂されているお姉様が、夜中に悪そうな男たちに命令を下しているお姉様だからこそ、余計に改ざんされた記憶ではないかと思えた。それか善政を敷いていたとしても悪い事をしているのではないかって。

 「……何も見つかるわけないですよ」

 アサギ・キモリアが部屋の中へと入ってそんなことを言った。その後ろにはルサーナが控えている。

 「何故、入ってきているの?」

 「……貴方たちがありもしないものを探しているからですよ」

 そんな風に言うのは見つからないという自信があるからだろうか? 後ろにいるナグナ様たちが彼を睨む。

 「……それよりもご当主となるのでしょう? でしたら仕事を教えますから」

 「ちょっと待ちなさい。その前にこの館にいるものを集めていただけますか?」

 「……まぁ、いいですけど」

 証拠が見つからないのは、仕方がない。これからじっくり見つければよい。そんなに簡単に見つかるなんて思ってもいなかったから。

 それよりも当主になれたからにはやりたいことがあった。館にいるものを集めてもらった。彼らは何とも言えない表情を浮かべていた。どうしてだろう?

 「奴隷たち、貴方たちは私が責任を持って奴隷の身から解放させてあげるわ。お姉様を連れてこなければ完璧な解除は出来ないけれど、それまで自由にしていていいわ」

 そう告げたら、結構な人数が反応を示した。お姉様の奴隷は十人以上いる。そのうち数名はお姉様と一緒に行動をしているからこの場にはいないけれど、その子たちも奴隷なんて身分から解放するんだ!

 無理やりここで働かされていたのだ。そういうのはやめさせなければ。

 そして孤児院からお姉様が無理やり連れてきたという子供たちに視線を向ける。孤児院の子供たちを無理やり働かせるなんて領主としてダメだと思うの。

 「孤児院の子供たちも、もうこんなところで働かなくていいからね? 安心して過ごしていいからね?」

 安心させるように笑いかけた。けど、彼らの反応は悪かった。何か怯えているのだろうか? もしかしてお姉様が脅しているとか?

 「……エリザベス様は?」

 10歳前後ぐらいの男の子が、私の言葉にそう口を開いた。

 「お姉様? お姉様はもう当主じゃなくなったから安心していいのよ?」

 「……エリザベス様は、何処にいるの?」

 男の子は不機嫌そうにそういった。どうしてそんな顔をしているのだろう。

 「……心配しているウッカになんて口をきくんだ」

 「アシュイ様、怒らないで。この子はお姉様の事怖がっているだけよ」

 私は小さい子に怒ろうとするアシュイ様にそういった。私のためを思ってくれている事はわかるけれど、そんな風に怒るのはダメだ。お姉様に無理やり働かされている子たちにそんなことを言うなんて。

 「……私たちはどうなりますか?」

 男の子の隣にいたお姉様と同じ年ぐらいの女性がそう問いかけた。

 「どうって、自由にして大丈夫よ?」

 「そうですか。わかりました」

 そう答えた女性は、ざわざわしている奴隷たちへと近づく。

 「エリザベス様は……?」

 「……多分、一旦王宮に」

 「その後は別邸かどこかにでは……」

 「では、合流するには……」

 「エリザベス様から支えるように言われたけど、自由にしていいって言われたし」

 ”エリザベス様”という言葉がちらほら聞こえてくる。何をいっているかはよく聞こえない。

 「では、自由にしてよいという事でしたら私たち行きますね」

 そう口にしたのは、お姉様が長い間奴隷にしていた犬耳の女性――確か名前はカートラだったか、その人だった。

 「行くって……」

 「エリザベス様の元へです」

 「え?」

 「自由にしてよいといったでしょう? だから私たちはエリザベス様の元へ行きますよ」

 自由にしてよい、で何故お姉様の元へ……。無理やり働かされていたなら、何故。

 「なんで、奴隷からは解放―――」

 「奴隷から解放とかはどうでもいいです。私たちは望んでいくんだから、な、クィア」

 「うん。てか、俺は別にエリザベス様の奴隷ってわけでもないしな。それより、俺らと一緒に行く奴。孤児院の奴らもいくか?」

 そんな風に驚くべきことを問いかける。

 「行きます」

 「行く」

 「エリザベス様の所へ」

 そしてその問いに彼らはそんな風に答える。

 そして「え」と私たちが唖然としている間に出て行ってしまった。



 「……おおおおおおい、何やってくれているんですか!? これじゃあ回らないじゃないですか!」

 そしてそんな中で、お姉様が雇っている男――スフィンがそんな声を上げた。





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