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引き続きウッカ目線
ウッカは思い込み、周りから与えられる情報を信じ切っています。
公爵領へと向かった。公爵家の馬車の従者は、私から当主になったという話を聞いて何とも言えない表情を浮かべていた。
「私がナザント公爵領をよくするからね。安心してね」
って笑いかけたら益々変な顔をされた。どうしてだろう? お姉様が色々やって、逆らうものを処刑したりもして、ナザント領は大変なはずなのに。
お姉様が人を死刑に追い込んだのには心が痛んだ。だって死刑なんかではなく、分かり合う事ってできたんじゃないかって思うから。逆らったからって理由だけでそんな風にするなんて。そういうことをするからナザント領には悪い噂も広まっているってナグナ様たちが言っていたの。
お父様とお母様が大事にしていたナザント領を好き勝手にしているお姉様。
お姉様はお母様が亡くなった時も、お父様が亡くなった時も一切泣かなくて、ただ冷静だった。私はそんなことは流石にないと思うんだけど……、お姉様が両親を殺したのではないかっていう噂まである。でも、お姉様はお母様とお父様が亡くなった時、いつも泣き止みなさいとお姉様はいっていた。
無表情のままに、ただ私に泣くのはやめなさいといっていた。
お姉様はショックではないのだろうか。お姉様はって、私はお姉様の事がわからなくなった。
昔、お姉様が優しかった頃、お姉様はお母様の事も、お父様の事も大好きだった。いつも笑ってた。楽しそうだった。
そんなお姉様が変わったのは、いつからだろうか。突然お姉様は私に冷たくなって、笑わなくなった。そうか、あれはお母様が亡くなった頃だっただろうか。
私はお姉様にもとに戻ってほしかった。悪い事なんかしないで、前みたいになってほしかった。本当にそれだけだった。
――――だから高等部にも顔を出した。お姉様を知りたかったから。
ナグナ様とは、お姉様の事で手紙を出し合っていた。お姉様の婚約者であったナグナ様もお姉様の変化に戸惑っていて、昔みたいに戻ってほしいってそう思っていて。だから文通をしていた。アシュイ様たちとはナグナ様を通して仲良くなった。お兄様みたいな存在たちだ。
高等部では私がナグナ様たちに恋愛感情を持たれているとか言われているみたいだけど、正直ありえないと思う。ナグナ様はなんだかんだでお姉様の事を好きだったし、アシュイ様たちはナグナ様が妹のように可愛がっている私に優しくしてくれただけで。本当にそれだけだったのだ。
嫌がらせがお姉様の命令だって知った時は、悲しかったし、驚いた。でも証拠を見つけてお姉様を糾弾できれば、お姉様は昔みたいに戻ってくれるのではないかと思った。お姉様が私に嫌がらせをするとすればナグナ様と仲が良い私への嫉妬だとも思ったし、あの場でお姉様が謝ってくれればよかったのに。
と、馬車に揺られながら私はずっとそういうことを考えていた。
ナザント公爵領についた。
学園に入学してから時々しかかえってこれなかった場所。
お姉様はもう私に当主を譲る事を通達していたらしい。お姉様の後見人であるアサギ・キモリアと、実家にいるお姉様の奴隷たち、お姉様が孤児院から無理やり働かせている子たち、お姉様がどこからか連れてきた武装集団たち、そして使用人たち、お姉様が雇っている貴族のものたち―――。
沢山の人たちが私を向かいいれた。
でも、歓迎されていないように見えた。どうしてだろう。
ほとんどがお姉様が直接的に集めた人ばかりだ。……特に武装集団だなんてお姉様と一緒に悪い事をしていた人たちだと思うからちょっと怖い。
でも、私はこのナザント領をよくしていきたい。前のように戻したい。だから、私は頑張る。
「……エリザベス様から話は聞いてます」
後見人であるアサギ・キモリアはそういって、不満そうな表情を浮かべた。
お姉様と仲良くしていた後見人。この人がしっかりしていたらお姉様は道を誤ることもなく、悪い事も出来なかったかもしれないのにって思うと正直この人に対して良い感情は浮かばない。
大体お姉様が冷たくなって、変わってしまった頃にお姉様の教育係についていたクラウンド・キモリアという方は有名だけど厳しい方らしく、王家からの信頼もあるが悪い噂も結構ある人だとナグナ様が言っていた。
お姉様が変わった頃についた教育係――なんでお父様はそんな人をお姉様の教育係につけたのだろうか。お姉様が奴隷を買い始めたのもその頃だった。ナザント領では奴隷商が領内に入ることも禁止している。その政策はずっと続いているけれど、お姉様は奴隷を買っている。お姉様が領民を奴隷にしているっていう話も出ているらしい。
「……私が当主になるからには悪い事はさせません」
「……あー、そうですか」
アサギ・キモリアは呆れたような表情を浮かべた。
何故、そんなに余裕なのだろうか。証拠が見つからないとタカをくくっているのだろうか。
……大丈夫。ナグナ様たちだっているんだから、絶対に証拠を見つけて、この人をどうにかする。そしてお姉様に罪を償ってもらって、昔のお姉様に戻ってもらうんだから。
記憶の中にあるお姉様、優しかったお姉様の姿が嘘だったなんて思えない。お姉様は本来優しい人のはずなんだ。だから―――、そんな思いで私はナザント公爵領の領主の部屋に足を踏み入れた。




