マッドハッター
「わたしは……うさぎさんを追いかけて行って」
「白うさぎね?」
アリスの確認に、ありすは頷いた。
「待って、追いかける前は?」
「えと……本を読んでいたの。近くに川があって。
そうだ。わたしが本を読んでいたんじゃない。お姉ちゃんが本を……」
「その『姉』はあなたの『姉』?」
「たぶん」
「多分?」
「いいよ、それで?」
厳しい口調に言葉の詰まった ありす にマッドハッターは優しく声を掛けた。
「それで…… 気が付いたら、うさぎさんを追いかけていて」
「で、うさぎ穴に落ちたのね」
「わからない」
「そうよ、そうなの!」
「そうなの?」
決めつけた言い方をしたアリスにマッドハッターは聞いた。
「だって、じゃないと話が……」
「進まない。 そうだね。
そうだよ。アリスは正しいよ。
でも、話を進める事だけが 大事なこと かなぁ?」
アリスは一瞬止まった。
「あ~~~!!!! もうっ! 貴男の質問は大嫌いよッ!! 」
「どうして?」
「答えが無いからよ。意味が無いわ」
「答えが無いと、意味が無いの?」
「そうよッ!」
「そうかなぁ?」
マッドハッターは笑った。
「じゃぁ、どうしてアリスは また 此処に来たの?」
「それは!」
「答えはあるよ? 僕に会いたかったの?」
アリスは我慢がならなくなり、立ち上がった。
「会うんじゃなかったわッッ!!!」
アリスはドアのついた木を捜した。
「アリスは、マッドハッターに会いに来たの?」
ありすは聞いた。
「どうだろうね。 それも正解かもしれない。 でも、もっと大事なこと」
「もっと 大事なこと?」
「そう。 そうだよ、ありす」
「わたしも、またマッドハッターに会いたいと願えば……会える?」
「会えるかな? 会えるかな。 会えるといいね」
「! それ、チェシャ猫!!」
「会えるよ、また。 きっとね」
マッドハッターは ありすに優しく微笑むと、頭を撫でた。