10 「あいしてる」
初出:2012.03.14.
我らに許されたのは、ただ愛することだけ。
冷たく硬い石の刃こそが本性なのだと突きつけられるように、どれほどひとの姿を真似ても現身に温度は宿らない。流す血も、涙も、所詮は幻であって己以外のものに触れればあぶくのように弾けてしまう。いや、我らの現身そのものが幻影なのだ。
なぜ、母なる女神は我らに心を与えたのか。
己以外の何者を愛し、愛されたいという感情を植えつけたのだ?
我らは刃、我らは剣。いのちを斬り、いのちを殺し、いのちを滅するためにこそ創られた。使い手の意のままに振るわれ、使い手のためにこそ生きてきた。我らを求め、望む使い手を、だからこそ我らは尊び、愛し、欲し、〈鞘〉と呼ぶ。
我らは孤独だ。同族を持たず、つなぐ血を持たず、世界が滅ぶそのときまで不変のまま在り続ける。恋しい使い手とともに時を刻みたいと願っても、すべては砂のように呆気なく指の間からこぼれ落ちてしまう。我らは久遠の鎖につながれた虜囚なのだ。
ああ、だからこそ。
あなたの手は冷たいね、だけど心はあったかいねと笑うおまえが、たとえ幻でも痛いときは痛いって言えと怒るおまえが、今はもう追憶のなかでしか逢えないおまえたちが、泣きたくなるほどまぶしくて、いとおしいのだ。
我らに許されたのは、ただ愛することだけ。刹那のきらめきのような日々を待ち焦がれ、惜しむことだけ。その、なんと残酷で狂おしいことか。
ああ、それでも。
我らは愛されずにはいられぬのだ。夜明けの光のように輝き、黄昏の光のように燃え尽きるいのちを。我らの喜び、我らの悲しみ、我らの心を。
おまえに、おまえたちに捧げるこの想いこそ、我らが持つ唯一無二の確かな真実。
母なる女神よ、我らは感謝しよう。呪われた生を、苦しみに満ちた宿命を歓んで甘受しよう。この胸に宿る火があれば、我らは闇に惑うことも寒さに凍えることもない。
愛するおまえたちとともに在れるのならば、永遠すらおそろしくないのだから。
(聖剣グラディエル・魔剣ヴァルディリート/勇者のための鎮魂歌)