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05 「どうかお元気で」

初出:2012.01.01.

2012年新春企画としてサイトのWeb拍手にあげたもの。

 かじかむ指先を吐息で溶かし、郵便受けを開ける。

 何枚も届けられた年賀状の差出人の名前をひとつひとつ確認していく。この間に、わたしの時間はいともたやすく十五歳の頃まで巻き戻ってしまう。ほんの小さな喜びを何倍もの幸福に変換することができた、甘く優しい初恋の日々に。

 最後の一枚にその名前を見つけた瞬間、きっとわたしはあのひとに褒められてはにかむ少女と同じ顔をしていた。

 中学を卒業してから両手で数えられるほどの時間が経っても、あのひとはこうして年賀状を送ってくれる。毎日のように黒板で目にしていたものと少しも変わらない、癖があるけれど丁寧な筆跡で、あの頃のまま穏やかに問いかけてくる。

『お元気ですか。きみが今年も健やかに過ごせるように、幸せであるように願っています』

 きっと今頃あのひとの許にも、わたしからの返信が届いているだろう。

『わたしは元気です。今年は去年よりもっとすばらしい年になると確信しています』

 差出人に記したわたしの名字が変わっていることに気づいたあのひとは、びっくりしたように瞬いて、それからほろりと笑みをこぼすに違いない。心から祝福してくれるだろう。ほんの少しでも寂しいと思ってくれたら、心の片隅にいる十五歳のわたしはしてやったりとほくそ笑む。

 あのひとが幸せだと知っているから、わたしももっと幸せになろうと思えるのだ。




(渋沢素子(旧姓・氷野)/初恋組曲)

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