02 「抱きしめてほしい? それとも殴ってほしい?」
初出:2011.12.07.
自慢ではないけれど、僕は友人が少ない。
彼女曰く、『思考回路と言語中枢が複雑怪奇にねじ曲がっている』らしい僕の口はだれかへの好意を嘘に変えて吐き出してしまう。好ましいと思う相手にほど山のようなほらを吹き続けて二十余年、気づけば僕の周囲からはすっかり人間が消えていた。当然といえば当然だけれど。
だからこそ、僕のどうしようもない性格というか性質を理解し、怒鳴ったり笑ったり呆れたりしながらも許容してくれる存在は本当に得難く、かけがえのないものだった(人生の伴侶である彼女はその筆頭だ)。彼らがひとりでも欠けていたら、おそらく僕は自業自得な孤独にすり潰されていただろう。
……もしかしたら、あと少しですり潰されてしまうかもしれない。
「本当にあなたは要領がいいようで不器用なひとね」
泣きたくなるような彼女の声がそっと傍らに降ってくる。やわらかな重みが肩にかかり、子どもをあやすようにぽんぽんと背中を叩かれた。
部屋の隅でうずくまる僕の隣に座った彼女は、「後悔しているのね」と呟いた。
ひどいことを言ってしまった。絶対に口にするべきではない、あまりに浅慮で残酷な言葉を。
青ざめて僕を睨む友人の顔が脳裏に焼きついてはなれない。嫌われてしまった。傷つけてしまった。信頼を、失ってしまった。
「どうせ謝らずに逃げてきたんでしょう?」
すると、彼女は母親のような厳しい口調で尋ねてきた。
「わたしはあなたを優しく抱きしめて慰めるべきかしら。それとも、『許してもらいたいのなら、頭が地面にめりこむくらい土下座して謝り倒してきなさい』って拳で一喝すべきかしら?」
まったくきみっていうひとは、いつだって僕に一番欲しい正しさを与えてくれる。
(嘘つきな彼/恋愛詐欺師)