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第一部 八話 エセ魔術と救世主

馬車の上で目を覚ますと、俺の体を草原の心地よい風・・・ではなく荒野のすすけた砂埃がまとわりついていた。

全く爽やかではない。不快の一言だ。

砂を払い、目も覚めぬ内に馬車の動きが止まる。

どうやらウェンデルについたようだ。

馬車の閉ざされた空間の中では移動中の風景など全く見ていなかったので、外の景色が恋しくなる。

だが、ウェンデルとやらもまた基地もどきなのだろう。それでも今は外が見たい!

馬車の扉を勢い良く開け、外に飛び出す。


そこにあったのは、洋風レンガで作られた街並みが広がり、溢れんばかりの喧騒に満ちた世界だった。

ただ唖然とする。

まあ考えてみれば人間族は冒険者だけで成り立っている訳では無いのだから、生活空間が存在するのもわかる。

しかし周りに広がる荒野との違いすぎる環境に俺は驚きを隠せなかった。


まずは街の中央にある、冒険者ギルドの建物へ向かう。

ギルドは前の街の物とは比べ物にならないほどの大きさだった。ギルドと言うよりは宮殿のような荘厳さである。

受付に向かい、ケリィ・マーセナスの名を出すと、受付の態度が一変した。

「ケリィ様ですか?!で、では、ギルドマスターがお会いになりますので、そちらの階段をお登りください!」

ほう、魔王撃退はVIPの証ってやつか。

ギルドの中央にある階段を登り、上に登ると、そこにいたのは透き通ったブロンドの髪を持った、俺とあまり年の離れたようには見えない青年だった。

「ようこそウェンデルへ。魔王撃退の英雄、黒の魔術師ケリィ・マーセナス。私はこのギルドを預かるカイアスだ。今後とも宜しく頼む。」

なんと落ち着いた人物だろう。その瞳は真っ直ぐに俺に向けられ、すべてを見透かされているようだった。

「どうも、ケリィ・マーセナスです。特例ということでやって来ました。」

「まあ、楽にして構わないよ。最前線と言っても今はそんな死人ばかりの場所なわけではないよ。まずはこの街を案内させよう。積もる話は後にして、入り口に部下を用意させたから、たっぷりこの街を見てきてくれ。」

俺は魔王撃退のVIPどころかヒーロー扱いされているようだ。しかしあんな若さで最前線を束ねているというカイアスは何者なのだろう。

そんなことを考えながらもギルドの入り口に戻ると、そこにいたのは背の高く、青のローブを纏った優しげな女性だった。

「貴方がケリィさんですね。カイアス様から話は聞いております。私が案内しますので、どうぞこちらへ。」

言われるがままに街へと繰り出した。

街は異常なほどに平和だった。レンガ造りのいかにもファンタジーといった家々が立ち並び、あちこちで市場が開かれている。空は青く透き通り、俺に元の世界の空を思い起こさせるようだ。

「最前線には見えないでしょう?この街はカイアス様がやって来るまではそれはひどい荒れようだったのよ。魔族に攻め込まれようとしていた所にカイアス様がやって来て、この街を救ってくださったの。」

ここでは彼は救世主として慕われているのか。確かにここにくるまでの様子を見ればここは天国に思えるだろう。だがどうやってあんな荒野をここまでにできるんだ?

「あのお方一人でやったなんて聞いても信じられないでしょう?カイアス様は世界でただ一人、古代からの魔術の全てを受け継いだお人なのよ。だからここの皆はあのお方について行けば間違いなく、人間族は新天地とかつての栄光を取り戻せると信じているのよ。」

カイアスはこの街で絶大な権力と人気を持っているようだ。うっとりとした顔でこの話をする彼女も彼に傾倒する一人に違いない。

だがそこでふと俺の中にある疑問が生じた。空は青く透き通っている。

なぜだ?空を深く凝視する。

外の赤茶けた空とは異なりここの空は青い。雲が泳いでいる。そこで俺は違和感の正体に気づいた。

雲が動いていない。それに昼間に良く目を凝らせば見えるはずの月もない。これは、元の世界で知っているなにかの特徴に瓜二つだ。

だがそれが何だったかが出てこない。

頭を悩ませていると、

「街の外れまで行くと最前線の戦場があります。それも今はカイアス様の魔術でこちらが有利であり、街は守られているので安全です。ではそろそろカイアス様の元に戻りましょう。あのお方が貴方と一対一でお話しなさりたいそうですから。」

再び連れられ、ギルドまで戻り、カイアスの元へ行く。

カイアスがなにかの秘密を持っている、と頭の中でもう一人の俺が騒いでいた。


「やあケリィ、街はどうだったかな。なかなかに美しい街並みだと思わないか?」再びカイアスの元に行くと、彼は優雅に飲み物を口にしながら俺を待っていた。

「確かに綺麗な街ですね。実に綺麗でした。」

俺は此処で彼に、この街を作った魔術の正体を問いただそうと思っていた。だが、彼はそうなることを知っているかのような目でこちらを見つめている。そして俺が切り出すよりも先に、

「もう君の疑問は分かっているよ。ここなら他の連中はいない。腹を割って話そう。そう、君と同じく僕も転移者だよ。君ならもう気付いたんじゃないか?この街のおかしさに。」

「ええ、おかしいと思いました。雲が動いていないし、そもそもあんな空を作り出すなんてどんなに創術が上手くてもできるはずがない規模です。」

そうか、こいつも転移者だったのか。

「僕はここに来るまでは工業高校にいたんだ。いきなりこんなところに来たのには心底ビビったけどね。

でも調べたらこの世界にある遺跡と呼ばれるものは全て、僕らの知ってる世界と似てると気づいたのさ!あのおかしな習得装置はわからなかったけど、遺跡から持ってきた装置を使えばこんな空なんて朝飯前の事なんだよ。」

習得装置?あの日本製らしきスキャナーの事か。

「それから僕はいろいろな物を遺跡から引っ張ってきては直した。どれも簡単さ。あとはそれを魔術だといえばこの世界の連中はホイホイ信じてくれる。おかげで僕は救世主さ!この空だってただのプラネタリウムの改造品なのにね!本当ちょろいよ。」

じゃあこいつ魔術なんて使えないただの機械オタクじゃないか。でも馬鹿じゃなさそうだな。

「それで気づいたんだ。僕ら転移者が集まれば、この世界なんて簡単に手にいれられるとね。魔術は使えないけど救世主の僕と、魔術が使えるけどもただの冒険者の君が手を組めば、実に簡単だ。どうだろう?ケリィ。面白い話だと思わないかい?」

こいつなんか壮大な野望持ってるな。

でも、この話に乗ればここに居やすくなるのも確かだ。このまま魔族と戦うことになればやがては魔王にもう一度会えるかもしれない。俺は何としてもあいつにもう一度会わなくては。

「分かりました。その話に乗りましょう。俺は前線で戦えば良いんですね?英雄として。」

「そうだ。話が早くて助かるよ、ケリィ。最近の転移してくる奴はクズばかりでね。君みたいな話の分かる人間が欲しかったんだ。」

俺に言わせればお前も充分クズだけどな、このロン毛野郎。

「君の住まいはギルドに準備しよう。これからはさっき案内をしたあの子からクエストを受けてくれ。じゃあ、この事は秘密で頼むよ。」

そういってカイアスは部屋の奥へと姿を消した。

カイアスの部屋を出ると、俺の部屋へと案内された。前の寝室とは違ってかなり豪華だ。素晴らしくふかふかである。気がつけばもう日は落ちていた。

「移動でつかれたし、今日はもう寝ようか・・・」

明日からは英雄扱いだ。カイアスのエセ魔術がどんなものだかは知らないが、俺は俺のやり方でやるだけだ。利用出来るものは利用させてもらおう。


そう言って俺はふかふかのベッドに倒れこんだ。


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