間章 紅の神剣使い
私がイースに放り込まれたのは丁度私が彼くらいの時だ。
でも私は今の彼よりも多くを学び、多くを失ってきた。多くの世界を見た。
何も知らないままに駒にされる転移者。
何も知らないままに生き続け、無駄な争いを続ける人間族。
そんなのを見続けてきたからこそ、私はそれを止めたいと思った。
あの男と出会い、導かれたせいもあるだろう。
だから私は受付嬢になった。
何も知らない転移者達を導き、真実を知らせようと。
だが実際はそうはならなかった。
なぜ転移者が現れるのかは分からないままだが、私のところに現れる転移者はロクでもない連中だらけだった。
私は失望した。あの男に導かれて私は真実を知った。
だから私も誰かを導いてやりたい。そうおもっていたのに。
一年が経って、私は決心した。
あと一年。一年経っても真実を知るべき転移者が現れなかったのなら、私はあの男の元へ行こう。そう決めた。
そう決めてからも、誰も現れなかった。
だがあの日、決心をつけてから三百と五十三日目。
彼は現れた。
あの男に似て、周りとどこかズレている、でも何かを探し求める強い意志を感じた。強い、とても力強い、焔のついた目だった。
ついに現れた。そう思った。だが私は長い孤独と秘密を抱え、人を信じることを忘れていた。だから始めは彼に何も教えず、いつも通りに接した。
だが、彼はそんな私の目を覚ますかのように、私に大いなる可能性を見せてくれた。私には見えていた。
彼が街外れで何を守り、何のために戦ったのか。
あの男が助けに現れたのは予想外だったが、彼は勝った。
だから私は彼に賭けてみることにしたのだ。あの男によく似、強い焔の目を持った彼が世界をどこまで変えられるのかに。
私の受付嬢としての役目は終わった。
私は私にできることをしよう。
彼にはささやかだが贈り物もした。
私があの男と別れる時、譲り受けた物だ。
私は今日から受付嬢ではない。
彼の、「黒の魔術師」の創るであろう未来と真実の為に。
私は今日からサイラス・ローズだ。
あの男はあいつなりのやり方で闘っている。ならば私は私の闘いをする。
かつて「紅の神剣使いサイラス」と呼ばれたその女は、一人で夜の荒野に消えた。一つの大きな未来の為に。




