第一部 七話 受付と義手と剣
さっきまでの緊張感が蘇ってくる。
俺は・・・腕を切られて、魔力が尽きて、それから変な男が現れて、生きている?
なぜ生きているんだ?あれは幻とか・・・ではない。現に俺の右腕は無い。だが傷口が無い。治療が施されている、それも高度な術で。
周りを見渡すと、黄色の男と刀を持った奴が倒れている。だが死んではいないようだ。魔術師は、事切れていた。
そうだ、俺がやったんだ。
胸の奥に言いようのない黒い靄がかかる。「殺人」という罪悪感だ。
だが、それはあの魔族の子を守ろうとしてやったことだ。仕方のない事なんだ、と自分に言い聞かせる。
だが、何だったんだあの黒い男。
こいつらは確か「魔王」と言っていた。そんな最終ボスがこんなところに現れるもんなのか?
しかし結果的にそうだとしたら俺は魔王に助けられた事になる。
それに最後に聞こえたあの言葉、
「自分の心でなすべきことを考えろ」
俺に何をさせたいんだ?
倒すべき存在。悪の中の悪。
だがその時俺は、その男に悪以上の何かを感じていたような気がしていた。
「うぁぁぁぁ!!お、お前か?お前が魔王をぉ??!」
黄色が目を覚ましていた。完全に戦意を失っているようだ。
「ヒィイイィイイ!」
黄色は刀の奴を抱えて一目散に逃げて行った。
まあ無理もないか。
目が覚めたら目の前には片腕の新人と崩壊したパーティーだもんな。
だがあいつらがしたことが正しいことではないのも確かだ。ただ、それを街に戻って告発しても相手にされないのは目に見えている。
「転移者の新人が魔族を見逃した」
それで終わるだろう。
今の俺に何が正しくて何が悪なのか、それを決められる力はない。
魔王が残した言葉、それを確かめるにはまだ時間がかかりそうだ。
まずは街に戻らなくては。
既に身も心もボロボロだ。そして何より、
「俺の腕がぁぁぁぁぁぁァァァ!!」
街はずれと言えども、一人で歩くとかなりの時間がかかった。
街に戻り、ギルドに戻る頃には既に陽はくれていた。
受付に片腕の俺がヨロヨロと帰ってきた時は驚かれたが、先にあの黄色が戻って何らかの報告をしていたようで、対応は迅速だった。
しばらくはギルドの医務室漬けになってしまったが、どうやら黄色がとんでもない報告をしていたらしく、俺は魔王撃退をやり遂げたということになっていた。
おかげでギルドから特別報酬が出て、魔術で作られた特製の義手を都合してもらったのはラッキーだったが。
特製のこの義手は、魔術が込められていて、なにやら魔術に属性を付加できるらしい。色が黒な所からして、闇属性でも付くのだろう。あれだ、機◯鎧ってやつに似てるな。
こうして俺の最初のクエストは大変な結果に終わった。
数日後、無事に治療を終え、ギルドの受付に報告に行くと、
「ケリィさん、回復おめでとうございます。魔王の撃退、正直信じられません。いかに転移者と言っても、私が案内した方の中でこのようなことは貴方が始めてです。さて、今回の結果により貴方はこれから、特例でここから東にある都市ウェンデルでクエストではなく、最前線の任務について頂きます。」
きたよ出世コース。
「なお、最前線は死亡率が25%を記録していますので装備は万全を。」
あれ、死亡フラグか?おい。
「それと、今回の成果として、ささやかながら、私からの贈り物です。」
そういって渡されたのは、真紅に染められた鞘に入った漆黒の剣だった。
「この剣はあなたが願う限り、どこからでも鞘に戻り、あなたを助けるでしょう。どうか次なる冒険の助けに役立ててください。私も今日でギルドの仕事は最後となりますので。」
初めてこの受付の女性が感情を見せたような気がする。
「申し遅れましたが、私の名前はサイラスと言います。あなたと同じ、転移者です。
また次は冒険の途中で会いましょう。
ケリィ・マーセナス、それではお元気で。」
おれと受付・・・ではなくサイラスは最後の挨拶を交わし、ギルドを後にした。
ウェンデルまでの馬車はあと一時間しかない。
転移魔法があればいいのだが、それを使える魔術師は人間族に存在しないらしい。
おれは素早く二階の荷物をまとめ、その後、ウェンデルへの馬車に乗った。
この街の名前は最後まで知らなかったけど、おれのケリィとしての鮮烈すぎるデビューを飾った舞台だと思うと、少し寂しくもなる。
まだ短いが、イースでの生活は非常に濃厚だ。
元の世界での事は忘却の彼方に消え始め、代わりにここ数週間での体験が深く刻まれている。
黄色や刀、魔族、魔術、サイラス・・・
これから俺はどうなるんだろう、と進路選択にも似たような思いを抱えながら、俺は馬車に揺られながら眠りに落ちた。




