第一部 六話 犯罪者と魔王
その連中は、なんというか、野蛮だった。というか、ヤバい。
今も俺の横で訳のわからない雄叫びを繰り返し、中には場所も考えず適当に術で物を壊しまくっていつやつもいる。
こんな連中とパーティー組むの!?
「あの・・・」
「あぁん?お前も転移してきた奴か!遅えな、おいてくぞ!」
いやいや、あなた達暴れまくってるだけっしょ。
「てめえら行くぞぉ!!」
黄色の鎧を全身を纏った男が叫ぶ。見たところ彼らも転移者なのだろうか。
パーティーは4人。俺と黄色。それに巨大な刀を持って振り回している奴と後ろで何やらブツブツ呟いている怪しい魔術師だ。
「俺らはな、ここにくる前はな、ムショにいたんだよ。なんか変な本読んで唱えたらここに来たんだ、まあここなら暴れ放題だしなぁ!」
街の周りをパトロールしながら、刀の奴が話しかけてきた。
「要するに魔族とかいう連中をブッ殺しゃあいいんだろぅ?ぎゃははは!お前は随分小せえんだなぁ?そんなんじゃあ俺が殺しちまうぞ?」
こいつらはヤバイ。マジでヤバイ。
そんなことを思っていると、
「おっ?モンスター発見ぇぇン!シャァァァ!」一瞬だった。
野生の狼が目の前で真っ二つにされた。
改めて俺は自覚した、これはゲームでもなんでもない、ただの現実なのだということを。
その証拠に、目の前の狼からは赤い液体が止めどなく流れ、返り血を浴びながら残忍な笑みを浮かべる奴が目の前にいる。
俺はショックと共に怒りを感じていた。
だが、こいつらの顔を見ただけで吐きそうになってくる。
一刻も早くこのクエストを終わらせたかった。
道中は特に何事もなく(モンスターは彼らが満面の笑みで殺した)、最後に街外れの小屋を見回って終了、という段取りだった。
俺は今この瞬間にでもここから逃げ出したかった。こいつらは一体何をしでかすか分からない。
俺は彼らとなるべく関わらないよう、パーティーの前衛を務めていた。
小屋が見えてくる。
だがその近くに、何かがいる。
それは、小さな・・・魔族だった。
「これが魔族・・・」
子供だろうか?にしても人間に似ている。いや、顔は動物的な感じで耳が大きく伸びているのだが、行動だ。隣のモンスターとじゃれている。
俺を見ても何の警戒心も示さない。
これではまるで人間の子供と同じではないか。
「おい!あんなとこにモンスターがいるぜぇ!俺のもんじゃあぁぁ!」
気が付くと、黄色の奴が追いついて来ていた。何のためらいもなく、魔族の子供に、手に持った斧を振り下ろそうとする。
とっさに俺は頭にイメージを作り、魔族の前に土の壁を作り出した。
「おい!てめぇ、何してんだぁ?分かってんのか?」
「分かってますよ。でもこの子は子供ですよ?何もしてないじゃないですか!」
特に理由はなかった。体が勝手に反応したのだ。この子を殺すのは違う。俺の結論はすでに決まっていた。
「あんたがたが元の世界で何をやってきたかが知らないが、これはクエストじゃない、ただの殺しだ!」
周りをみると、他の二人も到着し、俺を舐め回すように眺めている。
「おい、聞いたかぁ?こいつは敵をかばったよなぁ〜、じゃあこいつは敵できまりだよなぁ!」
三人は一斉に俺に襲いかかってきた。
冒険の始まりだってのにこんな展開ありかよ。
相手の動きに合わせて火炎弾を打ち込む。武級創術「玉炎」だ。
「てめぇ、魔術師だったのか!」
今更かよ。
「ぐぁぁ!」
炎は一瞬の隙をついて敵の魔術師に当たり、魔術師はその場に倒れた。
だが、次の瞬間には長い刀が俺の鼻を掠めた。
そもそも魔術師に一対多数は極めて不利だ。それに加えて相手は筋金入りのワル。いや、クレイジー野郎だ。
「イヒヤァァァ!!」
黄色の奴が斧を片手に突進してくる。
仕方ない、詠唱を使うしかない。
陰術で黄色の手前の地面を抉る。黄色は態勢を崩した。今しかない。
指輪をかざしながら、呪文を唱える。
「出でよ業火、深淵の火、獄炎壁!」
途端、俺の目前に黒い炎の壁が出現した。
「チィッ!」
黄色が後退する。
いける。俺は魔術師だ。勝てる!
だが、炎が消えた瞬間、巨大な脱力感が俺を襲った。眩暈がする。
魔力がきれた・・・?
忘れていた。魔術は魔力を使うのだ。こんな常識的な事をなぜ忘れていたんだろう。
「え・・・?」
気がつくと、俺の右腕が無かった。いや、落ちていた。
「うぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
強烈な痛みが走る。
あいつだ。あの刀の奴。
意識が薄れる。こんなところで終わるのだろうか。犯罪者に殺されて・・・
「グァァァ!」
突然、紫の光が刀のやつに直撃した。
おぼろげな意識で光の飛んできた方角に視線を向けると、男がいた。
全身が黒に包まれている。俺のローブも黒だが、もっと濃い、漆黒だ。
男は無言でこちらに歩いてくる。
「ま、魔王?なんでここに?!チクショオオオオ!」
態勢を取り戻していた黄色が男に襲いかかる。だが、男が何かを唱え、指先をかざすと、何かに弾かれたように黄色が吹っ飛び、静かになった。
男が目の前に立っている。
彼は俺を見ると一瞬の戸惑いを浮かべたような仕草を見せたが、俺の意識はそこまでだった。最後に聞こえたのは、彼の「自分の心でなすべきことを考えろ」という声だけだった。
そこで俺の意識は途切れた。




