第二部 一話 故郷と不穏
目の前が光に包まれた。
少しの間をおいて、視界が戻ってくる。
「・・・。」
俺とカイアスの目に入ったのは、高くそびえるビル群と人混み。そして懐かしく照りつける真夏の暑さだった。
ついさっきまでの光景との大きすぎる差に俺たちは声を発することが出来なかった。
ここは・・・どこだ?
転移装置を潜ったのはそうだが、本当に違う世界に来たのだろうか。
「ここはどこなんだ?」
カイアスも同じ疑問を感じているようだ。
気がつくと周りの人々が俺たちを凝視しているのに気付いた。
改めて自分の格好を見渡す。
黒のローブに太陽の光で輝く義手。カイアスもそれと似たようなものだ。
当たり前の格好じゃないか。どこがおかしい。
自分たちに集まる目線が不快だ。
とりあえずここに留まったままではいけない。俺はカイアスに声をかけ、何処か休息を取れる所を探した。
しばらく人混みの中を歩き、屋外にカフェテリアのある店を見つけた。
美味しそうに飲み物を飲んでいる人達を見ると無性に喉が乾いてくる。
せっかくだし、何か注文するか。カウンターに行き、店員にオーダーする。
「ココアとパンをくれ。」
だが、店員はこちらを見て首を傾げるばかりだ。
なんだこいつは、舐めているのか。
もう一度、オーダーを大きな声で伝える。だが反応は先ほどと同じだった。他の店員を呼んで何かを話しているがよくわからない。
困ったな。何故こいつらは話が分からないんだ。
すると、後ろから声をかけられた。
「ココアとパンですか?」
頷きながら声の方を向くと、そこには少し細めの女性がいた。
顔つきを見るに俺と同じぐらいの年齢に見える。
彼女は俺が頷くと、カウンターの店員に注文を伝えているようだ。その彼女もよくわからない言葉を話している。
注文通りに品物が出されたあと、俺たちは彼女になんとか身振り手振りで感謝を伝え、カフェテリアでやっと一息つくことができた。
「待ってください!」
さっきの彼女が後を追いかけてきた。
とりあえず席に座らせることにする。
ここに来てからずっと苦い顔をしていたカイアスがここで口を開いた。
「失礼、ここは何という所ですか?」
「ここですか?ここは、日本です。あなた方はもしかして・・・イース人ですか?」
彼女が自信の無さげな顔で見つめてくる。
「そうです。俺たちはイースから来ました。転移装置に乗ったと思ったらまた日本に戻ってきたんです。」
そうか、ここは日本か。その二文字を聞いた瞬間、心に何とも言えない懐かしさが湧き出してきた。
自分はついこの間までこの日本に暮らしていたのだ。ここで一般の市民として。
・・・もしや。
『えーと、こんなかんじでしたっけ?』
彼女が僅かに笑いを浮かべる。
『そうです。日本語です。やっと勘を取り戻してきたみたいですね。』
あの神様とかいう奴にいきなり何かを流し込まれてイースで暮らしてたもんだからここで話されていたのが日本語だと気づかなかった。
母国語を忘れるとは我ながら情けない。
お互いに笑いあっていると、カイアスが、
「待ってください。なぜあなたはイースの事を知っている?それに我々がイースにくる前は日本にいたという事も。」
彼の顔には彼女に隙を見せない緊張感が感じられた。
彼女は周りを見渡し、一呼吸置くと、
「さすがは啓・・・いや、カイアスね。場所を変えましょう。私についてきて。もちろん黒の魔術師、あなたもよ。」
そう言われるがまま、俺たちは彼女に連れられ路地に入った。
ここが日本だというのは分かったが、日本の何処かまでは未だに分からないままだ。
俺は小声でカイアスに囁いた。
「・・・・おいカイアス、ここは日本のどこだ?」
「横浜だ。それしか分からない。」
気のせいか何処と無くカイアスの表情は暗い。
横浜。
そして、さっきは気にも止めなかったが、啓なんとかという言葉。
ここでも俺は平和に過ごせる気が全くしない。




