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第一部 十八話 ターニング

しばらくそこに立ち尽くしていた。

二人とも無言だ。

カイアスが俺の気持ちを察してくれているのは痛いほどわかる。


ならば、ここで止まっているばかりではいられない。

俺は二人だった『モノ』をもう一度だけ見つめ、エレベーターに乗り込んだ。


エレベーターは今度は定員オーバーの表示を出さず、上へ動き出して行く。

この箱の中は静かだ。

ただ上へと登る動作音だけが響く。


カイアスが重い口を開く。

「さっきはすまない。」

「いや、いいんだ。ああなるしかなかった。・・・前に進もう。」

お互いに瞳を見つめ、決意を確認する。

カイアスも元は地球人だ。いかにイースの事を知っていようとあれを見て何とも思わないはずは無い。察してくれているのだ。


ポーン。

再び無機質な音が箱の中に響く。

一体どこまで登ったのだろう。

エレベーターの動きが止まり、扉が開く。


その先にあったのは、広めのスペースに装置だらけの不思議な空間だった。

そのそれもが稼働している。決して遺跡ではない。

中央にあるのは転移装置・・・だろうか。大きなパッドに装置がセッティングされている。

「こんなところが・・・。」

カイアスは 好奇心と驚きの混じった表情で部屋を呆然と見つめている。

「ここは遺跡じゃないのか?」

「いや、遺跡だよ、少なくとも下のフロアまでは。見ろ。全て正常に動作している。これじゃあまるでずっと正常に稼働してる研究室みたいじゃないか。」

俺はそういう機械には詳しくないのでカイアスの話にはあまりついてはいけないのだが、この状況のおかしさぐらいは分かる。

「とりあえずこの部屋を調べよう。」

カイアスの提案で部屋を探索する事にした。

ところどころ埃を被っているところもあるが、設備を見るに、最近も使用されているようだ。

一体誰がこの場所の存在を知り、利用しているというのか。

「おいケリィ!何かあったぞ。」

装置の近くを見回していたカイアスが声を上げた。

彼が見つけたのは、真新しい封筒に包まれた手紙だった。


『ケリィ・マーセナス様

ここに辿り着いたということは、貴方はこの世界の秘密の一歩手前まで来ているという事です。

私も転移者ですから、突然人生が変わってしまった貴方の気持ちはよく分かります。しかしここから先、貴方の人生は更に大きく変わるでしょう。

一歩間違えば、命を落とすこともあり得る話です。

今はまだ全てをお話することは出来ませんが、もし貴方がそれでも世界の何かを変え、父を探したいと願うのなら、中央にある装置に入って下さい。

そうすればまた会うこともあるでしょう。


サイラス』


サイラス。俺の背中にあるこの剣をくれた人。案内所の女性。

その人の名前が何故こんな所で出てくるのだろうか。


カイアスにも一応この手紙を見せる。

彼はしかめ面のままで手紙を睨んでいたが、読み終えると、

「紅の神剣使いだ。まさか、この秘密を知っている人間は他にも何人かいるってことか・・」と呟いた。

「紅の神剣使い?なんだそれ?」

始めて聞く単語だ。

「ケリィ知らないのか?紅の神剣使いだぞ?サイラス・ローズの名前を知らないのか?」

サイラス・ローズ。確かに名前なら聞いたことがあるが。

「彼女は歴代転移者の中で最も強い女性だ。彼女の剣技は誰にも見切れず、どこにも与しないでこの世界の何処かを彷徨っているらしい。」

ほぉ。それは初耳。もし俺の知っているサイラスとその神剣使いとやらが同じであったら、神剣は俺の背中にあって、彷徨うはずが辺境ギルドの案内所にいたってことになるな。

だが、会ったこともない人間が俺の名前を知っているはずは無いしな。

信じられない話だが、そう考えるしかないだろう。

俺が頭を整理していると、カイアスが

「ケリィ、君は何というか、特別だな。

君自身は特別な力がもともとあるわけでも無いし、そこは私と一緒だ。でも君はイースに来た時からずっと、特別な時に特別な場所にいるんだな。多分、それがケリィ、君の運命だよ。黒の魔術師の人生なんだ。

さあ、どうする?

私は行くなら君と行きたい。もうイースに来てしまった時点で人生なんてぶっ飛んでる。もう今更どう変わろうが何ともないさ。」

確かにそうだ。俺の人生はもうおかしいくらいにぶっ飛んでる。

今の俺に出来るのは、父を探すことだけだ。この世界の秘密を知ることが父を見つけるために必要なのだったら、それをやるだけさ。

「よし、行こうカイアス。今更戻れないしな。」

「そうだね、じゃあ行こうか。」


手紙を握りしめながら、俺たち二人はその装置をくぐった。




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