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第一部 十七話 虚空の友情

そのまましばらく俺たちは夜のドライブを続けた。

運転はカイアスだ。

車の速度ならこのまま西に半日ほど走れば着くらしい。

二人乗りにしては魔力消費が早いと言ってたがまあそれほど気にすることでもないだろう。

ガソリンの代わりに魔力を使って走る軽トライースカスタム。

なんとエコなんでしょう。


二時間ほど走ったのち、運転手を交代。仮眠と運転を繰り返して、俺たちはやっとその問題の「遺跡」へたどり着いた。


「ここか・・・。」

その姿は俺が想像する遺跡とはだいぶ異なった物だった。

何というか、モダンだ、遺跡のくせに。

ウェンデルなどでは絶対に見ることのできない、機械仕掛の街並みや、ビルの残骸など、どことなく元の世界に似ているようで少し懐かしい。

その思いをカイアスも知ってか、

「似ているだろう?僕らの街に。だから僕は遺跡調査が好きなんだよ。」

彼も彼なりに寂しいのだろう。俺もだ。何も好き好んでイースに来たわけではないのだから。


そのまま二人で遺跡の内部へと進んで行く。その最中に俺はカイアスからジャケットを渡された。

「これは僕が開発した光学迷彩ジャケットだよ。実際は光属性の術を付属させただけだけどね。四つ試作品から持ってきたんだ。なぜか二つしかなかったんだけどね。」

ジャケットは傷つくと効果がないので今は鞄にしまうことにした。


錆の色に染まった通りを抜け、さらに奥へと行くと、そこには扉と横には見慣れたボタンと表示ランプ。つまりエレベーターがあった。

「上の階層があるらしいね。でもこれ電源がついてないな。いや、あるわけないか。」

カイアスが冗談交じりに話す。

少し懐かしい地球人だけのジョークに自然と顔に笑みが浮かぶ。

と会話をしたその時、

ポーン。

俺たちを待っていたかのように無機質な音が響き、ランプに灯りが灯る。

突然の現象にその場の空気が一瞬止まる。

「あれ、おかしいな・・・調査の時は動かなかったのに。」

予想外の事態にカイアスも驚いているようだ。

ボタンを押していないのに扉が勝手に開く。

まるでこちらを誘っているようだ。

俺たちは恐る恐るエレベーターの中に入る。中は意外と広く、3、4人は入りそうだ。

だが俺たちがエレベーターに入ると、定員オーバーのランプがついている。

「何故だ?二人で定員オーバーなんてことはないだろうに。」

カイアスは少しの間頭を悩ませていたが、何かを思いついたのか急にこちらを見ると、小声で俺に囁いた。

『すぐに身を守れ。』

その瞬間、自分とカイアスのすぐそばに強烈な殺気を感じた。

とっさに俺は魔術で水の壁を作る。

すぐ後に壁の水圧に何かがぶつかる音がした。どうやら殺気の主がこちらの壁に弾かれたようだ。

周囲が静かになったのを確認し、魔術を解くと、目の前に倒れていた殺気の主は、先日に知り合ったばかりの兄弟だった。

ジースにジョルジュ。

俺が言葉を失っていると、

「ガルフの手先の刺客だ。見るんだこの服装を、僕のジャケットだ。きっとこれで姿を隠してついて来ていたんだ。」

そうか、だから軽トラはあんなに重く沈んでいたし、エレベーターは定員オーバーの表示が出たのか。

「こいつらはプロだ。ケリィ、君と交流があったのは知っているが、それがどういう思惑なのかは今なら分かるよね?」

そうだ。カイアスの言いたいことは分かる。だけれども彼らは恐らくカイアスを除けばイースで始めての友人だ。

その感情が次に出てくる言葉をせき止めていた。

「彼らは敵だ。このまま放置は出来ない。」

そうだとしたら、ギルドの建物であのお姉さんを殺したのもこいつらの仕業だ。

それは許せない。だが俺の中では二つの相反する感情が渦を巻いているようだ。

散々悩んだ結果、俺はカイアスにこう持ちかけた。

「よし。じゃあこいつらは縛っておこう。命までは取りたくない。」

カイアスは少しの沈黙の後に、

「ケリィ、甘いな君は。まあ探索が終わるまではしっかりとしばれるようにね。」

カイアスもここは俺の意見を尊重してくれるようだ。

だが俺はまだまだ甘かった。

その時にジョルジュとジースの手に握られた短剣がこちらに向きを変えていたことに、俺は全く気づかなかった。

俺が彼らを縛ろうと体をかがめた時、二人の暗殺者がいつの間にか意識を取り戻し、素早く短剣を振りかざした。だがそれよりも一瞬早く、カイアスも動いていた。俺を後ろに突き飛ばし、彼も手に持った短剣で攻撃を弾くと、それぞれ両者に一撃を加えた。急所を狙った鋭い一刺しだ。


この刹那の出来事に俺は何もできなかった。

「やつらから離れろ!」

カイアスは唖然とする俺にそう叫び、二人から距離をとる。ジースとジョルジュはお互いの傷ついた体を見合うと、よろよろとこちらに歩いてくる。彼らにもはやこちらを殺す力は無い。

どんなに傷ついても言葉は発さず、虚ろな顔で止まろうとはしない。

その後数歩歩いた所で彼らの体は眩い光に包まれた。それと同時にこちらに巨大な衝撃が襲ってきた。

「自爆?!」

不思議と体は勝手に身を守る動きをする。その動きに迷いはない。


だが、理解できない。いま弾け飛んだのがついこの間笑顔を交わしたあの兄弟だと言うのか。

あの笑顔と時間はすべてが嘘で固められた虚空の時だったと言うのか。

そんなことを考えていると、無性に怒りがこみ上げてくる。

刺客の二人に対してではない。

彼らをこんな状況にした連中への怒りだ。彼らが本当はどんなことを考えていたか俺にはわからない。甘ちゃんなのは分かってる。

でも、俺はあの笑顔を信じたい。


俺の頭の中にはあの笑顔と、最後の虚ろな殺気の篭った顔が走馬灯のように駆け巡る。


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