第一部 十六話 旅立ち
「ふあ〜、今日も疲れた・・・」
部屋に戻るとふっと眠気におそわれた。だがここで睡魔の誘惑に負けるわけにはいかない。
「明日の準備は寝る前に!」
これが俺の幼稚園からのポリシーだ。何があっても明日の準備は今のうちに!
部屋に散っていた道具類をかき集め、必要なものは袋に詰める。
旅といっても三日間の短いもんだ。荷物は軽く・・・とはいかないが重くもならないだろう。
ところが俺の荷物は詰めてみれば、ほとんど荷物とも言えない量だった。
まず持って行くような荷物が無い。そりゃ突然のことだししょうがないな。一番荷物になるであろう野営装備はこの間購入した、ポ◯ポ◯カプセル俺の家ver.が役に立ちそうだ。
さて、荷物を鞄に入れて、寝るとしよう。明日は起きたら準備をしに街へ出て、昼に出発だな。
初めての旅だ。俺の胸にはワクワクとドキドキが渦巻いている。
俗にいう、「少しの不安と大きな期待」って奴だ。
じゃあおやすみ。
目を閉じて、ひと時。
ふた時。
うーん、眠れない。
明日からの旅への緊張からだろうか。何時目を閉じても一向に眠気がやってこない。
「はぁ〜、眠れない・・・」
試しに羊の数を数えて見たりしたが無駄のようだった。
その時、部屋の前、廊下から何かの倒れるような音がした。
続いて上の階から大きな物音。これは人の争う音だろうか。
ん、上の階?なんてことだ!上はカイアスの部屋じゃないか!
俺は何か使えるものは無いかと鞄を漁りながら急いで彼の部屋へと向かった。
俺の部屋の前には水たまりのようなものができていた。
「おわっ!」
ダッシュで部屋を飛び出した俺は勢い余って転ぶ。
何だかドロドロする。よく見ると・・・赤い。途端に周りが見えた。
いつも案内をし、カイアスのそばにいた女性が目の前に倒れている。
それも首からドクドクと赤い血を垂らしながら。
目の前の突然のスプラッターシーンに俺はパニックに陥っていた。
恐怖に体を支配され、わけもわからず走り出す。
「うおっ?!」
鞄の中を見ながら走っていた俺は、向こうから同じく恐ろしい速さで走ってくる人物に気が付かなかった。
お互いに勢いよく衝突し、顔を見合わせると、
「カイアス?何があったんだ!」
彼は半裸という凄まじい格好で、何故か旅の荷物を既に持っていた。
「ケリィ!君は荷物を持ってるな。わけは後で話す、まず来い!」
体を起こしたカイアスに連れられ、俺は今までに行ったことの無い廊下に出た。
カンッ。
乾いた音を立て、先ほどまで俺たちが倒れていた場所にはナイフが刺さった。
そのまま真っ直ぐな廊下を走り続けると、向こうには扉が見える。
「裏口だ!そこから出る!もう戻れないからな!」
後ろからは何者かが追いかけてきている気配がする。
なんなんだこの状況は。
扉をくぐると、街の歓楽街に出た。
人通りは夜でも多く、ウェンデルの眠らないエリアと言える。
俺とカイアスは人ごみを避けつつ、走り続ける。だが、血のついた俺と半裸のカイアス。
こんな格好で道の真ん中を歩いたら大変なことになってしまう。
息を切らしながら、俺はカイアスに聞いた。
「おい、なにがどうなってるんだ?」
「分からないのかい?闇討ち、暗殺だよあ・ん・さ・つ!」
そいつは聞きなれない展開だな。
「ガルフだ、あのもうろく親父め。あの遺跡には絶対何かがある。」
ほうほう。つまり遺跡には行かれたくないから俺たちを殺して何だかは知らないが秘密を守ろう、とかってことか。
「じゃあこれからどうするんですか?カイアス。」
「予定より少し早いが出発だ!」
少しどころじゃねーよ。
でも死にたくはないし、何故かどっちも鞄は持ってきてるし。
行くしかないか。
路地に入ったところでカイアスに服を着るように言い、着替えさせた。
歓楽街に出てから暗殺者の気配は無い。
諦めたのだろうか。
着替えたので足早に街を走り抜ける。
するとカイアスが、
「僕が寝ようとした時に丁度あの娘が部屋に入ってきたんだ。『早くお逃げください』って。僕は誰の仕業かすぐに見当がついたからすぐさま荷物をまとめたってわけさ。」
あの人のおかげで俺たちは助かったのか。そう思うと無性に申し訳なく思えてきた。きっと心底カイアスを尊敬していたに違いない。そうでもなければ自らの命を賭してまで助けようとはしないはずだ。
「彼女なんだけど・・・」
俺が彼女について話すと、カイアスは心の底から寂しそうな顔をした。
だが悲しんでばかりでもいられないはずだ。ここで俺たちまでやられたら彼女の命が無駄になる。
そのことはカイアスも分かっているようで、お互いに顔を見合わせ、気持ちを切り替えた。
「ここを真っ直ぐ行くと街の西出口だ。そこに移動手段を準備してある。それを使ってまずは街から離れよう。」
人混みと客引きをかき分け、俺たちは西出口まで急いだ。
出口に近づくに連れ、人の数は少なくなって行く。あまり身元を知られたくない俺たちには好都合だ。
「あれだ。」
出口に着き、カイアスが指差した先にあったのは、俺がよく見慣れた「車」だった。軽トラックだ。
「前の調査の時にガラクタの中に埋れていたんだ。修理してあるからイース専用車だよ。」
人類?いや古代文明に感謝。
まあやけにボディの沈みが大きい気もするが、中古だからかな。俺たちが乗ったら相撲力士が乗った時の様な沈みだ。
ともかく俺たちは軽トラックに乗ってウェンデルを旅立った。




