間章 智者
時刻9:45。
ケリィとカイアスがそれぞれの部屋に戻った頃である。
「ガルフ様。密偵が戻りました。」
夕食中の儂のところへ鳥型の装置を持った伝令が現れた。あのカイアスとかいう小童めが。使ってやった恩を忘れおって。伝令を下がらせ、装置のレコーダーを再生する。
あの遺跡の秘密だけは誰にも知られてはならん。あそこの秘密は元々我々智者だけが知るものだったのだ。そうしてここイースから楽園を創り上げるのが我々のエリシオン計画だというのに・・・
ほんの十年前からだ、我々の計画が狂い始めたのは。
あのおかしな男が現れ、計画を台無しにしていきおった。魔族などという下等種族を味方につけ、秘密を暴露した。
お陰で今や我々はカイアスのような若造の転移者を駒にせねばなくなっているのだ。
だがまだ間に合う。
あの男はあやつの城に篭ったままだし、今現在この秘密を知っているのは我々とあの男、それに『神剣使い』だけだ。
あの小童は早めに始末しておけば計画は進められる。
芽は早めに摘んでおくに限る。あやつらなどに秘密を知られでもしたらそれこそ一大事だ。
「あやつは!パトロスはおらんか!」
「はっ。パトロスここにおります。」
儂の前には三人のスパイが跪いている。
パトロス親子。三人揃って極めて優秀なスパイ親子だ。
「次のクエストだ。黒の魔術師、ギルド長カイアス。この両名を暗殺しろ。街の外で誰にも気づかれぬようにな。」
「黒の魔術師ですな。それならば既に調査済みですガルフ様。我らパトロス親子にお任せください。」
ラモラックは実に有能だ。要らぬ事は詮索せず、ただ命令を忠実に、120%のクオリティで実行する。二人の息子たちも将来が期待できそうだ。それぞれ冷たい顔と野獣の顔。いずれもいい暗殺者の顔だ。十分に活躍してくれることだろう。
もちろん有能な「駒」としてな。
我々の計画は止めさせはせん。
イースと、真の『エリシオン』を手にするまでは。
「下がってよいぞ。」
すると息子の片方、冷たい顔つきをした方が、
「ガルフ様。確実に仕留めるのでしたら今夜のうちが宜しいかと。寝込みを襲えば簡単でございます。証拠は残しません。」
「ほう、おぬしジョルジュともうしたかな。そのほう、昨日黒の魔術師と鍛錬したそうだが何の躊躇いもないのか?」
「もちろんでございます。黒の魔術師、剣技も知らぬ愚か者でしたゆえ、名前負けでございました。」
それをきいてもう片方がほくそ笑む。
こやつらならば心配ないだろう。
「ならばそうするが良い。儂が求めるのは結果だけだ。」
「御意。」
そう答えると三人は音もなく姿を消した。次現れる時にはあやつら二人の首でも持って現れるのだろう。
さて、儂は夕食の続きとするかな。今夜は早く寝たい。朝が楽しみだ。
時は10:30。
松明で照らされた部屋には老いた漢の汚れた笑みと葡萄を貪る不快な音だけが響いていた。




