第一部 十話 耐熱温度と剣の威力
勝利を味わう間もなく、空から巨大な影と共に今回のターゲットが現れた。
四等級ドラゴン。ドラゴン種の中では下位に当たり、俺ならば倒すのは容易いターゲット。
俺は怯える兵士たちの前に颯爽と飛び出した。
「いくぜ四流!この黒の魔術師が相手だ!」
などとかっこいい台詞を言ってみる。
いやぁ、こういうの一回やってみたかったんだよ。
ここで軽くこのトカゲちゃんを倒せば俺の英雄としての名声もぐっと上がるって訳だ。カイアスめ、よく考えるものだ。
だが、
「こ、こいつ二等級だ!逃げろっ!」
おれの華麗な決意はこの一言で一瞬にして消え失せた。
「え・・・?」
二等級だと?言われればそんな気がしてきた。深緑の鱗に燃えるような紅い瞳。
つ・・・強そうだな。
えーと、ちょっと待てよ。
「ギャオオオオォ!」
ドラゴンさんは俺を待ってはくれないようだ。目の前に出てきた俺を敵と認識したのだろう。こちらに突進してきた。
いつの間にか魔族達はいなくなっている。兵士もいない。俺一人ですか?!
とりあえず距離を取る。
指輪を掲げ、ドラゴンの前の地面を抉る。予想通りドラゴンは姿勢を崩した。今がチャンスだ。
ドラゴンに向けてすかさず玉炎を放つ。だが、あまり効いていないようだ。
赤い炎はドラゴンの鱗を軽く焼いただけのようだった。
態勢を立て直したドラゴンは口に炎を溜め始めた。これは、必殺の火炎放射ではないか?
まずい。
この荒野には炎を遮る盾になるものがない。ならば作るしかない。だが、生半可な防護壁ではあっという間に溶かされてしまう。
「・・・っ!」
今から逃げ出しても炎の範囲から逃れることはできないだろう。
そのとき頭に理科の授業が浮かんできた。
赤い、炎。炎の温度は確か、600度〜1000度のはずだ。ならばそれに耐えうる素材は・・・
安山岩と砂岩。
だが答えが出たその時、ドラゴンがその口を開き、俺に真っ赤な炎が迫ってきた。
詠唱している暇はない。
右腕をかざし、何とか術で砂岩と同じ性質の壁を作り出す。
直後、壁に炎がぶつかり、激しい火花を散らす。だがそれも数秒で収まった。
なんとか助かった。
やっぱり知識は大事だね。
さてこちらもなんとか反撃しなければ。
だが術の使い過ぎは死を招きかねない。どうやってあのデカブツに攻撃を当てるか。
そんなことを考えていると、背中に違和感を感じる。背中にしょっているあの黒の剣が震えていた。サイラスとかいうあのお姉さんから貰った物だ。確か、願う限りどこからでも鞘に戻るとか。
「投げる・・・か。」
この剣をブーメラン替わりに使えばいいな。何度投げても戻ってくるし。ドラゴンが剣に気を取られている内に一発デカい術をお見舞いしてやる。
ドラゴンは自分の炎を防がれた事が理解できないのか数秒硬直していたが、次なる攻撃を仕掛けようとしている。
俺は剣を鞘から取り出し、大きく振りかぶって力の限り放り投げた。
剣は力強く空気を切る音を発しながらまっすぐドラゴンに向かって飛んで行く。
ドラゴンはそれを軽く払いのけようと頭を振る。当然それは予測していたので、俺も次の魔術の詠唱を始めていた。
だが、次の瞬間俺は驚きのあまり詠唱などできなかった。
黒の剣はそれを払いのけようとしたドラゴンの頭を軽く払われるどころか真っ二つにしたのである。
心の中で戻れと念じると途端に背中に重みが戻ってきた。ドラゴンはピクリとも動かない。頭が二つになってしまったのだから。
牽制として考えていたが、この剣は只者ではないようだ。ドラゴンを一発で切り裂くこの武器にもだが、そんな贈り物をしてきたサイラスにも俺は改めて戸惑いを隠せないでいた。
「く、黒の魔術師がドラゴンを倒した!」
敵が消えたので、味方の兵士たちが隠れていた所から出てきたようだ。
「魔術師なのに剣でドラゴンを屠られたぞ!」
「魔術を使うまでもないのか!」
なんだか誇張されている気もするが、悪い気分でもないのでそういう事にしておこう。ドラゴンは強敵だが倒したあとは高価な素材らしい。
見たところ耐熱効果もあるようだ。
戦場にいた魔族達は切り札がやられたので退却したのだろう。この戦いは人間族の勝利のようだ。
俺は兵士たちと共に勝利を分かち合いつつ一人街へと戻った。彼らはまだあそこの警備をするのだろう。今回はハプニングだらけだったが、まず勝利できたのは嬉しい。
予想外の武器も発覚した。
この剣、まだまだ何かの能力がありそうだ。帰ったらカイアスに頼んで調べてもらおう。
あとは、詠唱か。今回の戦いで実感したが、魔術師において一人は致命的だ。本来魔術師は後衛にいるべきで、剣士や前衛を務める人達が時間を稼ぐのが定石だろう。だが俺にはそれが無い。だから今日のような状況では強力な魔術が使えない。無詠唱魔術・・・いや、そんなものは無理だろう。それの代わりになるような物があればいいが。
それか仲間。前衛系の冒険者とパーティーを組むのだ。だがそれはあまりしたくない。第一にここの人間は総じて荒い。カイアスのような性格の者は少なく、ほとんどが素姓のしれない転移者か、いかつい人間族の兵士かだ。俺はそういう連中はあまり好きではない。やはりこういうのはカイアスに相談しよう。
始めはあいつには騙されない、とか考えていたのに、いつのまにか俺は彼に頼るしかなくなっている。そしてそれが少し嬉しい。同じ転移者として、また、他の連中とは違う彼に親近感のようなものを感じているのかもしれない。
まずは報告をしなければ。




