第一部 九話 戦場と黒
寝覚めの良い朝だ。窓から差し込む朝日が目覚ましになり、清々しい気分で身支度を整える。さて、今日からは英雄として戦うのか。
「ふぅ・・・」
あのカイアスに利用される形になるのは気に食わないが、俺の目的を達成する為だ、こちらも彼を「利用」させてもらうとしよう。
「おはよう、ケリィ。」
「おはようございます、ケリィさん。」
カイアスの元に向かうと、彼の隣には昨日俺を案内したあの女性が立っていた。
「あ、おはようございます。」
なるほど、彼女はカイアスの側近ってわけだ。
「では早速だが今日から君は我ら人間族の英雄、黒の魔術師ケリィ・マーセナスだ。よろしく頼むよ。」
「ええ、分かってます。戦えばいいんですよね。」
黒の魔術師、か。
悪くない名前だね。
「では私から説明をさせていただきます。今回のクエストは戦場の西、エリアKでの物です。魔族が戦場に四等級ドラゴンを投入したとの情報がありました。確認次第これの討伐をお願いします。」
おいおいドラゴンって。
めちゃくちゃ強そうじゃん、勝てんの俺?
ひょっとしておれは軽くとんでもない仕事を引き受けてしまったのではなかろうか。
顔を青くしていると、
「心配は要らないよ、ドラゴンと言っても四等級だ。一等級なら全軍で掛からなければいけない程の一大事だが、四等級ならば転移者である君には朝飯前だろう。兵士たちに黒の魔術師の強さを見せてやってくれ。」
よかった、大丈夫らしい。
「だが、敵は魔族だ。いつどんな手を使ってくるか分からない。十分注意するんだ。」
「分かりました。」
一通りの準備は済ませてあるので、イメトレをしつつ街の外れを歩き、戦場へと向かう。だが最前線というのに街が隣接されているなんて、一体どんな手をカイアスは使ったのだろうか。
「先ずは足場を崩して、デカいので一発だな・・・」
と調子に乗っていると戦場への門へとついた。至って普通の石の門だ。この向こうが最前線には見えない。
門の前にいた守衛に声を掛け、目的を告げると、
「く、黒の魔術師様であられますか!この門は戦場への転移門となっております。至急、お急ぎを!」
転移技術って使えないんじゃないのか。カイアスの奴どんだけ古代技術改造してるんだ。俺の魔術でもできるようになるだろうか。っと、至急らしいな。さて、行きますか。
「・・・っ?!」
門をくぐると、今まであった視界が崩れ、一瞬にして目の前には茶色い戦場が広がっていた。モンスターや魔族と人間族の兵士が戦っている。だが人間族の方が優勢の様だ。兵士たちは馬ではなくなにやら馬のような機械に跨っている。それ自体が戦っているので、対する魔族達は必ず一対二の状況になるわけだ。なかにはちらほらと兵士とは異なる装備の転移者らしき人間もいた。
そんな事を考えていると、近くから剣が飛んできた。
思考が止まり、現実に引き戻される。
そうだ、ここは戦場なのだ。あの黄色達がやっていた事のような出来事が当たり前に起こる場所なのだ。いつ死ぬか分からない。
剣の飛んできた方を見ると、俺と同じぐらいの背丈のスケルトンナイトが襲ってきた。俺は一瞬のうちに思考を巡らす。
こいつらは骸骨、使役された連中だ。ならばこいつらを召喚した奴が近くにいるはず。
俺は襲ってきた一体に玉炎を発射しつつ、あたりを見回す。指輪をはめた左手で発動させた赤い炎は狙い通りに命中し、スケルトンナイトは火だるまになったが、あまり効いてはいないようだ。態勢を崩すので精一杯のようだ。やはり死者には聖属性の術か。だが今の俺には使える術ではない。
残りの二体の攻撃を躱しつつ、一旦距離をとる。
いた。魔族の猪ヅラをした術師が岩の陰からこちらを覗いている。こちらの発見はまだ感づかれてはいないようだ。
すかさず術を発動させる。
「出でよ雷、天の槍、衝雷撃!」
俺の右腕が詠唱と呼応するように光を放つ。
と同時に、そいつに黒い雷が直撃した。
スケルトンナイト達も動きを止め、音を立てて崩れ落ちる。
「うおっ・・・!」
驚いた。この義手、属性付加の力があるとは聞いていたが、予想外だ。
黒い雷に黒い炎。だから「黒の魔術師」ってことか。黒は確か無属性だったはずだ。無属性と言っても属性がないのではなく、どの属性にも干渉せず、常に最大限の効果を発揮する便利な属性だ。
この右腕は随分使い勝手がいいな。
俺は最初の戦いでの散々な結果もあり、始めての勝利を噛み締めた。戦いの恐怖は消え、高揚感が押し寄せる。
よし、いける。
と自分に言い聞かせる。
そうして走り出したその時、地面に映る巨大な影と共に、耳をつんざく様な咆哮が戦場に鳴り響いた。




