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第8話

「あんなに王妃様の評判が悪いとは思わなかったわ」

 ドレスを脱ぎながら、部屋で待ってたハンナに話しかける。ハンナは私がドレスを脱ぐのを手伝ってくれている。というか、脱がしてもらわないと、夜会ドレスは自分一人で脱ぎ着できないので。

「そんなにですか?庶民には人気ですのに。王様と異国からきた黒の姫君の大恋愛譚が一時期大流行しましたし、王妃様は突然あちこちの祭に顔を出されたりなさいますから」

 庶民受けする逸話には事欠かない方なので、そこがまた社交界で嫌われる原因なのかもしれない。

「王女様がデビューするまでには、王妃様にも何とか社交付き合いを増やしていただく必要があるのかも」

「王妃様、苦手でいらっしゃいますものね、社交界。その点は、王様も王妃様には甘くていらっしゃるから」


 それから、午前中は遅くまで寝て過ごし、午後にはあっちのお茶会、こっちのお茶会と、一日最低でも2件は出席した。夜は、晩餐会、音楽会、舞踏会と様々をこなす。一週間もすれば、力尽きてきた。

「シーリア様、社交って忙しいですね」

 奥様に、つい愚痴ってしまった。

「わたくしも社交界にはあまり参加してきませんでしたので、ここまで大変だとは思っておりませんでしたの」

 そう答える奥様も、少々疲れた顔をなさっており、儚さが増して、より美しくなっている。私は、残念ながら、儚さより疲労感が全面に出てることだろう。

 それにしても、社交行事のあちこちで、王女様の噂が囁かれているのが気になる。まだデビューも先の話だというのに、気味が悪い赤毛だとコソコソと喋っているのだ。人の血を吸って染るとかバカげた噂に至っては、立ち聞きするのも嫌になりブン殴りに行きそうだった。だがしかし、日増しに噂する人々が増えていく。なぜ、今、急に。


 何度も会っているアンシェル氏と、今日もダンスをし、その後、休憩がてら庭を歩こうと誘われる。庭はこじんまりとしており、あちこちをカップルが歩いているのが見える。なので問題ないだろうと、誘われるまま庭に降りた。

「ミーア様は、王妃様や王女様とも親しくされてらっしゃるのですか?」

「そうですね。王女様とは歳も近いですから、仲良くさせていただいております」

 王弟殿下ご夫妻と王様ご一家が仲良く一緒にいる場面は、ほとんどない。王弟殿下ご夫妻が、社交界にあまり参加されない上、王弟殿下ご自身が、王族から距離をおく姿勢を貫いてこられたためだ。王位継承やら貴族の権力争いに巻き込まれたくなかったらしい。社交界では王様と王弟は兄弟仲がよろしくないと誤解されているようだ。

「王妃様も王女様も噂の的です。ミーア様は王弟殿下の義娘でいらっしゃるのですから、お付き合いすべき方は選ぶべきだと思いますよ」

 アンシェル氏の言葉は、私への忠告のようだ。笑って大袈裟に噂しあっている人とは、何処か違って、明確な意志を感じる。どんな意志かわからないことが、もどかしいと思ったのは、はじめてだった。


 それからは、極力二人っきりで話をする機会を持とうと、彼の誘いに快く応じるようにしていた。王妃様と王女様への強い拒絶感があることがわかったものの、たいした成果は得られなかった。まもなく予定の期間が終わろうという頃、王弟殿下に書斎へ呼ばれた。何事だろうと思って行ってみれば、予想もしなかった言葉を告げられた。

「アンシェル氏に結婚を申し込まれたら、受けて欲しいかい?」

 はい?

 ポカンと口をあけて、バカみたいな私の様子で王弟殿下は察してくださったようだ。

「二人は好き合っているのだと、思っているのだよ?」

 二人っきりになっていたせいだろう。アンシェル氏が私に関心がないことを知っていたから、私は、誤解を受けるような行動をしている自覚がなかった。全く。

「まさか。アンシェル様は、王弟殿下ご夫妻に取り入りたいと思っておいでのようです。私のことなど」

 取り入るなら、私と結婚するのが一番。アンシェル氏にも、誤解されていたりして。は、は、されてるよね、きっと。はぁーっ。

「もうすぐ約束の期間も終わりますし、結婚なんて受けないでいただきたいです」

「他には、いい人は見つからなかったのかい?王妃様は、あなたにちゃんとした出会いの場を作ってあげたいとおっしゃっておられてね」

 王妃様は、そう言って王弟殿下のご厚意につけこんだのか。それも、理由の一つには違いないんだろうけど。

「社交界では見つかりそうにありません。正直、あまり親しくしたくない方ばかりが寄ってきますもの」

 私の言葉に同意するところがあるのだろう「そうだね」と王弟殿下は苦笑いされた。


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