表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/23

第15話

 私は、緊張気味の王女様と、その侍女セシーと一緒に馬車に乗り込む。今日は、初めて子供会へ出掛けるのだ。王女様も、王宮で開催されるパーティへやってきた子供達と交流しており、貴族の子供を全く知らないというわけではない。ただ、王宮のパーティは年に数回しかなく、連れてこられる子供は王族の血を引く家柄に限られていた。交流のある貴族の子供は数人だけ。しかも男の子ばかりで、子供たちは皆、王女様より王子様のお相手をしたがった。残念ながら。


「お部屋へ入ったら?」

「王女のマルゲリータです。仲良くしましょう」

「お友達の隣に座ったら?」

「マルゲリータよ。仲良くしてね。」

「お友達が名前を名乗ったら?」

「趣味は何かしら。私は本を読むのが好きなの」

「ばっちりです。完璧です。笑顔ですよ、そうそう」

 馬車で予行演習をしてから、私達は会場となる屋敷へ降り立った。


 屋敷の居間に通される。居間のドアをくぐって、中の子供たちへ王女様が練習した言葉で挨拶。王女様は、部屋の中を見回し、比較的おとなしそうな女の子2~3人が腰かけているソファーへ向かい、声をかけている。少女が一人、王女様のために座る場所を開けるよう横にずれている。なんとか第一段階はクリアしたようだ。ほうっと一息。王女様の様子を後ろから見ていると、つい力が入ってしまっていたようで、手に汗をかいていた。侍女と私は、思わず目で大丈夫そうですねと伝え合った。

 さて、侍女は私に会釈をして、王女様の近くでありながら距離を保って控えるような立ち位置を確保した。そして、付き添い人の私は、子供以外の人達に混ざらなければならない。居間の続き部屋に移動すると、家庭教師や付き添い人が十数人と、母親が4人。もちろん母親は貴族のご婦人。なので、私は家庭教師の方々の方へ行く。そちらは2グループに別れていて、3人だけの方へ混ぜてもらう。何故かというと、そこが余りだなって感じだったから。

 4人で子供達を見守れる位置に固まって立つ。貴族の奥様方はソファーを陣取ってらっしゃる。なんとなく、グループの配置位置で身分の上下が、わかる。このグループは身分が低いとされているみたい。一人が自己紹介を始める。どうやら、他の三人は女学校を卒業された庶民出身の家庭教師の方々で面識はないが知っているという関係だった。女学校といえば貴族の娘が通う場合が多いが、今の王妃様が出資されている女学校には奨学制度があって、庶民でも成績が良ければ学費を免除され、様々な勉学のための援助を受けられるらしい。みな、そういう学校出身のエリートらしい。最後に私も自己紹介する。

「私はミーア・ハイドヴァンと申します。よろしくお願いします」

 名前を言ったとたん、3人ともえっという顔。忘れてた。今の私は王家につながる貴族令嬢だった。

「王弟殿下の……」

「あ、気になさらないでくださいね」

 と言っても、気にするよね。でも、他に行きたくないので、動かない。そのまま居座る気満々で話を促す。各々子供の話しになると、テンション高くなる。やはりそこは教育者だからだろう。それに、自分の雇い主に対しても誇りをお持ちらしい。家庭教師の身分ではなく、自分達の力量を認めてもらえるというところが特に。

「女性の職って限られますから」

「身分が低いと、雇い主も家庭教師を使用人として扱ったり、若いといいよられたりしますから困りますよ。いいお勤め先というのは、本当に貴重です」

 皆様、苦労されてらっしゃるようだ。残念ながら、私は家庭教師にはなれそうにないことはわかった。教えるって難しい。三人とも同じ女学校出身者が経営するフェンダー紹介所から仕事を得ているらしい。

「名刺はありますか?うちの奥様も近いうちに必要になりますから、ぜひ紹介させていただきたいわ」

「まさか、ハイドヴァン夫人が?」

「フェンダー紹介所は、顧客にそんな身分の高い貴族の方々はいらっしゃいませんよ?」

「奥様は、そんなことにこだわられる方ではありません。質の高い教育を望んでおられるはずです。それに、王妃様に心酔してらっしゃるので、王妃様出資の女学校エリートとなれば、喜んで家庭教師に迎えられるでしょう」

 『質の高い教育』という一言に皆、目がキラッと光る。名刺の持ち合わせはなかったが、是非にと、紙にフェンダー紹介所の名前と住所を書いてくれた。そして、話題は王妃様に移った。やはり、庶民には受けがよい。このグループにいてよかった。

「そういえば、金の騎士団とかいう話を聞いたことあります?」

「何ですか、それ?」

 一人が声をひそめて話し出す。

「何でも、金髪でない人間は何処かが壊れているから、排除すべきだと考える集団があるらしくて。顔を隠した集会があったらしいの」

「うちの雇い主の領地でも、そういう噂がありました。一回だけでしたけど。参加した話も聞かないので、誰かが悪ふざけで作った話だと思ってましたわ」

「金髪でないって、王妃様と王女様ってこと?」

「まあ恐い。人として壊れている人は金髪でも沢山おりますのに」

「たしかに。身分に限らず」

 クスクス笑いながら、人として壊れている貴族達の面白おかしいエピソードに、話しは移っていき、場はクスクス笑いに変わっていった。

 金の騎士団? お二人のいう地方は、隣あっていて近い。そこで何らかの集団が結成されている、としたら。名前からして、騎士が参加しているのだろう。誰が付けたのか、ネーミングセンス悪。

 王女様は、お行儀よく女の子達と話しているようだったが、キツイ言葉も多いのか、しょんぼりしている。子供は、はっきり言うことが多いからだろう。さすがに王女様に悪ふざけをしてはいけないと指導されているのか、悪さはされてない。ジロジロみられて、”変”と大きな声で言われるくらい。なんとか、想定の範囲内で今日は終われそうだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆押していただけると朝野が喜びます→
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ