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第12話

 無事にハイドヴァン家での一か月近くの滞在予定を終え、王太子棟へ戻ってきた。奥様のシーリア様は『いつでも帰ってきてね』と涙ながらにそう言って、王弟殿下とともに見送って下さった。

 久しぶりに王太子棟へ戻った私に、王子様は何も言わなかった。


 ひさびさに王妃様からお茶会への招待状が届いた。社交界デビューの結果報告に訪ねて行くべきかと悩んでいたところだったのでちょうどよかった。すぐに参加の返事を返す。


 本棟の王妃様お気に入りの居間で、王妃様は待っていらした。今日も二人だけのお茶会らしい。報告することを考えれば、とても好都合。

「早速、社交界のことを聞かせてちょうだいっ」

 子供のように催促してくる。王妃様も、情報はいろいろ仕入れているはずだけれど。

「王妃様、貴族の方々に人気ないです。かなり敬遠されていますよ。何かなさったのですか?」

「うーん、何もしなかったことが問題だったかしら」

 つまり、社交界ではくだらないお喋りばかりで、貴族女性を相手には話が弾まないらしい。媚を売っても反応なし効果なしでは、そのうち媚売る人もいなくなるというもの。そうして、誰もいなくなった、と。

 反対に、美術会や音楽会、研究発表会の開催にはマメに出席するし、素晴らしいパトロンとして歓迎されまくっている。温泉地のリゾート化にも力を入れておられるため、芸術家や科学者にかぎらず庶民には受けがよい。

「王妃様は仕方ないとして、問題は王女様です。赤毛について酷い噂がたっています。でも、急に広がったように感じました。デビュー当日頃は数人だったのに、この1週間はどこでも耳にするくらいみんなが話題にしてましたから」

「そう。マルゲリータは外に出る機会が本当に少ないし、デビューもまだ先だというのに」

 王妃様は、眉根を寄せ腕を組んで考え込む。侍女リリアが、お菓子をテーブルにおく。今日は、フルーツが入ったケーキらしい。ケーキをパクつく。王妃様は目の前のケーキを睨んでいる。スイーツ大好きの王妃様が、珍しいことだ。

「ヴィルフレドが式典に参加した隣国なのだけれど、ね」

 少し言い渋ってらっしゃる。さっきから、王妃様の行動が珍しいことばかりだ。もしかして、思ったより深刻なこと?

「どうも、次の王位をめぐって争いになりそうな状態らしいの」

 つまり、在位40周年になる王様は、御歳70歳過ぎ、その息子達は40過ぎのおじさんだという。息子はいいが孫が酷いか、息子は今一だが孫がいい可能性ありという二択に、隣国の王様は悩んでらっしゃるらしい。ちなみに、長男は、前者なんだと。ということは、長男の息子は、かなり酷い人物のらしい。だから?

「その長男の息子と、ヴィルは会っているわ。かなり、好戦的な人のようね」

 好戦的?まさか、戦争しようなんて考えてる?百年以上、この近隣諸国は戦争を回避して平和を保ってきたというのに。歴史で習ったくらいで、戦争は現実問題としてあり得ないと思ってた。

「隣国が戦争を望んでいるとは限らないわ。ただ、その迷惑な王孫は、戦争の下準備をしているのではという噂をヴィル達が聞いてきたのよ」

「戦争の下準備?」

「西隣の王家の娘と問題の王孫で婚姻の話があるんですって。東隣の国は海に面してて海岸線が長いのだけれど、しばらく前から海賊が頻発しているらしいわ」

 深刻な内容だった。

 っていうか、私、王子様の遊び相手なので、そういう話を耳に入れてもいいのでしょうか? 大丈夫? 大丈夫じゃないでしょう? 駄目だと思いますっ。泣きそうになってるのに、話をどんどん進めていく王妃様。あなた方親子は、空気読みましょうよっ。

「南隣のうちとの国境はかなり高い山脈挟んでいるので、侵略考えないで欲しいけれど。もしかしたら、私、うちの国内に混乱を起こす原因にされているかも」

 小首を傾げて見せても駄目です、王妃様。いい歳して、かわいこブリは効果減ですよ。だいたい、私みたいな子供に何言ってるのでしょうか?頭を抱えたくなってしまう。王妃様にとって、私を巻き込むことは、揺るがない決定事項のようだった。

 国内の混乱を起こすための原因が、王妃様、とは。濃い色素を持つ人は、この世界には、王妃様と王女様、王子様だけだ。それが悪いという風潮を煽れば、自然に王位継承問題が起こると。

「でも、社交界では王女様の噂ばかりで、王子様はなかったですよ?」

「ヴィルは、最近までオレンジ金髪の鬘をかぶってたでしょう? この式典からよ。公式の場に鬘をかぶらないで出るのは」

 そうだった。王子様は、髪がオレンジ金髪と濃い茶髪のまだら状態だったから、棟外では、鬘で過ごしていたのだった。王太子棟に勤めている官吏達や警備の騎士達は知っていただろうが、無闇に口外することはない。知っていても、さほど気にすることはなかったろう。母が黒髪で、妹が赤毛なら、王子が茶髪でも違和感はないのだから。


 王妃様のところから戻った私は、部屋のソファーに寝そべりクッションに半分顔を埋める。服も脱がずにため息をついていると、ハンナが心配そうにしている。申し訳ないとは思うが、当分、回復しそうにない。

「夕食は軽いものを部屋で食べたいわ」

「わかりました。王子様には、その旨お伝えいたします。すこしベッドでお休みになられますか?」

「そうしようかな」

 ハンナにドレスを脱がせてもらおうと、立ち上がった。


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