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第11話(サイドB)

男性視点です


 王宮へ帰り着くと、すぐ騎士カウンゼル、セリエとともに父上に報告した。薬草取引量の交渉結果、隣国の状況、北の砦で耳にした噂を。

「ナファフィステアが王妃になる前、か。たしか扇動していた神官は国外へ追放したはずだったな?」

「はい。神官は国外へ追放し、この国の神殿のどこにも所属できないよう手配されております」

 王の問いに宰相が即答する。随分前の出来事であるが、よほど記憶に残る出来事だったようだ。

「その者がこっそり入国しているとしたら、やっかいですな。口だけは上手い男で、特に、現状に不満のある貴族の若い男を洗脳するのはお手の物でしたよ」

 宰相の苦々しげな口調は、当の神官と面識があるからなのかもしれない。当時、貴族の愚かな若い男達をおだて上げ『自分達こそが王の忠臣であり、怪しい女に惑わされている王に目を覚ましていただくことがこの国を救うことなのだ』という言葉で男達は一致団結したらしい。我らは正義を貫くのだ、と団結した息子をもった家々は、もちろん取り潰しになった。しかし、神官は彼らに”教え”を説いただけである。『誤った生物である闇色の醜い女を、偉大な血筋の方のそばにおくのはいかがなものだろうか?』と。その神官が、再び国で誰かに”教え”を説いているのだろうか。

「全神殿に通知を出せ。あの神官が危険思想を説いていないか、とな」

 王の言葉に、宰相は頷いた。


 やっと王太子棟に帰り着いた。だが、そこにはミーアはいなかった。自分がいない間、母上の遊びに付き合わされているのだろうと、母上に手紙を出した。すると、母上がやってきた。

「ごめんなさい」

 部屋に入ってきたとたん、母上は床に膝をついて頭を下げた。この殊勝な様子は、ただごとではない。何かをやらかしたらしい、ミーアに関することで。

「何を、したんです」

 母上は、さっと立ち上がってソファーに座ると、この一か月の顛末を話し始めた。父上にミーアをジェイナス叔父の養女にする許可を得ていたので、この機会にそれを実現し、ミーアを社交界デビューさせた。現在、ジェイナス叔父のところへ約一か月の予定で滞在。社交界で知り合ったアンシェル氏と恋仲になり結婚秒読み状態だと。

「でもね、ミーアが、アンシェル氏は王族の身内になりたくて近付いてるって思っているから、結婚の話は受けないつもりだと、ジェイナスから連絡きたわ」

 たった一か月足らずの間に、恋仲?結婚秒読み?なぜそんなことに。

「ミーアは王弟殿下の義娘ってことで、注目の的らしいの。貴族男性はこぞってミーアに集まってたんだけど、アンシェル氏とだけ二人っきりになるんですって」

 母上は、頭に入ってこない内容を延々としゃべり続けている。舞踏会での二人の様子、周囲の反応。ジェイナス叔父は、もう少し様子をみたいと思っていること、など。

「ヴィルフレドがミーアを手放したくないのは知っているけれど、ミーアは女の子なんだし普通の恋愛をさせてあげてほしいの。それにしても、ミーアは私と同じで恋愛鈍い人だと思ってたのに、こんなに急に恋に落ちるタイプだったなんて」


 その夜、ミーアが参加している舞踏会場へ乗り込んだ。ジェイナス叔父夫妻を見つけるが、ミーアはいない。叔父は苦笑いして。

「予定より早く帰ってきたんだね。ミーアは、少し前に連れとどこか歩いているようだよ」

 そう言って、奥の廊下に視線を向ける。二人はあちらに歩いて行ったのだろう。

「そんなに待たないうちに帰ってくるよ。いつもそうだから」

 引き留めるような言葉に聞こえないふりをして、奥の廊下へ向かって歩き出す。ジェイナス叔父のため息が聞こえるようだった。


 幾つもの部屋のドアが開いており、各部屋には男女数人が座ってまたは立って話をしたり、カードゲームをしたりしている。そのどこにもいないようで、廊下を奥へと進む。廊下の片隅に植木鉢を並べた空間が確保されている。そこから聞こえる男女の声。その声は小さかったがミーアの声に似ている。ゆっくりと静かに近づく。『アンシェル様』という言葉で確信する。

「ミーア」

 自分以外の知らない男が彼女の名を呼ぶ不快感。思わず、植木に手をかけていた。目の前には、抱き合う男女。驚いて僕を見返す男の顔。

「失礼。人がいるとは思わなくてね」

 ミーアは、身体を反転させ、男の腕の中から出ようとしているように見える。男から視線を外さずに、ミーアの腕を引き寄せ、そのまま引きづるようにしてジェイナス叔父夫妻のもとへ連れて行った。そこにいたら何を口にするかわからず、言葉少なに舞踏会場を立ち去った。


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