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冒険の書  作者: Shinji
19/23

2-4

 部屋を出る前におじ様にお小遣いをもらった。


いきなり、お金の話である。


もらったのは『1万オル』。円でもドルでもない。“O”(オー)に横線を2つ書いて『オル』。


この世界特有の通貨だそうだ。

おじ様にしてはケチな気がするが、冒険の始めとしては妥当だろう。



一枚だけ財布の中にある福澤諭吉さんは今はただの紙切れらしい。


因みに、携帯電話もただのおもちゃだ。圏外で通信機器としては役に立たない。


 そう考えると、冒険に役立ちそうなものはこのお金だけである。


これだけでは心もとない。なので、まずはお買い物だ。


「あれはカタツムリかな?」


 街を歩いていると生き物の彫刻を見かける。


遊んでいるような猿や凛々しい竜の彫刻が、今にも動き出しそうに思えるほど精巧に造られている。


 彫刻のある建物に入ってみる。


「ここは何のお店ですか?」


 食欲を掻き立てるバターの香ばしい香りがする。腹の虫が鳴る。


「いらっしゃい! エスカルゴの専門店だよ。もちろん、食べてくだろ?」


 取りあえず、出てみる。


「……」


 無理だ。ダメだ。


俺にはカタツムリを食べる勇気はない。


 気を取り直してまた街を歩き始める。


 二本の剣が交わった彫刻を発見した。


「やっぱり」


 店内に入ってみると、武器が目に入ってきた。宝石が埋め込まれた剣や大きな古びた鎌などが所狭しと並べられている。


 宿泊費とか食事代も必要だ。武器代として出せるのは、高くても『5000オル』ぐらいだろう。


「これはいくらですか?」


 壁にかけられた剣を指さす。


両刃で人の背丈ほどあり、装飾されている。柄の部分も長いので両手剣だろう。


こんな剣を持ったら、それこそ勇者っぽい。


「いらっしゃい。お目が高いな兄ちゃん」


 長身で体格のいい男が顔を出した。こんな柔道部いたら絶対投げられないな。


「それは『150万』だ。どうする?」


「……150万?」


「ああ、そうだ。これでも安くしてる方だぞ? まけてくれとか言わないでくれよ?」


 高すぎです。


剣の値段ってそういうものなのかもしれない。


けど、高すぎです。


とてもじゃないが手が出せない。


 かっこよくて魅力的な武器だけど諦めよう。


「えっと、こっちの年季が入っていそうな鎌は?」


「ああ、それか。……ちょっとした曰くつきって奴だ。持ってってくれるなら5万でいい」


 曰くつきってなんだよ。


そんな怪しい武器すら買えるお金ない自分が恥ずかしい。


「5000オルで買える武器ってないですか?」


 そう言うと、男は怪訝な顔に変わる。


「あ、なんだ? 冷かしか?」


人相が良いとは言えない顔は迫るものがある。


「いえ、本気です」


 迫力に圧されて、ちょっと小声になってしまった。


「何でもいいので……、売ってもらえませんか?」


 男はこちらを観察するように見る。


「何でもいいんだな? ちょっと待ってろ」


 店内の隅にある剣を見始めた。剣はドラム缶を半分にした大きさの入れ物に、傘立ての傘のように置かれている。


「これだけだな。これなら4000オルでもいいぐらいだ」


 一本の剣を苦笑いして見ながら持ってきた。


「うっ……」


それは腕の長さ程で、剣先から柄の先まで青緑の濁った色をしていた。


さっきの剣の半分の長さもなければ、煌びやかさも全くない。


 値段の安さよりも、見た目の悪さに驚く。


「ほれ、銅剣だ。一応持ってみろよ」


「うおっ!」


 重さも結構ある。


これは買うかどうか悩む。


……何も持っていないよりはましか? わざわざ探してくれた物を突き返すのも嫌だな。


「どうする?」


 そういえば、「レベルが上がると身体能力も上がる」んだよな。


今は重たくても、未来の俺は軽々と扱えるのではなかろうか。


「これ下さい」




 街の探索は続く。


「重たい。止めとくべきだったか?」


 剣が重くて持ってられずに引きずる。道しるべのように後ろには一本の線が出来る。


鞘に収めたので、見た目は少しだけマシになった。


建物と建物の間隔が広がっていく。


 探索中に新しい情報を得た。


魔王のいる場所は、5人の下部の魔力によって守られている。全員倒すまで入れないのだそうだ。


今いる街はオレンジ王国である。下部の1人はこの国の北にある山を越えた先にいるらしい。


 これからどうするべきか分かってきた。


いきなり別世界に来て驚いて困惑していたが、今では胸が踊る。


ワクワクが止まらない。


 平凡な日常の繰り返しに虚しさをどこかで感じていた。


非日常を望んでいた。


だから嬉しい。鼓動が高鳴る。


「冷たい?」


 上着が無くても過ごしやすい気候だった。


なのに、急に冬場の震えるような冷たい風が吹く。


 吹く風の方から赤い鳥が飛んできていた。


鳥なのは分かるのだが輪郭がはっきりしない。火を纏っているように揺らめいている。


その後ろに大きな影。


「……ドラゴン!?」


 200メートル以上離れていても、脅威を感じさせられる。


丈夫そうな身体は青く、大きな翼は巨体を運び冷たい風を起こす。


建物の一階よりも高く3メートルはありそうだ。


「いてっ」


 減速せずに鳥が胸に激突した。


そして、竜も迫ってくる。


「あんなのに突っ込まれたら、洒落にならんぞ!?」


 取りあえず、回れ右。全力で走ることにした。


剣を抱え、鳥を抱え走る。


明日も更新する予定です。

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