手を結ぼう 第三話
常磐林蔵様が連載されている「宗盛記」の二次創SSです。
楽しむには「宗盛記」の知識が必須となります。
「読んでおいてほしい本編の話数」は下記となります。チェックいただければ幸いです。
宗盛記0087 永暦二年一月 から
宗盛記0094 永暦二年六月 青墓宿 まで
この連載は、プロットを作成の後、AIで文書化したものを推敲して仕上げています。
永暦二年三月
夜明け前から、音が止まらなかった。
馬のいななき。
荷車の軋み。
人の足音。
焚き火が爆ぜる乾いた音。
三嶋神社の原は、すでに埋まっている。
天幕、天幕、また天幕。
その間を、武士と郎党と商人と、土地の者と、流れ込んでくる人波が縫っていく。
……多いな。
そう思ったが、声には出さない。
出す意味がない。
真ん中は、仕事をする場所じゃない。
人が溜まるところより、流れるところ。
端のほうが、よく見える。
俺は、野営地と会場の境目あたりを歩く。
馬が嫌がる地面。
人が立ち止まる場所。
自然と列が詰まる角度。
昨日と違うところを、拾う。
それが、俺の役目だ。
東の空が白む頃、会場の中央に人が集まり始めた。
狩衣に軽装鎧の男が、壇に立つ。
伊豆守、平宗盛様。
声が通る。
だが、山に返ってこない。
……人、多すぎ。
それだけで、この催しの規模が分かる。
伊豆で、ここまで人を集めるのは、簡単じゃない。
伊豆守様は、三嶋大明神への奉納として、この競技会を開くと告げた。
ざわめきが、波のように広がる。
その減衰の速さを、俺は見ていた。
速い。
流れが、きれいだ。
続いて、伊豆守様が名を呼ぶ。
検非違使別当、正三位。
平清盛。
空気が、一段沈んだ。
音の密度が変わる。
視線の高さが、揃う。
……これが、都の人。
清盛様は、穏やかな声で告げた。
「競技の結果は、必ず帝に奏上奉る。本日一の武者と成った者には、儂が必ず官位を推挙する」
その瞬間、会場の温度が、確かに上がった。
遊びじゃない。
これは、道になる。
伊勢平氏は、坂東と中央を、繋ぐ気だ。
……大きい。
競技が始まる。
流鏑馬。
馬が駆け、矢が走り、的が砕ける。
俺が見ているのは、勝敗じゃない。
蹄が滑る地面。
風の癖。
人の息遣い。
どよめきが起こる、ほんの少し前
夜になる頃、予選を抜けた名が読み上げられていく。
……伊藤景経。
呼ばれない。
伊豆守様の乳兄弟。
身内。
それでも、落ちた。
……忖度なし、か。
少しだけ、口の端が緩む。
嫌いじゃない。
二日目。
笠懸。
残った者たちの射は、どれも鋭い。
勝者は、那須資隆。
結果が告げられた瞬間、周囲の武士たちの表情を、俺は見ていた。
悔しさ。
驚き。
納得。
……妬まれてない。
これは、きれいな勝ち方だ。
競技が終わっても、人の流れは止まらない。
酒と肉と、笑い声と、怒鳴り声。
三嶋神社の原は、まだ生き物みたいに動いている。
その端で、俺は干し飯を齧る。
強いとか、すごいとかじゃない。
これ、
ちゃんと「流れてる」。
人が多いのに、詰まらない。
馬が多いのに、混乱しない。
食い物が切れない。
喧嘩が起きない。
整っている。
伊豆守。
変な人だな。
でも――
盤面は、きれいだ。
焚き火の向こうで、武士たちがまだ騒いでいる。
俺は、それを眺めながら、もう一口、干し飯を齧った。




