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手を結ぼう 第二話

常磐林蔵様が連載されている「宗盛記」の二次創SSです。

楽しむには「宗盛記」の知識が必須となります。

「読んでおいてほしい本編の話数」は下記となります。チェックいただければ幸いです。

宗盛記0087 永暦二年一月 から

宗盛記0094 永暦二年六月 青墓宿 まで



この連載は、プロットを作成の後、AIで文書化したものを推敲して仕上げています。

永暦二年二月


 数日前より、明らかに人が増えている。


 そう思ったのは、朝の浜を歩いたときだった。

 魚の匂いが、昨日より濃い。

 船の影が、ひとつ多い。

 港の足音が、夜明け前から止まらない。


 伊豆は、もともと静かな土地だ。

 山と海に挟まれて、流れは細い。

 人も、物も、必要な分だけ動けば足りる。


 それが、今は違う。


 道がざわつき、夜が明るく、空気が重たい。


 ——増えてる。


 数ではない。

 密度だ。


 町が、息苦しそうにしている。


 坂東から、武士が集まる。

 その噂は、もう浜の子供でも知っていた。


 参加者が四百を超える、と聞いたとき、思わず足を止めた。


 多すぎだろ。


 伊豆は、狭い。

 人も、家も、米も、道も。


 ここに、四百騎とその随行が押し寄せたら、簡単に壊れる。


 でも、壊れない。


 壊れそうな気配は、確かにあった。

 港の混雑、宿の奪い合い、物の値の高騰。

 どれも、火種になりかねない。


 なのに、不思議と、破綻の匂いがしない。

 それどころか、少しずつ、収まっていく。


 道の分岐に、人が立つ。

 荷の流れが整理される。

 宿の割り振りが変わる。

 港で揉めかけた声が、いつの間にか消える。


 誰かが、整えている。


 それが誰かは、すぐに分かった。

 伊勢平氏の家人たちだ。


 派手な動きはない。

 名乗らない。

 声を荒げない。


 だが、立つ位置が正確で、指示が短く、無駄がない。


 破綻しそうな場所に、先に立つ。


 詰まりそうな流れを、詰まる前に解く。


 ——うまい。


 黒装束の年長者が、ぽつりと言った。


 「……あれは、仕上がってるな」


 戦じゃない。

 警護でもない。

 ただの段取り。


 それだけで、これだけの人と物の流れを、壊さずに回している。


 伊勢平氏の家人。

 表には出ないが、裏側の骨組みを知り尽くした連中。


 なるほど、と、梟丸は思った。


 あれがいなければ、この箱は、もう弾けてしまっている。


 箱。


 伊豆は、今、箱みたいだ。


 小さく、静かで、壊れやすい。


 そこに、無理やり詰め込んだはずなのに、

 なぜか、膨らんでいる。


 壊れずに。


 港から町へ、町から山へ。

 人が動き、物が動き、道が動く。


 冷川峠の向こうまで、足音が伸びていく。


 山が削られ、道が広がる。

 荷を載せた馬がすれ違える。


 「……国、動いてるな」


 誰かが言った。


 国。


 その言葉が、やけに重く響いた。


 伊豆守様という男は、表には出てこない。


 騒がず、誇らず、前にも出ない。


 だが、流れの中心には、必ず、あの人がいる。


 銭が出回り始めたのは、平氏家人が到着した数日後だった。


 両替所が立ち、米と銭の値が決まり、

 市のやり取りが、一気に軽くなる。


 怒鳴り声が消えた。

 値切りの揉め事が減った。


 夜の町が、静かになる。


 ……銭って、便利なんだな。


 理屈は分からない。

 だが、空気が変わったのは、はっきり分かる。


 数日後、さらに空気が張り詰めた。


 夜の見張りが増え、

 物音が減り、

 犬の吠え声まで消える。


 「でかい人が来る」


 誰かが言った。


 父、平清盛様。


 梟丸は、その名を心の中で繰り返した。


 姿は見ていない。

 だが、気配は、はっきり分かる。


 ——これは、もう、伊豆の話じゃない。


 坂東の話だ。


 いや、もっと広い。


 観覧席が組み上がり、

 露店が並び、

 救護所と厠が設けられる。


 町が、祭りの形になる。

 だが、どこか違う。


 浮かれていない。

 騒いでいない。


 ——戦の前みたいだ。


 そう思った。


 ただし、剣の戦じゃない。

 人の流れと、名の重さと、序列の戦。


 梟丸は、夜の高台から、それを眺めた。


 灯りが、波のように揺れている。

 きれいだ、と思った。

 同時に、少し怖い。

 この流れは、もう止まらない。


 この冬、伊豆守の噂が、坂東に静かに広がっている。

 武名を誇らず、奪わず、国を作る。

 功績には報い、疑うならば伊東を見よ――と。


 梟丸は、その噂を、街道の影で聞いていた。


 誰かの独り言。

 誰かの溜息。

 誰かの確信。


 ……やっぱり、そうなるよな。


 伊豆守様という男は、派手じゃない。

 だが、軽くもない。


 黒装束の年長者が、低く言った。


 「流れを、歪めないで変える。……厄介だな」


 梟丸は、黙って頷いた。

 強いとか、弱いとかじゃない。

 ああいうのは、見てて飽きない。


 伊豆という小さな箱は、

 今日も、音もなく膨らみ続けている。


 壊れずに。

 誰にも、気づかれないまま。


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