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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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短編ホラー

行き詰まった時のおまじない

作者: 壱原 一

人が、生きていると、多かれ少なかれ、程度の差こそあれ、「もうどうにでもなってしまえ」と言う風に、自暴自棄な心境に陥る事がありますね。


そんな風に行き詰まった時、思い余って無軌道に走ってしまう前に、是非、今、このおまじないを覚えて行って、覚えたおまじないを思い出して、一度だけでもやってみるよう、頭の隅に留め置いてください。


難しい事はありません。


お家でドアに背を向けて座るだけです。


玄関でもお部屋でもお風呂でも大丈夫です。


襖でもロールスクリーンでもクローゼットとかの折れ戸でも良いですよ。


椅子でも床でも構いません。


姿勢よくでもだらしなくでもOK。近くに人が居る居ないも不問です。


ただ彼我の空間を分ける仕切りを隔てた片方で、もう片方へ背を向けて座っていれば事足ります。


この時ドア等の仕切りは、きちんと閉めておきますが、ばっちり開けられる位のスペースを確保してください。


万一お家が無い時は、駅などの公共施設とか、お店やらの商業施設とか、ホテルとかの宿泊施設とか、そう言う建物の中なら一応許容範囲です。


山だの道だの海だのの広い所は適しません。


一人でするおまじないですからね。


このように座り始めたら、お顔が丁度はまる位の窓を向いていると想像してください。


お顔の正面に窓があって、枠がぴったり額縁みたいに囲っていると想像します。


心を静かに落ち着かせて、目を閉じます。


もし窓の外から通りすがりに見掛けたら、しんと目を閉じた貴方のお顔が額縁に飾ってあるように想像します。


外から見掛けた貴方のお顔を、静止画のように想像します。


額縁に飾ってあるように心を静かに目を閉じる穏やかな貴方のお顔を。


行き詰まって「もうどうにでもなってしまえ」と思っているしんとした貴方のお顔を。


外から見掛けた貴方のお顔を静止画のように想像したら、そこからすうーっと水平に遠回りに脇へ移動します。


窓を向いて座る貴方を見たまま滑らかに脇へ回り込み、彼我の空間を分ける仕切りを隔てた片方へ向かって行きます。


斜め前から真横へ、斜め後ろから真後ろへ、仕切りがきちんと閉められた片方の空間へ進み入り、ばっちりスペースが確保された仕切りに到着して開けます。


まず真っ先に現れるのは、座って此方へ背を向ける貴方の後ろ姿です。


貴方は目を閉じて窓を向き、「もうどうにでもなってしま」って良い行き詰まった背中を晒している。


それでおまじないは成功です。


とても簡単な事です。


今後、生きていて、「もうどうにでもなってしまえ」と言う風に、自暴自棄な心境に陥った時は、思い余って無軌道に走ってしまう前に、是非、このおまじないを思い出して、一度でもやってみてください。


建物のドアに背を向けて座り、窓を想像して目を閉じるだけです。


どうにでもなってしまえますよ。


もうどうにでもなってしまいました。



終.

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