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瓦解

作者: 十六夜零夜

 痛い。

 この感情は自分から受けるものではない。他人から与えられるものだ。それを私はよくわかっている。わからされている。感情というものは誰でも持っていて、生きる上で絶対に切り離せない人間の要素だ。感情がない人間はどんな人間なんだろう。それを考えると頭が痛くなるけど、自分の世界に没頭できて好きだ。私はそんなことを思いながら今日も生きていく。死にたいとは思わない。でも生きていたいとも思わない。その原因は間違いなく私の中の感情だろう。なんでこんな風に考え始めたか、過去を振り返ればわかる。思い出したくない過去。でも、忘れてもいけない過去。

 痛い。

 小学校の時、私は田舎から東京に引っ越してきた。その時の私は何というか、楽しさと寂しさが交差している気持ち悪い感情を持っていた。そんな私を待っていたのは、一瞬の歓迎と長期の憂鬱だった。最初は物珍しさから話しかけてくれる人が多かったが、そのあとは都会という恐ろしい風習を浴びた。俗にいういじめだ。物をとられたり無視されたりから始まり、物理的な攻撃が多くなっていった。中学校に上がってもその行動は続いていった。

 痛い。

 逃げたかった。こんな環境から。でも私は我慢していた。なぜかって言われたら、理由を正確にいうことはできないだろう。でもなぜか、親や先生に相談する気は全くわかなかった。いじめが始まって間もないころは少しだけ相談する意欲はあった。でもその感情はいつの間にかいなくなっていた。

 痛い。

 感情は私をむしばむ存在だ。喜びの感情や楽しさの感情は私の中から逃げていき、残った感情が私の体をめぐっていく。血液と流れていく感情はいずれ体全体に感情を届ける。私は抑制することを頑張った。この感情に少しでも逆らおうと努力をした。その結果、私は家族の前では笑顔を作り、一人になった瞬間涙をこぼすようになった。感情を抑制するのは簡単じゃない。でもそうしなければいけなった。そうせざるを得なかった。

 痛い。

 高校に上がっていじめはなくなった。私は親の意見を振り切って、中学の知り合いが誰もいない離れた学校に進学した。これが私にとって一番いい選択だと思った。その学校は私にとって最高の環境をくれた。平穏な日々を暮らせる、ただそれだけが欲しかった。それをここはかなえてくれた。私は自分から友達作りを始めた。自分にできる精いっぱいの笑顔を振るまって、みんなと会話を弾ませる。興味がなくてもそれを知ろうと努力する。韓国のアイドル。かわいいダンス。メイクやスキンケア。みんなが興味を示しそうなものはすべて勉強した。その結果、とあるグループの中に溶け込むことができた。私にとってその結果はうれしいものではなかった。そして頭の中で本物の私がいなくなっているような気がした。

 痛い。

 この感情が返ってきたのはなんで?いじめるやつはいない。グループにだって何とかして入った。今は安全な場所にいる。もうそう思わなくてもいいはずだ。でもなんで?目の前に広がっていた光景に見覚えがあった。男子らが女の子の髪を引っ張ってあざけわらっている。彼女からは涙がこぼれている。その瞬間、私は思考することをやめた。自然と足がそっちに向かっている。その時だけは本物の私が顔を出した。

「痛い。」

 耳にこの言葉が入ってきてようやっと理解した。私の後ろにある矢の存在に。私はとりあえず彼女のそばに駆け寄り心配する。近くにいた人も彼女に寄り添うように近づいてくる。その奥では女子があいつらを怒っている。この光景は初めて見る光景だ。私が体験したことのないこと。そして、体験したかったこと。

 痛い。

 感情はひどいものだ。こんなにも痛がっているのに、その痛みは一生消えない。この子にある矢は一本。私は大量。その時私は悟った。それぞれのキャパシティがあるんだ。そして私はこの子と違って我慢ができる人なんだ。そう悟った。その瞬間、私に刺さっていた矢がより深く入ってきた。こんなにひどいことがあるだろうか。私はこんなにも我慢しているのに、この子はたった一本の矢で周りに助けをもとめたのだ。そして救われたのだ。私の今までしてきたことは何だったんだろうか。

 痛い。

 過去を振り返っていると吐き気がする。思い出したくなかった過去はどれほど私を痛めつけたか。私は救われずに今を生きていく。たくさんの矢を背負って生きていく。でもそれでも死にたくない。この矢は忘れてはいけない。忘れたら、私の存在価値が下がる気がする。古い美術品の私はそんな風に思いながら、今私は青空のなか、この話をパソコンに打ち込む手を止めた。


この話はとある画像をもとに作りました。

私もこの主人公の気持ちがわかります。高校の時、同じような経験をしたことがありました。(暴力ではなかったですが、精神はかなりボロボロになったのを覚えています)我慢すればするほど不幸になっていく気がしてやまなかった。でも今ではその原因になった子たちとも仲良くやっています。

相談することは間違いではないです。私も相談に乗ることができます。それでも相談する勇気がわかない場合、皆さんにとってその我慢が不幸にならないように心から願っています。

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