7・トイレの○○さん 2 オカン
『高校のトイレに、戦士系ムキムキが待機中』って謎の夢をよく見てたんですが、物凄くイイ笑顔のムキムキたちは、私が女子と気付くと「チッ!」と舌打ちするので、ムッチャ腹が立ちました(毎回違う戦士系ムキムキ1~3人が待機してました)
ある日、舌打ちした後、鼻で笑ったムキムキ武道家にキレて、「今はムキムキ武道家より、細マッチョ剣士が流行ってんだよ!遅れてる~!(笑)」とバカにしたら、ションボリして消えて、それ以来、ムキムキどもが夢に出なくなりました。
何故、私の夢に私のタイプじゃないムキムキどもが出てきたのか、何処に行ったのかは、謎のままです。
いつかはアナタの夢の中へ行くかも知れません。
「トイレに、おっさんが出るんだよ」
「なぁ、おっさんが居るか、ちょっと見てくれよ」
「自分好みの美少年を見繕ってる盗撮野郎や、美少年じゃなくても『可愛がって』あげようと待ち構えてるガチムキ兄貴なら、迷わず警察に通報してください。ダラダラ歩く普通のゾンビのおっさんだったら、なんとかしますけど」
「ゾンビよりガチムキのほうが怖えぇよ!! つか、普通? のゾンビなら『なんとか』すんのかよ!?」
「ゾンビを『普通』とか『普通じゃない』とかで区別してんのかよ……マジでなんとかしそうで、ヤベェな、お前」
「怖いとかヤバいとかって、いくら先輩でも失礼ですよ。校内に無断で入り込んでる時点で、生きてようが死んでようが、ヤバい相手だと仮定して対策を考えるでしょう? 安全第一、命も大事にですよ」
「黒木……マジでお前、先輩相手でも容赦ねぇな」
「先輩なら『先輩』らしく、礼節を以て、後輩の手本となるべき行動を取るものでしょう? そもそも、何か頼み事をする初対面の相手に対して、『お前』と呼ぶのは、誰が相手であろうと失礼だと思いますよ? 酒井!」
「は、ハイッ!?」
「酒井、報連相は? いきなり連れて来て、『ハイ、サヨナラ、ヨロシク』って、そんなことしないよねぇぇ? 無責任だよねぇぇ?」
「は、ハイ、その通りでございやす旦那!」
「丁稚かっ! 誰が旦那やねん!」
花さん、初っ端から、不機嫌増しマシ塩対応であった―――
◆ ◇ ◇ ◇ ◇
新聞部の3年、朝山と田川、そして酒井の三人は、腕組みして仁王立ちする花さんの据わった目に睨まれ、混乱していた。
(ちょっ、酒井! お前、「おとなしいやつ」って言ってたじゃねぇか! どうなってんだよ!)
(そうだよ! なんだよあいつ、なんであんな妙に迫力あんだよ!?)
(だから俺は言ったじゃないッスか! なんか妙に胆が据わってるから、不良のヤツらや先生が相手でも『普通』だって!)
((アレが『普通』なわけねぇよ!))
(知らねぇッスよ! 俺とは別のクラスで顔見知り程度だって言ったッスよ!? 先走って突撃したのは先輩らですからね! 俺はちゃんと止めたんスから!)
三人は小声で揉めていたが――
「ちょっといいですか?」
「「「!?!?!?」」」
放置されたままだった花さんの、さっきより低くなった声に、三人は飛び上がるほど驚く。
「な、なに、黒木……?」
「先輩たちの『普通の女子』の基準には興味無いですけど、酒井が止めたのに、おとなしい女子相手なら、多少の無理でも通せるだろうと突撃したのは、先輩たちの独断だったんですねぇ。なるほど」
「「「………………え?」」」
「良かったですよ、突撃されたのが妙に迫力のある私で。『普通の女子』なら、上級生、しかも無駄にデカい男子二人から、いきなり『男子トイレに行って見てこい』なんて捲し立てられたら……泣きますよ?」
「「「………………」」」
「……で? 取りあえず、相談っぽいので話は聞きますが、その前に言うことがありますよねぇ?」
「「「え?」」」
「『いきなり突撃して、ごめんなさい』は? 『ごめんなさい』! 無駄にデカい3年が二人も廊下に居て騒いでたら、何事があったのかと、みんなが不安になるでしょうが!」
「ご、ごめん……」
「「ごめんな……」」
「ごめんで済んだら警察要らん! こっちから言わないと謝れないなんて、まったく! これだから無駄にデカい男は考えが足らんって言われるのに……次、私や私の周りで同じようなことをやらかしたら……怒りますよ?」
(((これで怒ってないのかよ!?)))
地味モブな花さんの啖呵にビビっていた三人と、周囲に集まっていた野次馬たちの心は、この時、ひとつになっていた――
((((((オカンに怒られてるみたいで、居たたまれねぇ!!))))))、と―――
◇ ◆ ◇ ◇ ◇
……おわかりだろうか?
昼休みで騒がしい廊下――
騒がしい中で、三人が小声で揉めていた会話――
その内容をしっかり聞いていた花さん――
そう、花さんは、とんでもなく耳が良いのだ……
◇ ◇ ◆ ◇ ◇
「黒木っちゃん、お疲れー」
「ワタシは見た」
「あ"ぁ~~、疲れた~~、ちょ~めんどくせぇ~~、家政婦に見られてる~~」
「さすが黒木、よくぞ見破った」
「あ、そっち? M○TAの懐かCMのほうだと思ったよ」
「黒木二等兵、膝に任務を受けてしまったであります!」
「いや、黒木っちゃんが二等兵だったら、サンダース軍曹の立場がないよ」
「サンダース軍曹と比べるなんて、烏滸がましいよ!」
「ハート中尉なら」
「ガチムキおっさんと比べないで!」
花さん、意外と余裕そうである。
◇ ◇ ◇ ◆ ◇
「黒木、行くの?」
「気になるし、行ってくるよ。今じゃないけど」
「I' ll be back!」
「黒木~、come ba~ck!」
「……あ、どっちも死んじゃうから却下」
「あ、本当だ、私も却下」
「いやいや、Tー1000は溶鉱炉で殉職だけど、シェーンは町から去っただけで生きてるよ」
「「えっ!?」」
「映画のラストシーン勘違いベスト10に入ってるよ。あのセリフの前に、セリフを叫んでる少年と会話してるんだから、記憶違いするのが不思議なんよね~」
「良かった、額を撃ち抜かれたシェーンはいないのか」
「良かった、縛り首になったシェーンはいないのか」
「シェーンは賞金首じゃないから、亡き者にしないの!」
「「は~い」」
「それにしても、男子トイレに『出る』のを確認するのがな~、モラルがな~」
「いつも通りにステルスモードで潜入すれば?」
「それが出来れば楽なんだけど、私の『隠密』さんは、狭い場所に向いてないのよ」
「こんな時は、ダンボール箱を装備。敵を簡単に暗殺できる」
「「小さいおじさん、暗殺しないで!?」」
「じゃあ、天井に穴空けて吊り下がるやつ」
「「 Impossible な Mission!?」」
花さんに期待しすぎな、山上さんであった―――
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
―― 仮定『小さいおじさん小人説』なら、男子トイレから出てこない・出られないことはないはず。
―― そうであるならば、隣の女子トイレにも『来れる』はず。
―― 『小さいおじさん妖精説』を採用するなら、光りながら浮く能力があるはず。
―― 窓に誘き寄せれば、なんとか見られるかな?
「…………よし、なんとかなりそう。準備次第、明日、ちょっと仕掛けてみるわ」
「仕掛けってことは、罠。トラップか」
「トラップ? ネズミ捕り機で、小さいおじさんが大事故に」
「仲良くケンカする猫とネズミのアニメで、チーズ乗せてるヤツだったら、大事故どころか大惨事に」
「「小さいおじさん暗殺事件?」」
「暗殺する仕掛けじゃないから! それに嫌だよ、ネズミ捕り機で潰れかけてる小さいおじさんを救助活動するなんて」
「あ~、さすがに重傷のおじさんをスルーできないね」
「とりあえず絆創膏貼っとけば大丈夫じゃないかな」
「「どっちでもいいから見る!」」
「傷だらけのおじさん見るんかいっ!」
JKは、おじさんに対して情け容赦ないことがあるのだ―――
続く!
ムキムキ好きの後輩女子が「夢でも、触れるムキムキが待ってるなんて、羨ましいっ!!ムキムキが自ら寄ってくる罠とか呪文とかないんですかっ!?」と、涙目でキレ気味に詰め寄ってきて、ポカポカ叩かれたのが可愛かったです(ほっこり)




