5・濡れ髪 ふたりめ
【注意!】髪の毛フェチ野郎が出てきます(すぐ退場)と、ヘビの話(登場は無し)
バカと変態は死んでも治らないのだ……(遠い目)
今回の花さん、ちょびっと怒ってます(変態が気持ち悪いので)
「それにしても、髪フェチ野郎が多くて嫌になるわ……」
「自分の髪の毛 触ってたらいいのにね~」
「ロン毛じゃないと満足できないとか?」
「自分が育てたロン毛で満足してればいいのに」
「でも、男でロン毛って、似合わないと最悪っしょ!」
「自分では物凄く似合ってるって思ってるんじゃないかな? 賢そうに見えるとか。ほら、あれ、なんだっけ、髪の毛を筆代わりにして、黒板に『ハイル』って書くやつ」
「「ハイル?」」
「うん、『ハイル』って書いて、なんかいい感じのことを言う、昔のドラマかなんか」
「『ハイル』って、どんな字?」
「二人とも知ってるはずだよ~、これ」
ナナコが書いた字を見た花さんとイマちゃんは、
「「ナナコ、あのドラマのは『入る』と違う! 『人』や!」」
激しくツッコミを入れた。
◆ ◇ ◇ ◇ ◇
実は花さん、髪の毛フェチ(迷惑霊)と対峙するのは、相田さんの件で2度目であった。
1度目の時は、突発的だったとはいえ、偶然が重なり、早急な対処が出来たため、事なきを得た。
今回は、その話を読んで頂こうと思う。
◇ ◆ ◇ ◇ ◇
「黒木~! たまご食べる~?」
「食べる~! って、まさか生と違うよね!?」
「ふっふっふっ、そのまさかの生を……茹でたやつです!(笑)」
「紛らわしいよ!」
「塩は~?」
「……あるよ。はっ○ったっの!塩!」
「伯○の塩、ビンごと持って来たんかい……」
「『あるよ』のマスター、スルーされてる~(笑) 何個あるの?」
「オカンの田舎からムッチャ送って来たんだけど『なるだけ早く食べてね』って手紙入ってたんよ。で、とりあえず20個茹でて、10個持ってきた!(笑)」
「鍋で茹でられし20個の王子から、選ばれし10個の王子が今、ここに」
「イマちゃんのお昼は、今日からゆで王子だけに」
「丸飲みはヤメてね」
「せめて人間らしく」
「ちょっと! さっきから『玉子』を『王子』って言ってるし! 丸飲みって、ヘビとちゃうわ!」
「そういえば黒木~、ヘビって卵を丸飲みで食べるって聞くけど、具体的にどうやるの? アゴ外れないの?」
「あいかわらず、ナナコの質問は唐突やね……」
「解説しよう! ヘビは」
突然会話を止めた花さんは、緊張した顔でグルッと後ろを振り向き、目を見開いて、廊下の先を見詰める。
瞬きを忘れたかのように、ある一点を見詰めていた花さんは「なんだアイツ、何してんだ」と呟いたと思うと、「イマちゃん!! 塩!! 早く!!」と右手を突き出す。
理由は何も聞かず「はいよ!」とイマちゃんが渡す塩のビンを鷲掴み、花さんは朝の生徒たちで込み合う廊下を縫うように駆け出した。
◇ ◇ ◆ ◇ ◇
登校した友人たちと廊下で喋っていた飯島マコは、突然の寒気と眩暈に襲われ、今まで体験したことのない気持ちの悪さに、倒れることも気絶することもできず、口を押え、ふらつきながら立っているだけで精一杯になっていた。
マコの友人たちは、青白い顔でふらつくマコの急変にどうしていいかオロオロする。
「マコぉ!?」
「いやぁ! しっかりしてぇ!」
「なんで!? なんで!?」
マコ本人も、マコの友人たちも気付いてなかったが、マコの長い髪が毛先からゆっくりと濡れていき、廊下の床に、ぽたり、ぽたり、と滴を落とし始めていた。
◇ ◇ ◇ ◆ ◇
廊下の人込みを縫うように駆け抜けた花さんは、青白い顔でふらつく女子生徒の後ろで急停止し、走る間に左手へ持ち替えていた塩のビンから振り出した塩を右手に握る。
その握った拳で、女子生徒の後ろの、誰も居ない空間の一点を狙って、思いきり殴りつける!
「なにしとんじゃボケェ!!」
―― ぶびゃっ!
―― ボンッ!
花さんが拳を振り抜くと同時に、ナニかが潰れたような声と、近くの窓ガラスにナニかが当たった音がした。
そんな些細な事には構わず、ふらつきながらしゃがみこんだ女子生徒に「ちょっとゴメンね」と声をかけた花さんは、女子生徒の濡れた髪の毛先に塩を振りかけ、手の平で挟むようにパンパンと叩く。
「う"~~、私の手だと『圧力』が足りない……」
「黒木~、どうにかなった~?」
「何が足りんの?」
「おおっ! イマちゃん良いところに来た! こんなふうに強めに叩いて!」
「なんかわからんけど、よしきた!」
―― パァンッ! パァンッ! パァンッ!
花さんに代わり、女子生徒の髪の毛先を手の平で挟んで叩くイマちゃん。
叩くたびに物凄い音がしているが、仕方がない。
イマちゃんの握力は、男子高校生の平均値より上なのだ。
鍛えても握力が上がらない花さんが、「くっ……! 無駄な握力、一割寄越せ!」と呟くのも仕方がない。
イマちゃんには5回ほど叩いてもらったところで止めてもらい、花さんは女子生徒の様子を見ながら体調を尋ねる。
「どう? スッとした?」
「う、うん、なにがなんだかわかんないけど、急にスーッとした」
「よし、顔色も戻ったし、もう大丈夫」
「「「マコぉ~~!! よかったぁ~~!!」」」
「ふぃ~~、間に合って良かった! イマちゃんありがとね、助かったわ」
「え、あんなのでいいの? なんかわからんけど、良かったね」
「黒木~、解説~」
「ん、ちょい待ち。…………よし、キッチリ逝ったな。一件落着! 解説は昼休みに詳しく、ね」
「わかった~」
―― 花さんがこのような『不思議な言動』をしている時、周囲では大騒ぎになっているのでは? と心配される人がおられると思いますが、何故か、ほとんど注目されないのです。
今回なら、イマちゃんから塩を借りるため叫んでから、女子生徒に「大丈夫」と声をかけるまで。
まるで、興味本位で近寄ってきて、取り返しの利かない邪魔をする者たちから、目隠しをするように……
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
「へ~~、アゴを外すのが得意なのね~」
「いや、得意って言うより、特技? そういう生態だからね。丸飲みした卵の殻は、後で口から出すんよ」
「イマちゃんもゆで玉子の殻はちゃんと出してね」
「殻ごと食べないから! 剥いてるから!」
昼休みにゆで玉子を食べながら、ヘビの捕食方法で盛り上がる花さんたち。
さすがJK、メンタル最強である。
「それで、黒木がブッ飛ばしたヤツって、塩が弱点だったの? ナメクジみたいやね」
「ヒイィッッ!! ヤツは滅びろ!! バ○ス!!」
「ナナコは本当にナメクジがダメだね……『ド○ゴンボール集めたら存在を消す』って言ってたし」
「『平気にしておくれ~』だと、恐怖の記憶が残ってるのに、ナメクジが存在したままだから、滅ぼした後で記憶も消したいって」
「「ドラゴ○ボール、2回集めないとダメやん」」
「ナナコは復活するまで置いといて。さっきのヤツね、女の子の長い髪の毛が大好きな変態なんよ。しかも、どこかで溺れた後にフラフラしてたヤツ」
「え…………溺れたドゲザえもんのヤツだから濡れてて、塩が効いたの?」
「ドザえもんね。濡れてたのは、たぶん。塩はね~~、あ~~~、なんて言ったらいいのかな……殺虫剤的な?」
「害虫かっ! あ、害虫やね、『悪い虫』って言うし」
「そうそう。それにしても急激に体調悪くなるほど相性最悪なんだもん、あの子が無事で良かったわ~」
「良かったよね~。ところで、どこにブッ飛ばしたの?」
「え、霊園。今日『友引』だけど、お葬式されてることもあるし、ついでに逝くかな? って期待してたけど、上手くいって良かったよ」
「溺れた悪いヤツだから、ウォータースライダーみたいに、ちゅるんっと吸い込まれたのかな?(笑)」
「……あの世逝きエクスプレス444号」
「あ、ナナコ復活」
「無料で乗れる地獄特急なんて、ヤツには贅沢。燃える荷車で強制連行よ」
「「ヤバい『ド○ドナ』だ!」」
「黒木も指から不思議な力の弾が撃てればいいのに」
「霊銃かっ!」
「ドン! って言ったら空気の砲丸が出たらいいのに」
「空気砲かっ!」
「「目からビームは?」」
「目からビームは熱そうだから嫌だよっ!」