4・濡れ髪
「あんな娘といいな、デュフフ……」
「キモッ、滅!」
「ギャアァァーー!!」
(゜Д ;;::;::………
ストーカー、ダメ、絶対。
「おはよー」
「おはよう、はい、ボ○タン飴」
「いきなり朝からボンタ○飴かいっ!」
「おはよ~、あ、いいの食べてる、ちょーだーい」
「おはよう、はいよ」
「おはようナナコ。さっき転けそうになってなかった?」
「もぎゅもぎゅ……甘~い、うん、なんか廊下、濡れてたよ」
「ここ何日も晴れてるのに……イタズラかね?」
「なんだろね?」
「もぎゅもぎゅ」
◆ ◇ ◇ ◇ ◇
相も変わらず、アヤシイ相談が舞い込んで来る、地味モブJK黒木 花さん。
そのうち『ツチノコを捕まえたい!どこに住んでる?』とか、『UFOを呼んで!』とか、『落ち武者と写真撮りたい!』とか、アホ男子どもからアホな相談されるぞ。
「地味モブって、いったい……」
「わぁすごい黒木! 頭の所だけマンガみたいに縦線になってるよ!」
「えー、ナナコいいなぁ。私は見えないもん」
「ヘイ、お嬢さんたち。ちょっと静かにしようか」
「「はーい」」
◇ (||||゜_゜) ◇ ◇ ◇
今回の相談は、花さんの友人・イマちゃんのクラスの相田さん。
腰まで伸ばしたストレートの黒髪が綺麗な女子だ。
相田さんは、約2週間前から、背後に誰かが立っている気配を感じ、振り返っても誰も居ないことが度々あり、周りの友人たちに確認してもらうが、誰も居ない。
ここ数日は特に酷く、友人たちに挟まれた真ん中に並んでいても気配を感じ、更に首筋や後頭部に息を吹き掛けられるような感触がして、気持ち悪くて堪らないのだと言う。
なぜか、座っている時と、歩いたり自転車に乗っている時、自宅に居る時には、全く気配を感じないそうだ。
「……その鼻息みたいなのって、首の後ろに集中してるんだよね? 真後ろじゃなくて、ちょっと上から……斜め上からじゃない?」
「……あ、そうそう! ちょっと上から当たってるよ!」
「2週間前か~、…………相田さんって、アウトドア派?」
「へ? アウトドアって、キャンプとかの? ないない! あたしん家はみんな、夏休みに日帰りで海に行くだけでもクタクタなんだよ? 弟も友だちに『カメ捕り行こう!』って誘われても、『怖いからお姉ちゃんも来て! お願い!』って頼んでくるんだもん(笑)」
「甘える弟、カワイイよね~♪」
「私も弟ほしかったな~」
「ヘイ、お二人さん、お静かに」
「「はーい」」
◇ ◇ ◆ ◇ ◇
う~~ん、と小さく唸りながら椅子の背凭れに寄り掛かり、やや上を見ながら、指先でアゴをもにもに揉む花さん。
一見すると気怠げで眠そうに目を細めて、『面倒は嫌だ』感が半端なく漂っているが、アヤシイことに対する『解決法』を模索中なのだと、なんとなく解っているイマちゃんとナナコは特に気にすることもなく、静かにしていた。
「…………うん、プロにお任せするか。ところで相田さん」
「ふぇ!? はい!」
「弟くんと亀捕りで近くの池に行った時、弟くんの友だち以外に誰か居た?」
「え? 誰も居ないよ」
「亀捕りに行った後、『危ないから行ったらダメ』って注意されて、今は池の側に行けなくなってるよね」
「え、あ、うん、そうだよ……え、なんで知ってるの?」
「あの日、無くしたものは、絶対に探しに行かないで。その無くしたものと同じもので、新しいのがあるから、なるだけ早く、受け取りに行って」
◇ ◇ ◇ ◆ ◇
「このボ○タン飴のさ~、『包んでる紙みたいなのって何?』って、親とか周りの大人に聞いても、なーんか毎回タイミングが悪くって教えてもらえなくてさ~、高校の受験の1週間くらい前に初めて『オブラート』だって知ったんよね~。薬箱に入ってたけど丸い缶だから別物だと勘違いしてたわ~」
「あ~~わかる~。なんか食べられるって言われてもわかんなくて、ボンタ○飴からチミチミ取った後、諦めて食べてたもん」
「諦めるよね~。オブラートが薬箱に入ってたって、何に使うの?」
「粉薬を包んで飲み込みやすくするらしいよ? 余計に喉に詰まりそうだけどね」
「喉に詰まったら、優しさで包んだのが台無しに!」
「なんてこった!バフ○リンさんの優しさが半分に!」
「いや、バファ○ンさんはオブラートに包まなくても飲めるからね!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
あれから2日――――
背後の謎の気配と鼻息に悩まされていた相田さんは、スッキリとした気分で過ごしていた。
何故か弟たちと池に行ってから、友だちと立ち話をしていると、いつの間にか『足の後ろ』の床や地面にできる『小さな水たまり』が、あの気配と一緒に無くなったのが不思議だったが、自分には解らないことなので、気にしないことにした。
(それにしても、『なんか変なことは、黒木さんに相談したらなんとかなる』って本当だったな~。途中、ちょっと怖かったけど、ちゃんと説明してくれたし。お祖母ちゃんのお土産のお饅頭、後で渡さなくちゃ♪)
相田さんの自転車のカギには、祖母から受け取った新しい不動尊の御守りが付けられていた。
「仏様の仲間なのに、悪いヤツをやっつけるの? 『懲らしめてやりなさい』じゃないの?」
「うん、お不動様って、絶対に捕まえて逃がさない凄いロープと、剣と炎で『成敗!』して下さるのよ」
「ほぇ~、じゃあ、あの髪フェチ変態ストーカー野郎のドゲザえもんは、股と尻をブッ刺されてから、真っ黒黒助になるまで焼かれたのか~。私も見たかったな~」
「ナナコは時々、ヤバい子になるね……ドゲザえもん?」
「本人は自覚無いからヤバいねぇ……そのうち教えなきゃ。ドザえもん、ね」
「ねぇねぇ、黒木~。クソカスフェチストーカー野郎って、チ●コをチョンパしたの? それとも細切れ? 尻の穴を先に焼いたの? どうだった?」
「どうだったって、私が知ってるワケないでしょうがっ! あの世に強制連行されることしか知らん! それから言い方ぁー! 私がヤったみたいに言うなぁー! もっと全力でオブラートに包んでぇー!」
花さん「ストーカーと霊の駆除は美化委員の仕事じゃないのに~!」
イマちゃん「黒木だけの仕事じゃない?」
ナナコ「うん、黒木が専属担当だね」
「「霊ってゴミ扱いでしょ?」」
花さん「風紀委員のヤツらは『朝の挨拶活動』以外も働けぇーっ!」