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私は勇者になるはずだった  作者: 大木戸いずみ


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99 ヴィナス・ジェガナ 十八歳

 エルヴィがいない毎日は空っぽで、モノクロだった。

 味気ない日々を送っている。彼女の存在が僕の世界を彩っていのだと改めて気づいた。

 彼女が幸せにこの世界で生きていけるようにするだけ。そのために、僕は生きている。王子として失格かもしれない。

 国民のためではなく、たった一人の女の子のために平和な世界を築く。

『こんにちは』

 初めて森でエルヴィと出会った時のことを思い出す。

 彼女はそう言って無邪気に笑い、僕を見るなり『おねえちゃん、冒険者の仲間にいれてあげる』と言ったのだ。

 その言葉の意味がよく分からなかったが、僕は彼女の仲間に加わった。たった二人で森の中を冒険した。僕はある程度この森のことについては把握していたが、彼女にとっては未知の世界だっただろう。

 素直に感情を表して、楽しそうに僕と話す小さな女の子。神秘的なオレンジ色の目が特徴的で、とても可愛かった。

 腹の内を見せない大人たちに囲まれた息苦しい世界で生きていた僕にとって、彼女との時間はかけがえのないものだった。

 だから 、僕はあえて彼女が何者かを悟らないようにしてたし、探らないようにしてた。

 オレンジ色の瞳は珍しかったが、突然変異なのだと自分の中で納得させていた。お互いに何者でもなくいられるのが心地良かった。

「殿下、準備が整いました」

 過去のことを思い返していると、サラの声が耳に響いた。

 僕は今日、特別に貴族議会に参加する。重厚で厳格な扉の前に正装で立ち、扉が開くのを待った。

 内容はエルヴィ・ケーレスについて。

 安心して、エルヴィ。君を守るためなら、僕はなんだってする。

 


「殿下お疲れ様でした」

 書斎に戻るなり髪を崩す僕にサラはそう言った。僕は小さくため息をつく。

 終わった……。

 エルヴィを勇者にして、言い伝えの少女だと公表する意向は完全に潰せた。僕の婚約者でなくなった以上、ただの勇者落ちの変わった令嬢だ。何者でもない。

 僕の意見になんとか過半数の投票を得ることができた。

「あの頭の固い連中を説得できて良かったよ」

「あれは説得というよりも、ほとんど脅しでしたが……」

「そう?」

「認めなきゃ、お前たちの悪事を全部追及するぞ、って遠回しに言っていましたよ」

「認めてもらわないと、僕がエルヴィと婚約を破棄した意味がないからね」

 僕がそう言うと、サラは黙った。

 サラは、エルヴィに「また花冠を作ってください」と言った時に彼女のことを思い出したらしい。昔、僕が一緒に遊んでいて、二人で必死に治療した女の子のことを。

 少しの間、沈黙が続いた後、サラは口を開いた。

「……まさかエルヴィ様がまさかずっと殿下の想い人の子だったなんて。……魔物を倒せたのも納得がいきます」

「まさか彼女が記憶を思い出すとはね」

 僕の魔法は完璧だった。それなのに、記憶を取り戻すなんて……。

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