95 エルヴィ・ケーレス 十六歳
『おねえちゃん! 今日も冒険者ごっこしよ!』
『いいよ』
『リーダーはエルね!』
『もちろん』
おねえちゃんはいつも優しかった。私の遊びに楽しそうに付き合ってくれる。
もちろん遊びに来れない日もあった。その時は事前に「明日は無理そう」と教えてくれる。私はわざわざ理由を聞いたりはしなかった。おねえちゃんおねえちゃんが遊びに来てくれるだけで嬉しかった。
そして、この日も私たちはいつも通り冒険者ごっこをしていた。
冒険者として未知なる道を開拓していくという遊びだ。まだ足を踏み入れたことのない遊び場を探していく。
躓いた時は毎度後ろからおねえちゃんが転ばないように支えてくれた。
『ねぇ、この先は行かない方がいいかも』
突然、おねえちゃんは足を止めて私の手を引く。
いつもならどこにでも私に付いてきてくれるのに、と私はおねえちゃんの方を振り向いて、首を傾げた。
『……どうして?』
『嫌な予感がする』
『嫌な予感? そんなものは』
私が前を振り向いた瞬間だった。目の前に魔物がいた。
飢えたエオザルが一匹、涎を垂らして、私たちを見ていた。
エオザルは私と同じぐらいの背丈で、その身体は焦げたような真っ黒い毛にに覆われている。そして、彼らの持つ爪に引っかかれた部分は燃えて大火傷を負う。魔物の中では珍しく、仲間のために、己の体を燃やして自死することもある。
エオザルが放つ魔力の重圧に押しつぶされて、私は動けなくなった。悲鳴すら上げることができなかった。
おねえちゃんが即座に私の手を取り、全力疾走をした。私はなにがなんだか分からずに必死におねえちゃんについていった。当時の私には『魔物』という存在は全く身近ではなかった。
私たちはエオザルの死角になる茂みへと身を潜めた。
死にたくない、怖い、という恐怖の感情と共に、お姉ちゃんを守らないと、という気持ちが生まれた。
幸いエオザルは足が遅い生き物だ。だが、嗅覚に優れている。私たちがどこに隠れているかは分かっていた。
ゆっくりと着実に一歩ずつこっちへと近づいてきていた。
来ないで、来ないで、とずっと心の中で念じる。そんな中、ふと私の手を握っているおねえちゃんの手が微かに震えていることが分かった。
…………私が冒険者ごっこをしようなんて言ったせいだ。その時、私はそう思った。
守らなきゃ。勇気を出して、大好きなお姉ちゃんを助けないと!
『エル、行ってくる』
私はそう言って、茂みから出ようとしたが、すぐにおねえちゃんにすごい力で引き戻された。
『待って、危ない!!』
『おねえちゃんはここにいて』
おねえちゃんは首を激しく横に振った。
『行っちゃだめだよ。君一人であの怪物に勝てっこない。一緒に逃げよう』
『誰かが戦わなくちゃ』
私は恐怖を抑え込んで、気丈に振舞った。自分と同じ大きさぐらいの怪物は倒せると思っていた。
『……どうして君はそんなにも強いの』
『おねえちゃんを守りたい気持ちがエルの背中を押してくれるの』
私はその言葉と発したのと同時にエオザルへと立ち向かった。
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