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私は勇者になるはずだった  作者: 大木戸いずみ


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 突然、ヴィナスに呼び出されて王宮へと向かっている。 

 驚く間もなく、私は王宮からやってきた馬車に乗り込み、揺られている。

 …………急用って何だろう。

 思いつくのは、私とヴィナスが勝負する、ということだけだ。……けど、そんな個人的な勝負のためにわざわざ側近の従者をうちに寄越すとは思えない。

 私は目の前にいる座っているクールな赤髪の女性を見つめた。カイル団長の赤髪よりももっと暗く濃い。彼女は完璧な姿勢を保ったまま、目を伏せている。名はサラという。

 サラに「殿下がお呼びです」とだけ伝えられて、私は訳も分からずその言葉に従った。間違いなく王族の馬車だから、特殊詐欺とかではなさそう。

 サラがどういう人物なのかは全く把握していないけれど……。

「どうかいたしましたか?」

 私がじっとサラを観察していたことがバレた。彼女は私と目を合わせた。

「ヴィナス様が何用で私を呼んでいるのかだけ聞いてもいい?」

 屋敷に現れた時は「事情は聞くな」というオーラを放っていたから、聞けなかった。

 サラは少し間を置いて、「それはヴィナスから直接お聞きください」と静かに言った。サラの声質は女性にしては低いがハスキーないい声だ。

 彼女は更に「申し訳ございません」と付け足した。

 まぁ、教えてくれないだろうということはなんとなく分かっていた。

「悪い報告じゃないことを祈っとくわ」 

 私はそう言って、口角を小さく上げた。



「婚約破棄をしよう」

 ……悪い報告だった!! 

 なんと唐突なのだろう。あまりにも予期せぬ展開に私は思わず目を大きく見開いて固まり、言葉を失った。

 今、なんて……? コンヤクハキ? そんな展開は物語だけじゃないの?

 現実で婚約破棄をした令嬢なんて聞いたことがない。相手が亡くなった場合ぐらいだ。

 私は王宮の座り心地のいいソファに座りながら、頭を必死に回転させる。目の前に座っているヴィナスは表情を一つ変えることなく「すまない」とだけ呟いた。

 冷徹王子だ。……私には見せたことのない表情だった。

 ヴィナスの座っているソファの後ろで目を伏せているサラが立っていた。

 彼女は絶対に事情を知っていたはずだ。だから、屋敷に来た時に何も言わなかったのだろう。

 いや、そんなことよりも、どうしてこんな急に?

 混乱する頭を必死に整理しながら、私は「もしかして、他に好きな人でもできましたか?」とようやく言葉を口にした。 

 ヴィナスは「いや」と首を横に振る。

 …………何がどうなっているのかさっぱり分からない。

「勝手に婚約しておいて、今度は婚約破棄ですか?」

 だんだん怒りが湧いてきた。そんなに私を振り回して、ヴィナスは何がしたいの。

 私の強い口調にヴィナスは無表情のまま口を開いた。「ああ」とだけ。

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