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私は勇者になるはずだった  作者: 大木戸いずみ


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88 リーシャ・グラファン 十八歳

 気高く光り輝く宝石のように美しいトカゲを発見した。

 無知で幼かった私は好奇心でトカゲに触れてしまった。それが最悪な結果をもたらした。

 

 ダクトという魔物に私は首を噛まれて、顎から鎖骨の辺りまで灰色に染まり、石化した。瞬時に発した魔力で拡大を防ぎ、皮膚より内側への石化は止められた。

 そのおかげで私は今生きている。

 けれど、時々思う。本当に私は生きていてよかったの? って。

 あの時、死んだ方が良かったんじゃないかって考えてしまう日もある。それほど、世界は私に優しくなかった。

 私の皮膚が石化してからというもの、周囲の程度は一変した。幼い頃に付き合っていた貴族の友達は皆、私から離れていった。

 呪われている子だから、リーシャ・グラファンとは関わっちゃいけない。……そんな噂がたちまち流れて、私の人生は一気に窮屈になった。

 両親が唯一の味方だった。私が殻に閉じこもらなかったのは両親のおかげだろう。どんな姿になっても私たちの娘に変わりはない、と態度を変えたりはしなかった。

 だが、祖母は違った。もうこの世にいないけれど、鮮明に覚えている記憶が一つある。

 私を冷ややかな目で見下ろして、「綺麗な子だったのに、残念ね」と落胆していた。それ以降、祖母が怖くて近づけなかった。そして、ほどなくして亡くなった。 

 …………祖母が死んでも私は泣かなかった。

 すぐに私を蔑む目にはすぐに慣れた。そんな中、たった一人哀れみの目を私に向けた少年がいた。

「レグネル様はお元気ですか?」

 ふと、私はエルヴィ様にそう聞いた。

 エルヴィ様と今、うちの庭でお茶をしている。

 誰かが私に会いに家に来るのは本当に久しぶりのことだった。

 最初、舞踏会でエルヴィ様に声を掛けられた時、私の噂を知っていて興味本位で話しかけてきたのかと思ったが、彼女の様子を見ていると本当になにも知らないのだと思った。社交界にほとんど出たことのない彼女のことならあり得る。

 勇者になりたいという少女がいることは知っていた。

 エルヴィ・ケーレス、彼女のことは社交界でよく話題に上がっていた。勇者試験が近づいてくると、「もうすぐケーレス家から破門される」なんて噂も流れたりしていた。

 実際の彼女は、すごく綺麗な女の子だった。

 知性と意志の強さを宿した瞳に吸い込まれそうだった。エルヴィ様がそこに立っているだけで絵になっていた。そんな彼女が、まさか私に話しかけてくれるとは思いもしなかった。

「お兄様? 元気よ。……どうして?」

 私が突然レグネル様について聞いたから、エルヴィ様は不思議そうに首を傾げた。

「前回のパーティーでちゃんとご挨拶をできなかったので」

「ほっっんとうに気にしないで。むしろ、ごめんなさい。お兄様がいきなり現れて、そのまま帰っちゃって」

 うまく誤魔化すことができた。

 エルヴィ様は「なんか最近お兄様変なのよね。いつもの感じじゃないっていうか……」と小さくブツブツ呟いている。

 私はあのパーティーの日のことを思い出す。

 久しぶりにレグネル様と目が合った。最後に彼を見た目と同じだった。

 ……哀れみの目。

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