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それから、私たちは夕暮れ時になるまで喋り合った。
気づけば、すっかり私とリーシャは意気投合していた。お互いの波長が合ったのか、彼女との会話はとても心地よかった。
リーシャは魔法を学ぶことがとても好きで、日々魔法の練度を上げる研究をしているらしい。友達もいないから、家で研究ばかりしていると、かなり魔法の腕が上がったそう。
話を聞く限り、相当な実力者だと思う。
幼少期にダクトに噛まれてから、魔物についても調べるようになり、勇者試験の魔物分野に関しては満点を取れるほど詳しくなっている。
正直、女の子と話すのがこれほど楽しいとは思わなかった。
「エルヴィ様は全く噂と違う方。やっぱり、噂なんてあてにできませんね」
魔物の話を一通り終えると、リーシャはそう言って微笑んだ。
「私の噂? ……どんな噂なの!?」
私は目をキラキラさせながらリーシャにそう聞いた。
リーシャはちょっと困った表情を見せたが、すぐに教えてくれた。
「『令嬢であることをやめたケーレス家の変わり者』や、『勇者令嬢』なんて揶揄されているのを風の噂で耳にしたことがあります。今ではリヴァ殿下との婚約によって『勇者落ち妃』なんて……って、失礼しました」
勇者落ち妃は流石に失礼だと思ったのか、ハッとしたリーシャはその場で頭を下げる。
「謝らないで。私が知りたかっただけなんだから。それに私はなんとも思っていないし。……にしても、社交界はどうも好きになれない」
「同感です。私も社交界は苦手です。私は社交界一の嫌われ者ですし。……ただ、負けたくなくて社交界に顔を出していただけです」
「負けたくない?」
私はリーシャの言葉をオウム返しして、首を傾げる。彼女は「はい」と小さく頷いて、話を続けた。
「このまま私が引きこもりになってしまえば、皆の思うつぼだと思って戦うことにしたんです。誰一人私に声を掛けることもなく、コソコソと悪口ばかり。……けど、決して折れないでおこうって思ったんです。私のことを陥れようって無駄よ、って」
「めちゃくちゃかっこいいじゃない」
私は素直にそう口にした。
レグネルがリーシャは強いと言っていた意味が分かった気がする。確かに彼女は強い。いつも一人で戦場へと戦いにいっていたのだ。
敬意と称賛を込めて私は彼女に「おつかれさま」と口にした。次の瞬間、リーシャの表情が固まり、瞳が潤むのが分かった。静かに彼女の表情が崩れていく。
「これからは一人で戦わなくていい」
「……めちゃくちゃかっこいいのはエルヴィ様の方です」
リーシャの声が震えるのが分かった。そして、ゆっくりと彼女の瞳から一筋の雫が頬を伝った。
沈みゆく太陽に光るリーシャの涙はとても綺麗だった。




